「AMY エイミー」を観た。
監督:アシフ・カパディア
日本公開:2016年
2011年に27歳の若さで亡くなった歌手エイミー・ワインハウスの半生を描いたドキュメンタリーを鑑賞。前回の「シング・ストリート」に続いて、音楽をテーマにした映画である。だがこの作品は観ている間、とても苦しい。これだけの才能がありながら、何故この天才シンガーは死ななければいけなかったのか、もっと新しい作品を聴きたかったという思いが駆け巡る。
感想&解説
劇場で改めて聴く、エイミー・ワインハウスの歌声は圧倒的だ。特にデビュー前の彼女が絞り出すボーカルには心を掴まれる。テストで、彼女がアコースティックギターの弾き語りをするシーンがあるのだが、曲の完成度も歌も十代の女の子が奏でているとはとても思えない。「本物の才能」というのをまざまざと見せ付けられる。だがそんな彼女の人生を狂わすのは、名声と男とドラッグである。今回の映画を観て初めて知ったのだが、このエイミー・ワインハウスというアーティストは、自分の実体験を完全にベースにして曲を作るらしい。それ故、その時の感情がモロに曲に表れる為、まさに魂を削って曲を作る。フィクションの歌詞では、彼女の歌は表現出来ないのである。
エイミー・ワインハウスは、愛に生きた人だ。本気で人を愛するが故に、愛した人に裏切られればもがき、苦しみ、そして二つの道のどちらかに自分を追い込む。一つはドラッグと酒、もう一つは音楽だ。彼女は愛していた2人の男達に傷付けられる。実の父親と夫である。破格の成功を収めたエイミーを食い物にして、自らも甘い汁を吸う事を生業とする2人の男たち。愛する男との絆を感じる一時の快楽の為、そしてその愛する男に裏切られた傷を癒す為、エキセントリックな彼女の言動に群がるマスコミや、娘を金ヅルとしてしか見ていない父親などの辛い現実から逃げる為、大量に摂取するドラッグやアルコール。
そんな状態から、自らを救う様に彼女は音楽を作る。僕たちが耳にする楽曲は、エイミー・ワインハウスが傷付けられ、のたうち回った後に絞り出された魂の欠片たちだ。だから、彼女の歌は聴く者の心を揺さぶる。この作品は、哀しくて重い。だが映画を観た観客はきっと彼女の才能に驚かされるだろうし、この世に残したアルバム「FRANK」と「BACK TO BLACK」の2枚を改めて聴き直すだろう。そして、観客の記憶にエイミー・ワインハウスの楽曲は刷り込まれていく。彼女の功績が忘れ去られる事は無いのだ。個人的にエイミー・ワインハウスの楽曲で最も好きな曲は「TEARS DRY ON THEIR OWN」だ。この作品を観た後だと、更に胸に染みた。
採点:7.0(10点満点)