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映画「ダージリン急行」ネタバレ感想&解説 ウェス・アンダーソンが贈る、ゆったりインド・ロードムービー!

ダージリン急行」を観た。

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2014年「グランド・ブタペスト・ホテル」が日本でも大ヒットして、今や新作が待たれるアメリカ人監督として知名度を上げたウェス・アンダーソン監督の2008年作品。「ムーンライズ・キングダム」や「ロイヤル・テネンバウムズ」もかなり良い作品なので、まだ観てない方は是非。ただし、ウェス・アンダーソン監督作品は独特の世界観があり、合わない人には全く合わないのでご注意を。

 

監督:ウェス・アンダーソン

日本公開:2008年

 

あらすじ

長男フランシス、次男ピーター、三男ジャックのホイットマン3兄弟。彼らはフランシスの提案で、インド北西部を走るダージリン急行に乗り合わせた。旅の目的は、父の死をきっかけに1年ものあいだ絶交状態にあった兄弟の結束を再び取り戻すこと。バイク事故で瀕死の重傷を負い、奇跡の生還を果たしたばかりのフランシス。兄弟から父の遺品を独り占めしたと非難され、妊娠7ヵ月の妻アリスとも上手くいっていないピーター。そして、家族をネタに小説を書き上げたばかりのジャックは、失恋の痛手を引きずっていた。それぞれに問題を抱える3兄弟は、衝突しながらもインドの寺院を訪れたりしつつ、旅を続けている。そして、そんな彼らの傍らには常に大量の父親が残した旅行カバンがあった。

 

ある時、次の駅に着く前にダージリン急行は、切り替えを間違え迷子状態になってしまう。なんとか無事に動き出した列車だったが、三兄弟は飼っていたヘビが逃げ出した事により車掌の怒りに触れてしまい、降ろされてしまう。その夜三人は野宿をしながら、母からの手紙を読む。それには修道院で暮らしているが、今は会えないという内容であった。この旅は、兄弟で母親に会いに行くという目的があったのだ。

 

目的を失い気落ちして歩いていると、たくさんのトランクを引きながら道を行く三人は川で荷渡しをしている子供たちを見つける。すると、彼らが伝っている縄が切れてしまう。川の流れにのまれそうになる子供たちを助けようとする三人だったが、子供の1人がピーターと一緒に流されてしまい、亡くなってしまう。亡くなった子を抱いて子供たちの村を訪れた兄弟は、言葉が通じないながらも迎えられ、葬式に参加する事になる。白っぽい服に着替え白い花に飾られた三輪オートバイに乗った三人は車中で父親の葬式を思い出す。

 

そして、いよいよ帰国の為に空港に向かった三人だったが、やはり母親に合わないまま帰れないと土壇場で航空チケットを破り捨て、修道院まで会いに行く。そして、実際に父親の葬式に来なかった事などへの思いの丈を母親にぶちまける。母親は「この土地には自分を必要としている人々がいる。この美しい場所を楽しみなさい」と残し、次の日また彼らの前から姿を消してしまう。そして、全てを吹っ切って、旅を通して心が通じ合った三兄弟がまた新しい列車に飛び乗るところで映画は終わる。

 

 

感想&解説

本作「ダージリン急行」であるが、正直ウェス・アンダーソン監督の作品の中でも若干取っつき辛い作品かもしれない。基本はインドを舞台にしたロードムービーであり、父親の死をきっかけに、疎遠になっていた3人の兄弟がインドを旅をしながら絆を取り戻すストーリーだ。だが、特にストーリーを推進していく強力なフックがある訳では無く、ゆるい雰囲気の中で、しかもその場その場で兄弟達が行き当たりばったりに行動していくのを、ぼんやり眺める映画だと言える。

 

ストーリーも正直、支離滅裂と言って良いだろう。だが途中で命を救う子供たちと、死んでしまう子供。その死とそして終盤の母親との再会を通して、三人の兄弟は意識は変わっていく。また劇中に登場した脇役たちの人生の一場面が、流れる車窓と共に次々と現れるシーンは、この映画においては「列車=人生」を表現していると思う。そして、ラストで今までどこへ行くにも重くのしかかっていた「死んだ父親の荷物」を、全て捨てて飛び乗る新しい列車は、新しい彼らの人生そのものだ。この映画の見どころは、このラスト20分に詰め込まれていると思う。ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」や「ライフ・アクアティック」などに続き、家族というテーマを描き続けて来たウェス・アンダーソン監督の真骨頂と言って良いだろう。

 

 

また、この映画は音楽がとても良い。シタールの音色が心地良いBGMの合間に、突如THE KINKSのマイナーな曲がかかる。「Lola vs Powerman & Money-Go-Round」というアルバムに収録されている「This Time Tomorrow」「strangers」「powerman」の3曲だ。この1970年リリースのロッククラシックなアルバム曲と、ウェス・アンダーソンの映像美が相まって本当に素晴らしいシーンとなっている。こういった所に、この監督のセンスが現れている。

 

本作を観て気に入った方は、「グランド・ブタペスト・ホテル」「ロイヤル・テネンバウムズ」「ムーンライズ・キングダム」あたりも波長が近いので、きっと気にいると思う。ストーリーの推進力はとても弱い。だが青と緑、黄色ベースのとてもポップで小洒落た画面とインドの風景、そして素晴らしい音楽の融合により独特の個性的な作品になっていると思う。ウェス・アンダーソン監督作の中では、地味な作品だが不思議な魅力のある映画だった。

採点:5.0(10点満点)