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映画「20センチュリー・ウーマン」ネタバレ感想&解説 何度も観たくなる快作!母と息子の絆を描いた物語。

20センチュリー・ウーマン」を観た。

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マイク・ミルズ監督作は「サム・サッカー」「人生はビギナーズ」と、タイトルは気になってはいたものの未見だった。今回の作品も一般の劇場公開では見逃していたが、地方の二番館でたまたま観れるという幸運に恵まれ鑑賞。結果、とても良い作品だった。

 

監督:マイク・ミルズ

出演:アネット・ベニングエル・ファニンググレタ・ガーウィグ

日本公開:2017年

 

感想&解説

シンプルに言えば、本作は母親と息子の物語である。舞台は1979年のアメリカ、サンタバーバラ。15歳の少年ジェイミーとシングルマザーのドロシア、そして彼らを取り巻くルームシェアで暮らす、ちょっと不思議な人々を描く作品だ。思春期の息子ジェイミーの教育に悩むシングルマザーのドロシアは、ルームシェアで暮らす写真家アビーと近所に暮らすジェイミーの幼なじみのジュリーに、自分には理解出来なくなってきた息子ジェイミーの成長を助けてやってほしいと頼むところから、ストーリーは始まる。

 

母ドロシアに扮した主演アネット・ベニングは、本作でゴールデングローブ賞の主演女優賞(コメディ/ミュージカル部門)にノミネートされているが、それも納得の熱演を見せている。55歳で15歳の息子を持つ母親役なのだが、シングルマザー故の仕事、恋、子育ての悩みや葛藤を、絶えずタバコを薫せながら等身大に演じており素晴らしい。

 

この映画を観ていると、親子と言えども「お互いの世界」というのは確固たるものがあり、それは性別や世代の違いがある為、絶対に相容れないしその必要もないのだけれど、親子の絆(特に親の愛情)というのはそれを超越したものである事を、改めて思い知らされる。それと同時に、ドロシアは自分の人生が折り返し地点を過ぎて、このまま「女性」としての人生が終わる事に漠然とした焦りを感じているのである。

 

息子を取り巻く「新しい価値観」への関心と反発が、この作品では「音楽」を通して行われる。劇中でジェイミーとアビーが、ザ・レインコーツの曲を聴いていると、ドロシアが思わず「(自分達の演奏が)下手と解って演ってるの?」と聴くシーンがある。それに対して、アビーは「強い感情があれば技術は必要ない」と答える。70年代における世代別のパンクロックに対しての典型的な反応の違いだろう。

 

だがこの映画で面白いのは、ドロシアがルームシェアしてるウィリアムと、トーキングヘッズを聴きながら、踊りまくるシーン。彼女は息子の音楽の趣味に懐疑的だったが、自分の感性と合う音楽は受け入れ楽しむ事が出来る受容的な人物である事が、ニューウェーブで踊りまくる彼女の姿からは伺える。また、ここは終盤のジェイミーとルイ・アームストロングのジャズナンバーで踊るシーンと対になっており、この親子は本質的によく似ている事が描かれる。

 

そして、エル・ファニング演じるジュリーのキャラクターが面白い。彼女は、ジェイミーにとっては「人生でどうにもならない事」の象徴だ。夜毎、ジェイミーのベッドに忍びこんでは隣で寝るだけ、自分に好意があるのを知りながらもボーイフレンドをコロコロ変えて、彼らとのセックスを赤裸々に語り、ジェイミーとの関係は拒み続ける。人生における困難と不条理を表現したキャラクターだと思う。そして写真家のアビーはその逆で、いつも母性と友情を感じさせながら、アートや音楽を通じて、ジェイミーを少し大人の世界に導いてくれる存在として描かれている。そんな多様な人たちに囲まれながら、あるひと夏を振り返りつつ物語は進む。劇的なストーリー上の起伏がある訳ではないが、僕はこの映画が大好きだ。各キャラクターのセリフや演技は忘れがたいし、シーンの演出が良くて心を掴まれる。

 

本作を観ると自分にとって母親とはどういう存在だろうと、改めて振り返る良い機会になる気がする。ラスト、女性ながらパイロットになるという、ドロシアの夢を体現したような飛行シーンにかかる曲は、映画「カサブランカ」で有名な「As Time Goes By」。夢の中にいるような素敵なシーンにかかる曲として、素晴らしい選曲だ。全編において派手な作品ではないが、時間を置いてまた観直したい良作だったと思う。

採点:8.0(10点満点)


20 センチュリー・ウーマン(字幕版)