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映画「クワイエット・プレイス」ネタバレ感想&解説 設定はキャッチーだが、思ったより緩い脚本のB級SF映画!

クワイエット・プレイス」を観た。

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「音を立てたら、即死。」という、キャッチなコピーにて遂に公開となった本作。「ボーダーライン」や「オール・ユー・ニード・イズ・キル」のエミリー・ブラント主演のサスペンスホラーだが、昨年からアメリカで大ヒットしているホラー映画があるという事で、「ドント・ブリーズ」や「IT/イット」と比較されてネットを賑わせていた。監督はジョン・クラシンスキーで、エミリー・ブラントとは実際の夫婦である。俳優としてはキャスリン・ビグロー監督の「デトロイト」などに出演していたが、監督作としては「最高の家族の見つけかた」という2016年の作品一本だけらしい。こちらは未見の為、監督としての成長度は測りかねるが、本作の感想はどうだったか?ネタバレ全開で。

 

監督:ジョン・クラシンスキー

出演:エミリー・ブラント、ジョン・クラシンスキー、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュプ

日本公開:2018年

 

あらすじ

音に反応し人間を襲う異星人によって人類が滅亡の危機に瀕した世界。そこでは、あるルールを守り、生き延びる一組の家族がいた。そのルールとは「決して、音を立ててはいけない」。その異星人は、音を立てるとすぐに現れて飛びかかってくる。そして即死に至るのだ。手話を使い、裸足で歩き、道には砂を敷き詰め、静寂と共に暮らす彼ら4人家族だが、なんと母親は出産を目前に控えていた。果たして彼らは、最後まで沈黙を守れるのか。

 

感想&解説

まず90分という上映時間の短さが良い。本作は完全に「ジャンルムービー」なので、サクッと終わるその潔さにはとても好感が持てる。そういう意味では90分間を楽しみながら飽きずにスクリーンを観ていられるのは、本作の良いところだろう。特に「音を立てると襲ってくる異星人との戦い」という魅力的な世界観と設定の為、必要以上に大きめに設定された環境音とSEが、静かな場面に突然鳴る演出が多い。その音の大きさから、驚きのあまり何回かビクッとなってしまった。過度な期待をせずに、ジャンルムービーだと割り切って観る分には十分に楽しめる。


ただし、あれこれと考え出すと脚本や設定の「アラ」がかなりノイズになってくるのは否めない。映画冒頭に、4歳の次男が音の鳴るおもちゃによって犠牲になり、家族はその悲しみに見舞われる。それは生涯のトラウマになるレベルだろうし、実際に劇中でもおもちゃを渡した姉を筆頭に家族全員がそれを引きずっている。だが、なんとその"一年後"に場面が変わると、母親役のエミリー・ブラントがお腹の大きい状態でスクリーンに現れる。これにはビックリしてしまった。「音を出すと家族全員の命が危険に晒される」というこの状況であるのにも関わらず、絶対に泣き声を抑える事が出来ない赤ちゃんを作るというのは、モンスターに子供を殺された過去を持つ、さらに二人の子供の親として、あまりに無責任過ぎると思ったのだ。普通の生活をしているだけでも、生後しばらくは赤ちゃんの夜泣きや癇癪には悩まされるというのに、本作の脚本家たちはシャーリーズ・セロン主演の「タリーと私の秘密の時間」を観て、子育ての大変さを学んだ方がいい。普通に考えて、音を出してはいけない環境で赤ちゃんは絶対に育てられないだろう。


他にも妻が臨月でいつ産まれてもおかしくない状況なのに、夫と息子がほぼ一日中家を開けて魚を取りに行くとか、滝の側なら音が出せるなら何故もっと近くに住まないのか?とか、地下室でなら会話出来るなら何故そこにずっといないのか?とか、そもそも電気や水道はどうやって確保しているのか?など、余りにキャラクター達の危機意識が低すぎるし、ドキドキさせるストーリーの為の無理な展開や設定が多すぎる。その最たるものが、あの「釘」のシーンだろう。数ある映画の中でも、あれだけこれ見よがしに「踏む事を前提に」映される釘はなかなかお目にかかれないと思う。最終的に異星人を倒す方法は、ティム・バートン監督の1996年作品「マーズ・アタック!」を思い出させる方法で、それほど意外性もない。しかも最終的に銃でも倒せるなら、地球上のほとんどの人が殺されているのも納得度が低い。アメリカ軍なら銃とミサイルですぐにエイリアンを壊滅させてしまうだろうからだ。

 

だが「音」をテーマにしているだけあって、本作のサウンドデザインは見事だと思う。セリフがほとんど無いという本作の特異な設定から、自然音や環境音を巧みに入れつつ、中盤の出産シーンにおける声とSEの音量にも気を配った演出などは素晴らしい。またエイリアンの声などもクリエイティビティに富んでいるし、耳が聞こえないという設定の長女リーガンが補聴器を外した時の"完全なる沈黙"は、過去の映画の中でもかなり珍しい表現だろう。この音周りのコントロールという観点では、並々ならぬ作り手の苦労とこだわりが感じられ、本作の特筆すべき良点だと思う。


閉鎖的な空間で異星人と家族が戦うというシチュエーションから、個人的には鑑賞中、ずっとM・ナイト・シャマラン監督の2002年作品「サイン」という映画を思い出していたが、この作品、正確にはホラーというよりもB級SFだろう。鑑賞中、怖いという感情はほとんど感じなかったので、ホラーが苦手な人でも普通に楽しめるのではないだろうか。エミリー・ブラントの白熱した演技は素晴らしかったし、こじんまりとした小品という意味では決して悪くない作品だが、面白い作品として積極的に勧められる程の完成度ではない。あくまで古き良きB級SF映画のゆるい雰囲気が好きな人向きだと思う。アメリカでの大ヒットを受けて続編も決定しているらしいが、確かに小さな画面と音では魅力が半減するタイプの映画なので、出来れば劇場での鑑賞がオススメである。

採点:4.5(10点満点)