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映画「パラサイト 半地下の家族」ネタバレ感想&解説 鬼才ポン・ジュノ監督のアカデミー受賞作!

「パラサイト 半地下の家族」を観た。

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第72回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した、韓国映画界の鬼才ポン・ジュノ監督の新作。劇場公開作品としては「スノーピアサー」以降約5年ぶりの新作となる。今回は新年一発目、先行上映を鑑賞してきた。とにかく評価の高い作品で、海外の批評サイトや映画人から絶賛の声が並んでいる事と、あの「殺人の追憶」や「母なる証明」のポン・ジュノ新作という事で、並々ならぬ期待を込めての鑑賞となった。世間の評価と裏腹に個人的にはちょっと辛口の感想になったが、今回もネタバレありなので、ご注意を。

 

監督:ポン・ジュノ

出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン

日本公開:2019年

 

あらすじ

キム一家は家族全員が失業中で、その日暮らしの貧しい生活を送っていた。そんなある日、長男ギウがIT企業のCEOであるパク氏の豪邸へ家庭教師の面接を受けに行くことになる。そして妹ギジョンも、兄に続いて豪邸に足を踏み入れる。正反対の2つの家族の出会いは、想像を超える悲喜劇へと猛スピードで加速していく。

 

感想&解説

上映前に監督自身のコメントが流れ、とにかく「ネタバレしないで」と訴えていたのが印象的だが、観終えた今となっては、どこがネタバレのポイントなのかがよく分からない。いわゆる「シックスセンス」における、ブルース・ウィリスの「アレ」的などんでん返しがある作品なのかと身構えたが、実際には全くそういう映画ではない。ただストーリーとしては、かなりツイストが効いており、最終的にどこに連れて行かれるのかと観ている間中、ワクワクするのは確かだ。ジャンルはサスペンスコメディだろうか。特に前半は笑えるシーンがかなり多いのも、本作の特徴と言える。


ソン・ガンホ演じる父親を中心とする貧困層の4人家族が、金持ち一家であるパク宅の家庭教師や運転手として徐々に取り入っていき、寄生(パラサイト)するというのが、ストーリーの前半で描かれる。この映画は特に前半部の演出が秀逸で、彼らがどんな生活をしているのか?家族のそれぞれがどんな性格なのか?が、説明台詞に頼らず映像だけで観客に過不足なく伝わる。特に金持ち一家の長女の家庭教師として取り入る、長男役のチェ・ウシクが非常に良い。貧困には窮しているが、この家族はそれぞれ切れ者で、あれよあれよと元からいた使用人たちを退職に追いやり、自分たちの職を得ていく。


そして中盤以降、この屋敷には主人たちも知らない秘密の地下室があり、そこに元家政婦の夫が隠れ住んでいる事が発覚してから、ストーリーは大きく動き出すのだが、反面この映画の弱点が目立ち始めるのもここからだ。元家政婦夫婦にソン・ガンホの家族が金持ち一家にパラサイトしている事がバレて、それをバラすバラさないのドタバタが始まると、その拍子に元家政婦が階段から落ちて瀕死になってしまうという展開になるが、お互いに秘密を持っている関係性で、なぜ元家政婦夫婦とソン・ガンホ一家が争う必要があるのか?が、まずよくわからない。どちらかの秘密がバレた時点で、もうお互いの目的は達成出来ないだろうからだ。あの状況なら、彼らは協力しあうべきだろう。


さらにそこに金持ち一家のパク一家がキャンプ場から戻り、彼らにもこの騒動がバレないように取り繕うという、シチュエーションコメディ的な展開となる。ここでも、末っ子のトランシーバーの小道具は伏線で活かされそうなのに特に意味を成さず、彼はボーイスカウトでモールス信号が使える為、元家政婦の旦那からの「助けて」という信号を解読出来たのにそれはスルーされ、突然の大雨が降り家族は下水の中動き回って、避難場所で寝たにも関わらず、次の日には綺麗な格好でまたパク一家のパーティーに参加している。この後半以降はなんとも言えないチグハグ感が、画面に付き纏うのである。


ここからネタバレになるが、終盤のソン・ガンホがパク社長を刺し殺すシーンだが、もちろんこの作品が韓国の貧富格差を描いており、パク社長が語る臭いや車のキーを巡る一連の言動など、苦しい生活を送っている国民として、さらに父親として"その動機"がある事は分かるが、正直、僕には最後までパク社長がそこまで悪人には見えなかった為、家族想いで子煩悩な成功者が主人公の逆ギレで殺されてしまったという展開に見えてしまった。当然、勧善懲悪な作品ではないのでそういう展開でも良いのだが、貧富格差というメッセージ性を描きたいのであれば、もう少し富裕層が持つ差別意識や利己主義な部分を描かないと、この展開の意味が薄くなるし、主人公キャラクターの行動に説得感が無い。ここは少し勿体ないと感じた。


ラストシーン、地下に隠れているソン・ガンホを、金持ちになった長男が救うのかと思わせて、それもまた想像という展開は意表をついていてフレッシュだったと思う。ちょっと辛辣な感想を書いてきたが、この作品は間違いなく面白い。観ている間中、先の展開が気になって仕方ないし、各登場キャラクター達は魅力的だ。演出も上手いし、さすがパルムドール受賞作だと思う。エンターテイメント作品としての強度はかなり高いだろう。だが、あまりにポン・ジュノ監督最新作への期待が高過ぎたのかもしれない。思ったよりもこじんまりとした佳作として、僕には感じられてしまった。劇場公開されたら、もう一度トライしてみたいと思っている。

採点:7.0(10点満点)