「光をくれた人」を観た。
「ブルーバレンタイン」や「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」のデレク・シアンフランス監督最新作である。非常に独特な視点でキャラクターを描く監督で、過去作がかなり良かった事と、今回は初の有名原作ものという事で期待を込めて鑑賞した。
監督:デレク・シアンフランス
出演:マイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル、レイチェル・ワイズ
日本公開:2017年
あらすじ
舞台は第一次世界大戦終戦直後の1918年。西オーストラリアのヤヌス島という無人島で、灯台守を務める事になった元軍人のトムは、その契約の為に街を訪れる。そこでイザベルという美しい女性に出会い、二人は恋に落ちる。その後、結婚する事になった二人はヤヌス島で幸せに暮らし始め、やがてイザベルは子供を授かる。だが、ある嵐の夜に不運に見舞われ、イザベルは流産してしまい失意に暮れる日々を過ごす。トムの献身的な愛情により、イザベルはもう一度妊娠するのだが、今度は早産により赤ちゃんを失くすという悲劇が再び夫婦を襲う。そんなある日、海を漂う手漕ぎボートをトムは発見する。中を見てみると、そこには男の死体とまだ幼い女の子の赤ちゃんが乗っていた。以前に二度も子供を失くす経験していたイザベルはこの子を神からの贈り物と考え、自分の子供として育てたいと懇願する。しかしトムは赤ちゃんの本当の家族を探すために、真実を告げて町に連れていくべきだと反対する。だが、トムはイザベルを愛する余り、結局子供を育てる事を決意する。だがその後、赤ちゃんの実の母親であるハナが二人の前に現れる。
感想&解説
この映画は間違いなく名作だ。特に子供を持つ母親が観た時の涙腺決壊ぶりは、想像に難くない。実際、映画が終わった後の劇場からはすすり泣きの声が鳴り止まなかった。特に後半に各キャラクターが取る行動の数々と、無垢な子供の親に対する反応に涙腺をヤラれるのである。
ただ、本作は誰の視点に立って物語を観るかによって、かなり感じ方が違うのではとも思う。というのも、主要人物のトム、イザベル、そして赤ちゃんの実際の母親であるハナという全員の行動に説得力があり、理解出来るのだが、その行動の結果がそれぞれのキャラクターを傷付け、突き放す結果になるというバランスになっているからだ。よって、イザベルに感情移入していれば、トムが途中で起こすある行動は許せないだろうし、劇中のイザベルの様なリアクションも理解出来るだろう。逆にハナに感情移入していれば、イザベルの行動に対して気持ちは解るが、苛立ちを覚えるはずだ。
この作品は勧善懲悪で分かりやすい悪役などいない。自分の歩んできた人生や価値観と照らし合わせながら、それぞれのキャラクターの言動を忖度しながら観る事により、「自分だったらどうするか?」を常に突きつけられる作品なのである。この映画のテーマは「倫理観と贖罪」と「人の幸せとは?」だと思う。映画のいたるところで、キリストのモチーフが現れるのが特徴だが、非常に大きいテーマを提示している。劇中で亡きハナの夫が語る「赦し」に関しての台詞があるが、この映画の重要シーンだ。この台詞を起点として、映画のラストシーンでトムの見せる表情までを見た時、この映画が提示したテーマの答えに触れた気がするのである。とても良いストーリーの着地だと思う。
主演を演じるマイケル・ファスベンダー、アリシア・ヴィキャンデル(エクス・マキナに出演していた彼女!)、レイチェル・ワイズの演技も、本当に素晴らしい。特にレイチェル・ワイズのあるシーンにおける愛する者に拒絶される哀しみと、それでも愛する者を思う強さを表現する演技と表情は、この映画屈指の名シーンだと思う。
最後に音楽に触れたい。アレクサンドル・デスプラというフランス人作曲家が作ったピアノ曲が秀逸で、基本的には美しいメジャーコードの曲だが、突如としてテンションノートが混じる。これにより、幸せな光景が画面では広がっているが、何か不吉な緊張感を示唆するという、極めて映画的な効果を上げていると思った。本作ではピアノは大事なアイテムとして扱われる。楽曲も含めて、この「光をくれた人」という作品の完成度を高めていると思う。
結論、デレク・シアンフランス監督は今回も素晴らしい作品を提供してくれていた。正直、この映画は恋愛/家族ドラマの側面も強く、個人的な趣味でいえばサスペンススリラーやSFジャンルが好みの為に、正直乗り切れない部分もあったが、映画としての完成度はすこぶる高いと思う。特に子供を持つ親なら、尚のこと心を揺さぶられるだろう。
採点:7.0(10点満点)