映画を観て音楽を聴いて解説と感想を書くブログ

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映画「ベイビー・ドライバー」ネタバレ感想&解説 映画と音楽の持つエネルギーが見事に融合した「快感度」の高い作品!

ベイビー・ドライバー」を観た。

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傑作「ショーン・オブ・ザ・デッド」や「ホットファズ-俺たちスーパーポリスメン!」のエドガー・ライト監督が、脚本を20年かけて構想した本格ハリウッド長編デビュー作「ベイビー・ドライバー」を鑑賞した。天才ドライバーの主人公ベイビーが、幼い頃の事故で患った耳鳴りを抑えるためiPodで音楽をガンガンに聴きながら、「犯罪者の逃し屋」としてドライビングテクニックを見せるというプロットだ。監督も本作を“ロックンロール・カーチェイス・ムービー”と呼んでいるらしい。主演はアンセル・エルゴート。今回はネタバレありで。

 

監督:エドガー・ライト

出演:アンセル・エルゴートケヴィン・スペイシージェイミー・フォックス

日本公開:2017年

 

感想&解説

映画とは大きく「映像と音」で成り立っているメディアだが、多くの場合、音は映像の補完として使われる。悲しいシーンには、ストリングスの入ったピアノバラードが流れたり、アクションシーンにはビートの効いたダンスミュージックが重ねられたりする。「歌モノ」と呼ばれるボーカル入りの楽曲が使われる場合は、歌詞の意味も含めて特にエモーショナルに演出したいシーンに適用される事が多いだろう。ミュージカルと呼ばれるジャンルは、特にこの音楽の重要度比率がグッと高まる。音楽が持つメッセージがセリフの様にストーリーを推進し、役者のダンスなど視覚的な演出で、それを補佐していく。

 

本作「ベイビー・ドライバー」だが、劇中、ほぼ絶えずロックミュージックがかかり、そのテンポ感でカットが切り替わり、役者のアクションが起こる。ベースは「映画を音楽が支配している」作品だ。ただし、今作は音楽がストーリーを牽引していく作りではないので、ミュージカルとは少し違う。あくまで、主人公がiPodで聴いている音楽に合わせてアクションが起こり映画のテンポ感を生んではいるが、ストーリーの軸は別で進行している。これが今作のフレッシュなところだろう。カーチェイス版「ラ・ラ・ランド」とも評されているようだが、一般的なミュージカル作品とはここが違う。悪い意味ではなく、MVのミックステープを観ている感覚だ。むしろ作風は違うが、クエンティン・タランティーノ監督の1992年「レザボア・ドッグス」を思い出す。

 

本作は音楽のテンポと映像の編集がマッチすると、これほど気持ちが良いのかというお手本のような作品だ。冒頭のジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンの「ベルボトムズ」をバックに繰り広げられるチェイスシーンの高揚感は凄い。楽曲の持つエネルギーが、画面で起こる早いカットと躍動感のあるカメラワークによって、何倍にも感じられる。「ベルボトムズ」はジョンスペの3枚目アルバム「オレンジ」に収録されているが、久しぶりに棚から引っ張り出して聴きたくなった程だ。他にもベックやザ・ダムド、クイーン、T・レックス、ブラーから、カーラ・トーマス、ザ・コモドアーズなど、実は懐かしめの選曲が、40代のエドガー・ライトの趣味全開でこっちも嬉しくなる。

 

では、ストーリーとしてはどうかと言えば、こちらは少し雑な展開を見せる。ここからネタバレになるが、一般のウエイトレスという役柄のデボラが、恋に落ちているとはいえ、ベイビーに無条件に付いていき、重犯罪に手を貸すのはちょっと無理があるし、終盤でケヴィン・スペイシー演じるドクが、何故自己犠牲を払ってまで、突然ベイビーたちを助けるのか?が唐突の展開過ぎて解らない。足を洗ったはずのベイビーを強引に犯罪に巻き込み、デボラや里親のジョーを危険に晒す、あれだけ利己的なキャラクターとして中盤までは描かれていたのにも関わらずである。

 

また劇中でも「ボニー&クライド」というセリフがあったが、終盤にストーリーはアメリカン・ニューシネマの傑作「俺たちに明日はない」的な展開を見せる。犯罪映画はやっぱりハッピーエンドにはならないなと思った矢先、突如ベイビーはデボラを庇って警察に自ら捕まり、立派に刑期を終え、デボラと結ばれるというハッピーエンドで映画は終わるのだが、これには正直ビックリした。もちろんベイビーは、愛すべき「良いヤツ」キャラクターとして描かれるが、裁判での関係者によるベイビー擁護の証言内容含め、ここまでライトな結末だと映画全体が軽過ぎに感じてしまい、過度に観客に迎合した「娯楽映画」の色を強く感じる。せっかく少し尖った作風なのだがら、アート寄りの突き放したラストでも良かったと思うが、これは僕の好みの問題か。

 

とはいえ、本作「ベイビー・ドライバー」はアクション映画と音楽の持つエネルギーが見事に融合した、「快感度」の高い作品だ。間違いなく面白い映画として、エドガー・ライト監督の最高傑作「ショーン・オブ・ザ・デッド」よりも、個人的には好きな作品になった。アーティストのスカイ・フェレイラレッチリのフリーもカメオ出演しているので、お見逃しなく。

採点:7.0(10点満点)