「オデッセイ」を観た。
監督:リドリー・スコット
日本公開:2016年
主演はマット・デイモン。そう、天才役が世界一似合う彼だ。予告編から受ける事前の印象と良い意味で、全く違う映画だった。見終わった感想を一言で言うと「多幸感」。
感想&解説
この映画はいわゆる孤立サバイバルものだと思うが、そういったサバイバル映画と言うと絶望とか死の恐怖とかがテーマになりそうだが、この映画は真逆で、主人公が置かれてる状況から考えると、かなり楽天的な作風と言える。悲愴感はほとんど無し。ドナ・サマーやアバといった70年代ダンスミュージックが頻繁にかかる事も、そう感じる要因かなと思う。とにかく、この主人公が終始明るい。
どんなに厳しい状況に追い込まれても、困難な選択を迫られても、速攻で道を切り開き、クヨクヨしない。それが観ている観客にも伝播して、一緒にこの主人公を応援したくなるのだ。彼を取り巻くジェシカ・チャスティンやマイケル・ペーニャが演じる仲間たちも、あれだけ待ちわびた自分たちが地球に帰れる日が遅くなっても、マット・デイモンを助けるという判断にまったく迷いがない。従来の映画ならストーリーを牽引するような、利己的な理由で主人公を妨害したり暴走するという、いわゆる悪役が1人も出て来ないのだ。この手の映画では珍しい作りで新鮮だし、画期的だとも言える。
NASAと中国の描かれ方を含めて、人間賛歌全開で、創意工夫と世界が一つになれば不可能は無いというポジティブなメッセージがテーマだと思うが、これ位の方が今の暗い世相を考えるとちょうど良いのかもしれない。これをあの「エイリアン」や「ブレードランナー」のリドリー・スコットが作ったというのは面白いと思う。近作だと「悪の法則」という真逆のベクトルの傑作があったし、「プロメテウス」というかなりアート志向の強い作品を作ったり、齢70代後半とは思えない尖がった作品が続いていたリドリー・スコットだが、何かプライベートで良い事があったのかと訝しんでしまう位に、あまりにピースフルな映画であった。とにかく映画が終わった後、全員ニコニコして劇場を後に出来る娯楽作品。あとデヴィッド・ボウイ「スターマン」の使い方も秀逸かと。
更に特筆すべきは、エンドロールの曲と映像がシンクロする気持ち良さ。若い世代にも、「諦めない心」と「人間の可能性」が伝播していく事を示唆する場面に続いて、あのエンドロールだからもう多幸感が半端じゃない。辛い日常を楽しい気分にしてくれるのも、映画の大事な役目だと思う。
採点:8.5(10点満点)