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映画「ザ・プレイス 運命の交差点」ネタバレ感想&解説 「おとなの事情」の監督が描く、次なるワンシチュエーション映画!

「ザ・プレイス 運命の交差点」を観た。

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2016年に公開されたイタリア映画「おとなの事情」を監督した、パオロ・ジェノヴェーゼの新作である。「おとなの事情」はイタリアの権威ある映画賞を獲得し、高い評価を得た作品だった。夫婦3組と男性1人の計男女7人が各自のスマートフォンにかかってきた電話や届いたメールを公開し合うというゲームを通じて、各々が隠していた秘密が晒されていくという展開はサスペンスというよりはほとんどホラーに近い内容だったが、ほぼ一部屋の中だけで展開されるワン・シチュエーションものとして、かなり面白い作品だった。本作「ザ・プレイス 運命の交差点」も、このワン・シチュエーションというコンセプトを踏襲した作品として期待していたが、どうであったか?今回もネタバレありで。

 

監督:パオロ・ジェノヴェーゼ

出演:ヴァレリオ・マスタンドレア、マルコ・ジャリーニ、アルバ・ロルヴァケル

日本公開:2019年

 

あらすじ

「ザ・プレイス」というカフェの奥にあるテーブルに座っている男は、自分が告げた行為をやり遂げた者たちの望む願いをかなえるという力を持っていた。彼を頼り、「ザ・プレイス」には多くの人が訪ねてくる。男は、神の存在を感じたいというシスターには妊娠することを、ガンの息子を救いたいという男には他人の少女を殺すことを、アルツハイマー病の夫を助けたいという妻には爆弾を仕掛けることを命じるのだった。

 

感想&解説

パオロ・ジェノヴェーゼ監督の「ワン・シチュエーションもの」第二弾といったコンセプトだろうが、残念ながら今作は前作「おとなの事情」ほどは上手くいかなかったようである。物語は「ザ・プレイス」というカフェに、一日中座っている男のところに年齢も性別もバラバラの人達が訪ねて来て願いを伝えると、その願いを叶える代わりにその謎の男が告げた無理難題を遂行しなければならず、依頼主が悩みながら決断していくという内容だ。しかもこの作品が特徴的なのは、実際に彼らがその難題に対してどう行動したのか?どう悩んだのか?は謎の男との会話の中でしか語られず、カメラがこのカフェから移動することはない為、観客が脳内で補完する必要があるという手法を取っている。


その無理難題の内容が、がんの息子を救いたい父親に対しては見ず知らずの少女の殺害、アルツハイマーの夫を救いたい老婦人には大人数が集まる場所に爆弾を仕掛けること、神を感じたいという修道女には妊娠すること、盲目を治したい男には誰か女性をレイプすること、顔を美しくしたい女には大金を強盗する事、モデルとセックスしたい男には見ず知らずの少女を誰かから守り抜くこと、などが謎の男から命じられる。このように基本的には自らの欲望、もしくは親しい身内のために、殺人や強盗やテロと言った「罪の無い他の誰かを犠牲にする事」か「著しく自らのアイデンティティを否定する事」が強いられる為、彼らの中に罪悪感や葛藤が生まれるという構造になっており、これはかなり面白そうな題材になりそうだと期待させられる。


ところが、どうにもそこまでこの映画の面白さは飛躍してくれないのだが、それにはいくつか理由がある。まずは、この「謎の男」というキャラクターの信ぴょう性だ。物語の前半で無理難題と引き換えに、もし盲目の男性の目が復活したなら、もしくはアルツハイマーの老人が治ったなら、この謎の男は「本当の悪魔」であり、超自然的な能力を持つキャラクターという設定を信じて作品を観ることが出来る。その上で依頼主たちはどのような判断をするのか?を素直に楽しめるのだが、本作の依頼主たちのほとんどは実際に「実行する」という決断をしないため、この謎の男が本当に力を持っているのか?が解らないのだ。


「モデルと知り合いにはなれた」とか「難題を達成していないが何故か病気が治った」など、都合よく軽い望みの達成はされるのだが、これが最後まで彼の能力なのか?が信じられない為にどうにもモヤモヤする。さらに「依頼主はどうやってこの男の事を知ったのか?」「何故、皆が彼を信用するのか?」「なぜ会う場所はこのカフェなのか?」という、この根幹の設定に関わる説明が一切ない事もスッキリしない原因のひとつで、この世界観に乗り切れないのだ。劇中で男を疑うキャラクターが登場し、恋人にプレゼントする花を希望すると、「横断歩道を歩く老婆を助けろ」と指示されるシーンがある。次のシーンでは確かに花が飾られているので、恐らく老婆からもらったという事だろうが、これだけでこの男の能力が信用できるというのは納得しづらい。


さらに物語の中盤、依頼者たち同士がお互いに関連していることが分かってくる。例えば、息子を救いたい父親が殺害しようとする少女はモデルとセックスしたい男が守る少女と同じだし、盲目を治したい男が暴行しようと考えている女性は神を感じたいという修道女で、しかも盲目の男に恋しているといった具合だ。これにより、途端に「作り手の都合」が前面に出てしまい、本作の世界が狭く感じてしまう。この数人だけの特殊な話として感じてしまい、人間の善悪における価値観といった、せっかく面白くなりそうなテーマが矮小化して見えてしまうのだ。しかも、なぜそんなことをこの謎の男はやるのか?の説明も相変わらず無いため、興味が単純な「この話の整合性(パズル性)」の一点だけに絞られてしまうのも勿体ない。


映画としては、人間の性善説を感じるような展開で落ち着く。老婦人により爆弾は置かれないし、息子を救いたい父親の少女殺害は成功しない。盲目の男は修道女と愛し合う。いわば穏当な着地だと言えるだろう。これを素晴らしいと感じるか物足りないと感じるかは人それぞれだが、僕は後者だった。劇中、この「ザ・プレイス」というカフェの女性店員が、時折この「謎の男」に話かけてくる。彼女の名前が「アンジェラ」といい、「天使」を象徴しているのは明確だが、ラストシーンで疲れ切った謎の男から彼のノートを奪い何かを書き込む。このノートは常に男が指令を出すときにめくっていたものだ。そして、誰もいなくなった店内でそのノートが灰皿の上で燃えているというシーンで映画は終わる。まるでアンジェラが男の願いを叶えて存在を消してあげたように。その対価としての難題はなんだったのだろうか?だが、それは劇中では描かれない。


「ワン・シチュエーションもの」はやはり前作の「おとなの事情」のように、ある程度ロジックを積み上げながら、リアリティのある内容の方が面白くなる気がする。せっかくの限定的な空間が、なんでもありの設定になると途端に緊張感が弛緩してしまうからだ。宗教的なモチーフも含んだ、人間賛歌の側面が強いが、正直もう少しビターな作品を期待していただけに期待ハズレだった本作。監督の次回作は、ワン・シチュエーションの三部作ラストで、フランク・キャプラ監督の「素晴らしき哉、人生!」からインスパイアされた作品らしい。どちらかと言えばまたファンタジー路線だろうから不安感は残るが、一応見届けたいと思っている。

採点:3.0(10点満点)

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