「犬ヶ島」を観た。
日本でも2014年公開の前作「グランド・ブタペスト・ホテル」が大ヒットして、一気にその地位を築いたウェス・アンダーソン監督が放つ最新作である。今作は2009年公開の「ファンタスティックMr.FOX」以来のストップモーションアニメの手法で作られており、ベルリン国際映画祭で監督賞を受賞している。声の出演も、ウェス・アンダーソン組と言える、ビル・マーレイやエドワード・ノートン、ジェフ・ゴールドブラムに加え、スカーレット・ヨハンソンやグレタ・ガーウィグ、日本からも夏木マリや野田洋次郎などが参加するなど、非常に豪華キャストとなっている。
監督:ウェス・アンダーソン
出演:コーユー・ランキン、リーブ・シュレイバー、エドワード・ノートン
日本公開:2018年
あらすじ
近未来の日本にあるメガ崎市では、犬インフルエンザが蔓延。人間への感染を恐れた市長の小林は、事もあろうに町に住むすべての犬を「犬ヶ島」に追放してしまう。そんな中、市長の養子であり、実の両親を知らない12歳の少年アタリは、愛犬のスポッツを探すため、たった一人で小型飛行機に乗り込み、島に上陸する。そこでアタリが出会うのは、勇敢で思いやりある5匹の犬たち。彼らを相棒にスポッツを探し始めるアタリに、次々と試練が降りかかる。
感想&解説
子供から大人まで最高に楽しめる一作である。個人的には「ファンタスティックMr.FOX」よりも好きな作品だし、ウェス・アンダーソンの作品群の中でも、気に入り度はベスト3に入る勢いである。特に本作は日本が舞台である為、劇中のキャラクターが話す言葉や文字が読めるという意味では、世界で一番この作品を楽しめる国民と言っても過言ではないだろう。しかも画面からの情報量が相当ある為に、繰り返し観たくなる作品になっている。
この映画を作る為にかかった時間を想像すると本当に頭が下がるが、それが作品の質に直結しているのが本作のすごいところだ。犬たちの動きや仕草の可愛らしさ、風にはためく毛の表現や、炎や虫たちの動き一つとっても、このストップモーションアニメの利点が存分に感じられる。良い意味でのぎこちなさやアナログ感が堪らないのだ。主要キャラクター達もしっかりと個性があり、オフビートなセリフ回しも含めて楽しいし、全編に亘るコメディ演出も笑える。特にチーフと呼ばれる黒いノラ犬と主人公のアタリとのやり取りが、その間(ま)も含めて、シュールで最高だ。アタリは日本語しか話せないし、犬たちは犬語(英語に翻訳されているが)で話す為、お互いの意思疎通は出来ないのだが、犬たちがなんとか意志を汲み取ろうと努力する様や、チーフだけはそれに反抗するが最終的にはアタリと心を通わす行程なども、ベタだが心が和む。
全編に亘って日本文化への強いリスペクトを感じるが、「メガ崎市」などのネーミングに見られる、そのちょっとしたズラし感も含めて微笑ましい。ウェス・アンダーソン監督は、黒澤明や小津安二郎、鈴木清順などの日本映画に影響を受けてこの作品を作ったらしいが、劇中の悪役「小林市長」などは確かに三船敏郎っぽいし、サイケな世界観は鈴木清順作品「ピストルオペラ」などに通じるものがあると思う。また本作は宮崎駿にも影響を受けている事を公言しており、アニメーションにおける自然描写やレトロメカ感など、確かに「もののけ姫」や「ハウルの動く城」の片鱗も感じる。
また、前作の「グランド・ブタペスト・ホテル」に引き続き、アレクサンドル・デスプラによるサウンドトラックも素晴らしい。近作だと「シェイプ・オブ・ウォーター」も手掛けていたので、最近ノリに乗っているコンポーザーと言えるだろう。「太鼓」を基調とした日本的なサウンドは、ストップモーションアニメのキャラクターの動きとシンクロしていて快感だし、早坂文雄が作曲した黒澤明「七人の侍」の楽曲が盛り込まれたり、1970年ロバート・アルトマン監督作「M★A★S★H マッシュ」にも使用された、暁テル子の昭和26年の楽曲「東京シューシャインボーイ」が使われたりと、シネフィル的な日本楽曲の引用も気が利いている。
「寿司」「相撲」「祭り」といった外国から見た日本文化も、凄まじいクオリティでストップモーションアニメ化されていて、日本人が観ても新鮮に感じる。あらゆる意味で、ジャパニーズカルチャーとウェス・アンダーソンのポップカルチャーが融合した、前衛感がありながらもどこか懐かしく、レトロながらも新鮮という奇跡的なバランスを生み出している作品だと思う。「映像で魅了する」という、映画本来の魅力に溢れた快作だ。本作は文句なしにオススメである。
採点:8.0(10点満点)