「スプリット」を観た。
映画ファンとしては、M・ナイト・シャマランの最新作は避けて通れないという事で、早速鑑賞してきた。しかも、前作の「ヴィジット」が個人的にかなりお気に入りの一作だった事もあり、今作もかなりの期待感で臨んだが、さてどうであったか?今回は感想に完全ネタバレを含むのでご注意を。
監督:M・ナイト・シャマラン
出演:ジェームズ・マカヴォイ、アニャ・テイラージョイ
日本公開:2017年
あらすじ
女子高生ケイシーは、級友クレアのバースデー・パーティーに招かれ、その帰り、クレアの親友マルシアと共に家まで車で送ってもらうことになるが、それが悲劇の始まりだった。見知らぬ男が車に乗り込んできて3人は眠らされ、拉致される。目覚めると、そこは殺風景な密室。ドアを開けて入ってきた男は神経質な雰囲気を漂わせていた。どうすれば逃げられるのか?命の危険を感じる3人に、男は女性の洋服を着て女性のような口調で話したり、屈託なく9歳の少年の様に話しかけたりする。実は、その男ケビンは23人もの人格を持ち、DID<解離性同一性障害>という症状を患っていた。精神医学を専門とする女医フレッチャーを巻き込みながら、密室で3人の女子高生VS23人の人格の熾烈な攻防が繰り広げられる。そして遂に、禁断の“24人目”の人格「ビースト」が生まれようとしていた。
感想&解説
2時間、シャマラン作品を堪能したという満足感は得られる作品だと思う。この作品、最初のサスペンス感のあるトーンから、後半は違う方向に大きく舵を切る。具体的にはモンスターパニック映画である。シャマラン独特の奇妙な間とリズム感に、往年のジャンルムービーとしてのB級感が楽しめる方には、今作は堪らない一本だろう。23人の多重人格というテーマだが、実際には5〜6人の人格が入れ替わり、主人公の女子高生キャラと絡む事でストーリーは進んでいく。
特に9歳のヘドウィグの時が良い。カニエ・ウエストの曲に合わせてダンスするシーンのシュールさは「ヴィジット」を思い出させて、この映画の白眉と言えるし、ストーリーが大きく動く時はこのキャラが絡む時が多い。ジェームス・マカヴォイの舌ったらずの演技も含めて、良かったと思う。
また演出としても、誘拐された3人の女の子達の服を神経質な人格のデニスは「汚れた」という理由で脱がせていくが、だからといって特に乱暴されたりというシーンは無く、映画としてのサービスカットかなと思いきや、最後にストーリー的な伏線に結びつけるのは上手いと思ったし、終始不穏な空気とオフビートな笑いで、映画を引っ張るシャマランの演出力は流石だと思う。
正直オチの24人目の人格は、壁は登るわ、人を喰らうわ、銃で撃たれても平気だわの化け物設定の為、映画のトーンが急激に変わり「バイオハザード」化するので、この時点でノレない人が出てくるのは頷ける。だが、この作品で最も驚くのは、映画の本当のラストカットに、シャマラン監督の2001年日本公開の「アンブレイカブル」主人公デビッド・ダン(ブルース・ウィリス)が登場する事である。なんと「スプリット」は「アンブレイカブル」と世界観を共有した作品だったという訳だ。そういえば、「アンブレイカブル」のメインビジュアルも、本作のビジュアル同様にガラスが割れた様なモチーフだった。
そもそも「アンブレイカブル」は、自分が絶対に死なないヒーローである事に気付くデビッド・ダンと、そのヒーローを探す為に、世界中で大事故をわざと引き起こしていたイライジャ・プライス(サミュエル・L・ジャクソン)の物語だ。映画のラストで、骨が折れやすい病気から「Mr.ガラス」と呼ばれるイライジャが、遂にヒーローであるダンを見つけ、ヒーローと対極をなす自分の存在意義を語るシーンは印象的であったが、その後精神病院に入れられて映画は終わっていた。
そして、何と本作「スプリット」のエンドクレジットの後には、シャマラン監督次回作は「ガラス」という「アンブレイカブル」の世界観を引き継いだ続編が作られる事が告知される。もちろん本作の”多重人格者ケビン”も登場するらしい。いわば「アイアンマン」や「キャプテン・アメリカ」に代表される、マーベルシネマティックユニバースのシャマラン版という、恐ろしい計画が実行されようとしている訳である。これを見た時、M・ナイト・シャマラン監督の常軌を逸した狂気を感じて、「誰得の映画なんだ?」とスクリーンに呟いてしまったのは白状しておきたい。何故なら「アンブレイカブル」はそのあまりのブッとんだストーリーとオチの為、かなり不評の作品だったと記憶しており、普通は到底続編が作られる様な映画ではないからだ。
とはいえ、僕はシャマラン監督にどこまでも着いていく覚悟は出来ている。2019年公開予定の「ガラス」にはもう一度、「アンブレイカブル」と「スプリット」を復習して臨みたい。
採点:6.0(10点満点)