「ドクター・スリープ」を観た。
スタンリー・キューブリック監督が1980年に公開したホラー映画の名作「シャイニング」の続編が、なんと約40年ぶりに公開となった。前作の父親ジャック・トランスを演じていたジャック・ニコルソンはいまだに忘れられない怪演だったが、彼に死ぬほど追いかけられたトラウマを持つ息子ダニーが成長した姿を演じるのは、ユアン・マクレガー。また児童を狙う恐ろしい悪役を演じるのは、「ミッション:インポッシブル」シリーズのレベッカ・ファーガソン。監督は、割と今まではB級ホラーのイメージが強いマイク・フラナガンである。今回もネタバレありで。
監督:マイク・フラナガン
出演:ユアン・マクレガー、レベッカ・ファーガソン、カイリー・カラン
日本公開:2019年
あらすじ
40年前、狂った父親に殺されかけるという壮絶な体験を生き延びたダニーは、トラウマを抱え、大人になったいまも人を避けるように孤独に生きていた。そんな彼の周囲で児童ばかりを狙った不可解な連続殺人事件が発生し、あわせて不思議な力をもった謎の少女アブラが現れる。その力で事件を目撃してしまったというアブラとともに、ダニーは事件を追うが、その中で40年前の惨劇が起きたホテルへとたどり着く。
感想&解説
スタンリー・キューブリックが監督した前作「シャイニング」を原作者であるスティーブン・キングは気に入っておらず、事あるごとに苦言を呈していたというのは有名な話である。まぁ、それもそのはず映画版はかなり原作を改変しており、ダニーの超能力である「シャイニング」よりも、父親ジャックの狂気にフォーカスしたホラー映画として作られていた。そういう意味では、おそらく今回の「ドクター・スリープ」はキングも満足の出来栄えであろう。
正直、上映時間は結構長いが、かなり満足度の高い作品だと思う。ホラー映画としての「恐怖感」は薄いのだが、サスペンス映画として、飽きずにグイグイと観客を惹き付ける。特に主人公ダニーを演じるユアン・マクレガーの落ちぶれ感が素晴らしく、冒頭では前作のジャック・ニコルソンと同じく酒に溺れて暴力を振るい、さらに人としてのモラルも低いという、最低な男として描かれている。その男が「守るべき存在」である、少女アブラと出会った為に人間として成長していく姿に感動させられるのだ。映画終盤に、追い込まれたダニーが酒を飲む誘惑に駆られるシーンがあるのだが、そこで彼が取る行動が彼の成長を物語っている。
またもう一人の魅力的なキャラクターが、レベッカ・ファーガソン演じる「ローズ・ザ・ハット」である。彼女が中盤にある少年に行う悪魔の所業や、少女アブラに逆襲された時の狼狽ぶり、レベッカ・ファーガソンの浮世離れした美しさも含めて、本当に目が離せない。本作は主演の二人だけではなく「トゥルー・ノット」と呼ばれる、ローズ・ザ・ハットの仲間である悪役たちも含めて、個性的であり魅力的なキャラクターが登場するのだ。
そして本作を語る上で絶対に外せない要素は、影の主役ともいえる「オーバールック・ホテル」の存在である。終盤にダニーが訪れるシーンの高揚感たるや。双子の少女も血のエレベーターも、あの雪の迷路も「シャイニング」に登場したあのシーンたちが、40年の時を経てもう一度蘇るのだ。スティーブン・スピルバーグの「レディ・プレイヤー1」にもこの呪われたホテルは登場したが、やはり正統派続編は格が違う。「シャイニング」原作のラストに近い、本作におけるオーバールック・ホテルの結末も含めて、この後半30分を観るだけでも、十分にこの作品の価値はあると感じる。
音楽の使い方やシーンの編集、カメラワークなど強烈に前作の「シャイニング」を意識しながらも、新しい物語を描こうとしている、正統派続編として素晴らしく良くできた作品だと思う。もちろん、スタンリー・キューブリック監督のあの名作に肩を並べる完成度とまでは言わないが、この2019年度に公開された意味がある、魅力的なビジュアルと明確なコンセプトを持った名作だった。前作のファンの方にもオススメである。
採点:7.0(10点満点)
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