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映画「ダウンサイズ」ネタバレ感想&解説

ダウンサイズ」を観た。
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サイドウェイ」「ファミリー・ツリー」「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」のアレクサンダー・ペイン監督の最新作。予告編を観た時点で、マット・デイモン主演のSFコメディをアレクサンダー・ペインが撮るのか?と逆に興味が湧いたが、結論しっかりとペイン作品になっていた。ちなみに、アレクサンダー・ペイン監督の作品をまだ観た事がない方は、2011年のジョージ・クルーニー主演の「ファミリー・ツリー」くらいからトライするのが良いと思う。特に今作からはあまりオススメしない。本来は多層的なヒューマンドラマの名手なのである。今回もネタバレありで。

 

監督:アレクサンダー・ペイン
出演:マット・デイモンクリステン・ウィグクリストフ・ヴァルツ、ホン・チャウ
日本公開:2018年

 

あらすじ

ノルウェーの研究所にて、人間を14分の1のサイズにする技術が発明され、人口増加、経済格差、住宅などの問題解決に挑む人類の縮小計画がスタートする。妻のオードリー(クリステン・ウィグ)と共にその技術を目の当たりにしたポール(マット・デイモン)は、体を小さくすることで生活に関わるコストも縮小できることから現在の資産でも富豪になれると知って興奮し、縮小化を決意する。晴れて13センチになったポールだったが、現地での妻のまさかの心変わりにより、広すぎる家に一人で暮らす事になる。そんなポールの前に、遊び人風のドゥシャン(クリストフ・ヴァルツ)と、彼の家に掃除婦として出入りする、ベトナム人のノク・ラン(ホン・チャウ)が現れる。そして、彼らとの出会いはポールの人生を大きく変える事になる。

 

感想&解説

予告編から受ける、マット・デイモンが小さくなる事によって起こる事件が中心の、いわゆる「シチュエーションコメディ」を期待して劇場に向かうと、かなり落胆する事になるだろう。はっきり言って、それは映画の三分の一くらいまでで、あとはコメディ要素というよりは、もっと「ディストピア映画」のようなテイストの作品になる。

 

シチュエーションコメディとは、通常の環境と「変化した環境」を比較して、そのギャップから生じるドタバタを笑うジャンルだ。本作で言えば、マット・デイモンが小さくなった直後、病院の女性が「お腹空いたでしょ、ちょっと待ってて」と食べ物を取ってくるシーン。戻ってきた女性が持っているクラッカーがめちゃくちゃ大きくてマット・デイモンが驚くのだが、いわばこの流れが典型的なシチュエーションコメディのシーンだろう。ここは劇場も笑いに包まれていた。

 

だが、序盤以降はこういった笑えるシーンは少なくなる。しかも今作がそうなっていかないのはハッキリと理由がある。この「比較」をしていかないからだ。マット・デイモンが小さくなってからは、「レジャーランド」という小さくなった人間だけが暮らす隔離された施設の中だけで、ストーリーが進む。よって、大きいままの人間と小さくなった人間の差を描かなくなるのだ。ちなみにダウンサイジングした人間は、全人口の3パーセントという説明だったので、まだほとんどの人は大きいままという世界設定だ。これでは、小さくなったというシチュエーションが全く活かせない。

 

では、この後ストーリーはどうなるか?といえば、この「レジャーランド」内での貧富格差を描く流れになる。クリストフ・ヴァルツ演じるドゥシャンという、通常世界の嗜好品を密輸して儲け、享楽の中で生きる男と、異国で無理やりダウンサイジングさせられ、難民として密入国した貧民層との生活が交互に描かれるのである。ある程度の貯蓄がありダウンサイジングすれば、豪邸に住み安穏とした暮らしが出来るが、金が無い人にとっては「ただ小さくなっただけ」という現実が突きつけられ、その格差はますます酷いものになっている事が描かれる。

 

そんな中で、マット・デイモン演じるポールは、ベトナム人のノク・ランという脚の悪い女性と出会う。彼女は貧民層の住人だが、掃除婦として富裕層の食べ残しや余り物、古い鎮痛剤などの薬を貧しい人たちに分け与えているという、優しい人物だ。口が悪いし押しが強い彼女に、ポールは義足を壊してしまったという負い目がある為、最初は言われるがまま渋々行動を共にするが、徐々に心を許し、遂には愛し合う様になる。

 

そしてストーリーは、ドゥシャンからダウンサイジングが初めて行われたノルウェーに行ってみないかと誘われ、強引にノク・ランが一緒に付いていく事になってから、意外な方向に進んでいく。ノルウェーに向かう道中にダウンサイジングの開発者に会った一行は、そこで驚きの発言をされるのだ。世界の有識者が行なった研究の結果、北極からのメタンガスの影響で、近々世界は滅びるというのである。もちろん、世界中の人たちをダウンサイジングしている時間はないが、ノルウェーの「ある村」には地下シェルターがあり、そこには縮小した人ならほぼ永続的に暮らせる設備があるという。

 

ここからストーリーは、いわゆる「ノアの箱船」をモチーフとした、ダウンサイジングした人間だけが生き残り、これからの世界を導いていくのだという「選民思想」的な嫌だみを帯びた展開になる。しかも、ポールはノク・ランの説得も虚しく、シェルターに行く事を選ぶのだ。実は本作のマット・デイモンの役柄ポールは、非常にお人好しでいいヤツなのだが、人に流されやすく、自分の芯がない人物として描かれる。その典型的なシーンが、このシェルターを巡る場面だ。一時は愛したはずのノク・ランをあっさり置いて、振り返りもせずに、シェルターに続くトンネルに入ったはいいが、トンネルを11時間歩くと聞かされて、はたと悩み始め結局外界に戻る道を選ぶ。そしてノク・ランと貧民街の人達を助けながら生きる事を選択するのだ。

 

もちろん、最後に自分の考えを持ち、彼なりに本当に大事なものが何かを考えた末の結論という見方も出来るが、もしシェルターに続く道が1時間でたどり着いたなら彼は悩まなかっただろう。これでは主人公としてはなんとも情けないし、共感しづらい。このように、この作品は色々な意味で観客の期待をことごとく裏切ってくれる。ジャンルもしかり、ストーリーテリングしかり、キャラ設定しかりである。正直、アレクサンダー・ペイン監督の資質としては、今まで通りのビタースイートなヒューマンドラマが向いてるのは間違いない。だが、本作「ダウンサイズ」はなんとも忘れがたい、ある意味カルト的な作品になっているとも思う。

 

シェイプ・オブ・ウォーター」や「ブラックパンサー」に比べると、観るべき優先順位は落ちるが、個人的にはこういう映画があっても良いと思う。名作とは言いがたいが、不思議と記憶には残る作品だった。最後に、ポールとノク・ランが結ばれた後の翌朝に見せるクリストフ・ヴァルツの顔が、本作中で最高に笑えるという事は書き残しておきたい。

採点:5.0(10点満点)

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