「サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ」を観た。
前から気になっていたドキュメンタリーを、ブルーレイで観た。簡単に言えば、映画を撮る際のフィルム撮影とデジタル撮影の共存と転換をテーマに、俳優のキアヌ・リーヴスが監督や撮影監督、時には現像所のスタッフたちにインタビューを敢行したドキュメンタリー映画である。登場する監督はマーティン・スコセッシやジョージ・ルーカス、ジェームズ・キャメロン、ダニー・ボイル、デヴィッド・フィンチャー、スティーブン・ソダーバーグ、デビッド・リンチ、ロバート・ロドリゲスといったそうそうたる監督たち。そういう意味でも貴重なドキュメンタリーだと思う。
監督:クリス・ケニーリー
出演:キアヌ・リーブス、マーティン・スコセッシ、ジョージ・ルーカス
日本公開:2012年
感想&解説
僕の様な映画ファンには、デヴィッド・フィンチャーやマーティン・スコセッシ監督がインタビューで語っている姿だけで、価値のある映画だ。(ラース・フォン・トリアーやリチャード・リンクレイターも出演している!)ただ、正直この作品は2012年公開と今から5年も前になり、今の映画を取り巻く環境からすれば、フィルムだデジタルだという議論にはあまり意味がなくなっているのは事実だろう。劇中では、一貫したフィルム主義者のクリストファー・ノーランは、次回作「ダンケルク」でもIMAX65mmフィルムを使って撮影しており、日本公開時にはIMAXデジタルシアターでの公開にはなるだろうが、相変わらずのこだわりをみせている。(ちなみにオリジナルのIMAXフィルム上映が観たかったら、今はアメリカを始め海外の劇場に行くしかない)とにかく現状の公開作品で65mmフィルムで撮影出来るなど、コストや手間から考えても「ノーランだからこそ可能」としか言えない、贅沢の極みな撮影環境である事は間違いない。
ただクリストファー・ノーランなどの特例を除けば、一般的な映画の撮影環境は、ほぼデジタルに移行していると言えると思う。3D映画の先駆けとなった「アバター」の続編を準備中のジェームズ・キャメロンや、完璧なカラーコントロールや構図を求めるデヴィッド・フィンチャーなどは、早々にデジタルカメラによる撮影に移行しており、フィルムだとラッシュ試写の為の現像までに、丸一日かかるストレスを解消して、撮影現場ですぐに欲しいショットを撮影出来ている。
デジタルやフィルムはあくまで、映画を表現する手段なので、素晴らしい作品を観せてくれれば、正直どちらでも良いというのが個人的な感想だ。ただフィルム作品の持つ質感は、適した環境で鑑賞すれば改めて魅力的だし、最新VFX技術を駆使したデジタルのパキッとした映像も、作品テーマによっては素晴らしいと感じる。劇場の環境や撮影/編集に対する利便性を考えるとデジタル化の波は更に進むと思うし、オンデマンドサービスの発達で一般のユーザーが映画を観る環境も徐々に変わりつつある中で、クリエイターがバジェットや作品のテーマに合わせて、フィルムという選択肢があるという事は、いち映画ファンとしては嬉しい気がする。
この作品は「映画製作」に少しでも興味がある方は、かなり楽しめる作品だろう。特に各監督たちの映画作りへの姿勢が顕著に現れていて、インタビューシーンは楽しい。デビッド・リンチが語る「人間は物語の世界に浸り、経験を共有したがる。だが、その方法は大した問題じゃない」というコメントが、個人的にはもっとも頷けた。
採点:6.0(10点満点)