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映画「女神の見えざる手」ネタバレ感想&解説 強烈な脚本力が楽しめる、どんでん返し作品の傑作!

女神の見えざる手」を観た。

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マリーゴールド・ホテルで会いましょう」のジョン・マッデン監督による、「ロビイスト」という、日本では聞き慣れない職業を主人公にしたサスペンス映画。ロビイストとは、特定の団体のために政党や議員などの有力者に働きかけ、そのメッセージを伝える為にメディアなどを使いながら団体に利益をもたらす人々の事で、アメリカには3万人ほどいるらしい。今作は「銃器規制法案」の賛成法案を通す為のロビイストの戦いを描く。主演は「ゼロ・ダーク・サーティ」のジェシカ・チャステイン

 

監督:ジョン・マッデン
出演:ジェシカ・チャステインマーク・ストロング、ググ・バサ=ロー
日本公開:2017年

 

あらすじ

敏腕ロビイストのエリザベスは、クライアントの要望を叶えるため最適な戦略を立て、妥協を許さない完璧主義者。そんな彼女に銃擁護派団体からの仕事が依頼される。新たな銃規制法案に対し、女性の銃保持を助長する働きをして廃案に持ち込んでくれというものだ。だがその依頼を一笑し、すぐに断った彼女は、その翌日自分のチームから4人を引き連れて、所属している大手会社から銃規制法賛成派の小さな会社に移籍する。反対か賛成かをまだ決めていない議員を賛成派にするべく、あらゆる手段を使った説得工作を行うエリザベスは、時には倫理に反する手段を使いながらも勝利へと突き進もうとしていた。そんな中、世論は賛成派に動くかに見えたが、ある事件が起き状況は一転する。

 

感想&解説

大傑作。特に脚本が大変に優れている。これだけツイストに飛んだ、刺激的なストーリーは滅多にお目にかかれないだろう。脚本の巧さだけなら、今年観た映画の中でも一二を争う出来で、132分の上映時間に観客の興味が途切れる時間は、1分たりとも無い。主人公のエリザベスと同じく、極めて論理的に、だが波乱万丈にストーリーは進み、それでいて随所にある伏線をきっちり回収しながら、最後は大きなカタルシスと共に「どんでん返し」で驚かせてくれる。この論理的というのがミソで、映画が終わった後にストーリーとして説明がつかないシーンが、一箇所もない。

 

この作品が面白いのは、「敏腕ロビイスト」であるエリザベスの考え方が、映画冒頭で語られるのだが「相手を出し抜き、相手がカードを出し切った後で、最後の切り札を出す」というセリフ、そのままの事が作品の中で起こる事だ。「女神の見えざる手」というタイトル通り、エリザベスは恐らくこの勝負に勝つ為に、様々な策を講じているのだろうが、「どこまでが作戦で、どこまでがアクシデントか?」が観ている観客も、そして劇中のエリザベス以外のキャラクターも分からないという構造の為、ストーリーを追いながらも、もう一方の頭では「これはもしかするとエリザベスの計画の一部かも?」と常に身構えながら鑑賞する事になる。それなのに、結局は騙されるという映画的な快感。最高である。

 

映画の冒頭から最後まで、セリフの応酬でとにかく情報量が凄まじい。刻一刻と状況も変わっていく為、ぼんやりしている時間は無い。ジェシカ・チャステイン演じるエリザベスというキャラクターも魅力的で、いわゆる清濁併せ呑む、アンチヒーローとして描かれている為、彼女の倫理観のハードルも曖昧で、全く行動の先が読めない強烈なキャラクターになっている。

 

劇中一ヶ所だけ、精神的に追い詰められたエリザベスが、あるキャラクターに電話をしてしまうという行動を取り、その時はその行動が少し不可解に映るのだが、これすらも「何故、そのキャラクターだったのか」が映画を最後まで観ると判る仕掛けになっていたり、映画の冒頭は大ピンチのシーンから始まるが、これが興味を持続する効果を生む上手い編集になっていたりと、映画の全ての要素が非常に高い水準で構成されている。さすがに子供向けでは無いが、映画自体は決して難解な作品ではない。公開規模が少ないのが残念だが、超一級のエンターテイメント作品として「女神の見えざる手」、強烈にオススメである。

採点:9.0(10点満点)