「バクマン。」を観た。
監督:大根仁
公開:2015年
久しぶりに実写邦画を観た。すごく評判が良くて、しかもテーマが個人的に好みっぽかったので気になっていた作品だった。ちなみに原作は未読である。
あらすじ
なんとなく毎日を過ごしていた高校生の真城最高(佐藤健)は、その画力を認められ漫画原作家を志す高木秋人(神木隆之介)から一緒に漫画家になろうと誘われる。当初は拒否していたものの声優志望のクラスメート亜豆美保への恋心をきっかけに、2人はプロの漫画家になることを決意。コンビを組んだ最高と秋人は週刊少年ジャンプ連載という大きな目標に向けて、作品を描き始める。
感想&解説
「何かを作り出している人」を見るのが好きだ。それは絵でも写真でも、文章でも音楽でも盆栽でも何でも良い。そして、それはプロじゃなくてアマチュアでも良い。自分のクリエイティビティを発揮して、創意工夫をしながら何かを作る事は、人間に与えられた最高の能力だと思う。今回の主人公は2人の高校生の設定だが、僕は映画を観ている間中、彼らが本当に羨ましく、更に尊敬の眼差しを向けて画面を見ていた。
自分の本当に好きなもの、人生を賭けて取り組めるものを見つけた人は、この世の中でどれ位いるだろう。しかも、それがプロの世界で認められる才能を伴う事なんて、本当に稀だろう。今回の主人公は、その稀な人達だ。高校生で、漫画を描くという人生の目標を発見出来た彼らは夏休みの間、作品制作に没頭する。そして、夏休み最終日に週刊少年ジャンプの編集部にそれを持ち込む。
当然、まだ2ヶ月しか漫画を描いていない高校生の作品なのだから、けんもほろろに突き返されると思いきや、いきなりアドバイスをもらいながら、リテイクを依頼され、編集者の連絡先を教えて貰える。いわゆるプロに認められるのだ。この時点で、予告編から受けた印象の「若者達が自分達の夢を掴む為に、人生の荒波を葛藤しながら進む作品」では無く、「恐ろしい才能を持った人間達が、更なる高みを目指して新しいステージに上がる為に、どう生きるのか」を描く作品だという事が解る。
この作品の骨格は、高校生がボロボロになりながらも必死に漫画を描いてのし上がっていくという地味な話だが、何故か観ていてとても気持ちが良い。それは、才能がある人間がモノを発想したり作り出す姿を観ているだけで、自分も物凄い”全能感”に捉われるからだ。自分も一緒に漫画作りに参加している感覚になる。それがこの作品の根底に流れる快感の理由な気がする。もちろん、劇中のキャラクター達はもがき、苦しみながら漫画を産み出しているが、本来、それは僕を含む一般人には逆立ちしたって到達出来ない世界だ。それを仮にも疑似体験出来る事が、途轍もないこの映画の推進力となっている。
だが、作り続ける事の過酷さやプレッシャーもこの作品はしっかり描く。そして、この「週刊少年ジャンプ」をテーマに描かれた作品でそれらを打破するのは、やはり努力と仲間との友情、ついでに魅力的な悪役だ。漫画をテーマにしている映画だけあり、そこは見事なメタ構造を見せる。更に映画の画作りとしては、「漫画を描く」という地味な画を、映画的なVFXでアクションとしてしっかりと魅せていた。特に漫画のコマ割を表現した、カットの数々が面白い。最後のエンドロールもアイデア勝ちだろう。本当にこれらの創意工夫は素晴らしいと思う。
彼らが文字通り「死ぬ思い」で絞り出している作品が、時には子供達に、時には通勤中のサラリーマンに、時には工事現場で休憩している職人達に、一瞬の楽しみや娯楽を提供している事を示すシーンがある。主人公2人はある意味、ライバルとのランキング争いや連載の継続という自分達の理由の為に、漫画を描いている様に描かれるが、実はその先には貴重な時間とお金を払って、それを読んでくれる読者がいる事をセリフだけでは無く、映像で示している。本来は彼らが起死回生のアイデアを投入した事が、読者に受け入れられた事を表現しているシーンだが、作り手の先には「読者」がいるという基本的な構図を描く、こういうシーンがあると映画は立体感を増す。
役者陣もとても良かった。佐藤健やリリーフランキー、山田孝之、そして工藤官九郎など、漫画業界に住む人間を実在感をもって描いていたし、とても共感出来た。才能ある若者が死に物狂いで努力する姿に、大人達も影響を受けて、きっと明日からの仕事も頑張ろうと思える、素晴らしい作品だと思う。
採点:8.0(10点満点)