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映画「レッドタートル ある島の物語」ネタバレ感想&解説

レッドタートル ある島の物語」を観た。

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あのスタジオジブリ製作の長編映画最新作である。ただし監督は宮崎駿でも高畑勲でも、米林宏昌でもない。フランスの作家マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットが、高畑勲の助言を得ながら作りあげたアニメーション作品だ。そもそも「岸辺のふたり」という8分あまりの短編を観たジブリの名物プロデューサー鈴木敏夫が、その才能に驚き長編をオファーしたというのが発端らしい。この「岸辺のふたり」という作品は、現在もyoutubeで観れるので是非観ていただきたい。静かなトーンで親子の愛情を描いた素晴らしい作品だ。

 

監督:マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット

日本公開:2016年

 

感想&解説

さて、この「レッドタートル」の特徴を分かりやすく伝えるなら、「極めてスタジオジブリらしい前衛的な作品」である。「ジブリらしい」と書いたのは、世間のイメージとは違いスタジオジブリの作品は、特に「もののけ姫」以降、かなり作家主義アバンギャルドな作風が多く、いわゆる解りやすいエンタメ映画とは真逆の作品が多いからである。

 

その中でも突出しているのは、「崖の上のポニョ」と「かぐや姫の物語」のジブリ両巨頭監督の作品だ。特に「ポニョ」は世界観/ストーリー/キャラクターの全てが、ぶっ飛び過ぎている。あの映画のストーリーを、理路整然と説明出来る人は恐らくいないだろう。だが、あの映画の評価が高いのは「アニメーション」の本質である「画が動く気持ち良さ」をひたすら追求しているからだ。それは「かぐや姫の物語」も同じである。「ポニョ」が波乗りしながら宗助を追っかけてくるシーンや、「かぐや姫」ラストの月からのお迎えシーンにおける酩酊感は、只事では無い。ほとんど観るドラッグである。

 

今回の「レッドタートル」は、全編に亘ってセリフが無い。よって、この映画もひたすら画と動きで全てを表現する。そして、正直ストーリーの吸引力はかなり薄い。方向性は「岸辺のふたり」に極めて近いだろう。そういう意味では、まるで絵本の様なシンプルでありながらも特徴的なタッチの画面の中で、木々や波や生物が活き活きと動き、登場人物が遭遇する自然とのファンタジックな体験を、静かな気持ちで観る映画だ。そこは上記のジブリ作品とはコンセプトが違う。間違っても、子供が喜ぶ様なアニメ作品では無いので要注意だ。

 

そして、もう一つ特徴的なのはキャラクター造形である。日本のアニメキャラクターとは対称的な「目」の表現。スヌーピーにおけるチャーリー・ブラウン的と言えば通じるだろうか。黒丸二つで目を現していて、表情の細かい機微を表現するには全く向いていないキャラクターだ。よって、ほぼバストアップの止め画が無い。この事からも、とにかくアニメーション的な動きと構図で勝負する作品だという事が分かるだろう。

 

舞台は無人島で、登場キャラクターも極めて少ない。人間の原始的な生活と豊かな自然に癒されて、穏やかな気持ちで劇場を後に出来る作品だ。とにかくアートで上質な贅沢な時間を過ごせる。上映時間も81分と短かくて良い。ただひとつアドバイスするなら、この映画は寝不足の時は避けた方が良いかもしれない。気持ち良くなって目を閉じていたら、もうエンドクレジットだったという事態も十分あり得る。ご注意を。

採点:6.0(10点満点)

 

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