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映画「黒い司法 0%からの奇跡」ネタバレ感想&解説 「黒人差別」をテーマにした裁判映画の名作!

「黒い司法 0%からの奇跡」を観た。

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冤罪の死刑囚たちのために奮闘する弁護士で、基本的人権の保障に取り組む非営利団体を運営するブライアン・スティーブンソンの実話を、映画化した作品。原作はブライアン著の「黒い司法 黒人死刑大国アメリカの冤罪と戦う」で、本国でベストセラーになっている。主演は「クリード」シリーズや「ブラックパンサー」で目覚ましい活躍のマイケル・B・ジョーダン。そのほか、被告人ウォルター役をオスカー俳優のジェイミー・フォックス、クレットン監督とは3度目のタッグとなるブリー・ラーソンなどがそれぞれ熱演してドラマを盛り上げている。監督は2013年の「ショート・ターム」がもっとも有名な作品だったが、本作でブレイクスルーするであろうデスティン・ダニエル・クレットン。今後マーベル作品の監督も決まって、将来が嘱望されている。今回もネタバレありで。

 

監督:デスティン・ダニエル・クレットン

出演:マイケル・B・ジョーダンジェイミー・フォックスブリー・ラーソン

日本公開:2020年

 

あらすじ

黒人への差別が根強い1980年代の米アラバマ州。犯してもいない罪で死刑宣告された黒人の被告人ジョニー・Dを助けるため、新人弁護士のブライアンが立ち上がるが、仕組まれた証言や白人の陪審員たち、証人や弁護士たちへの脅迫など、数々の困難に直面する。

 

 

パンフレットについて

価格820円、表1表4込みで全28p構成。

縦型。キャストと監督のコメント、大学教授の藤永康政氏、原作者ブライアン・スティーブンソンのコメントなどのコラムが掲載されており、読みものとして価値が高い。

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感想&解説

本作中、黒人を有罪にするため偽証を強要した検察官が、「ここはアラバマ物語の舞台だ」という意味のセリフを口にする。アラバマ物語」とは、1930年代のアメリカ南部でまさに黒人の無実を証明する為、グレゴリー・ペック演じる弁護士が奮闘する物語だが、結局は陪審員が全員白人の為、論理的な弁護にも関わらず、黒人の無実は証明されないという物語だが、これが非常に皮肉に響く。

 

この「黒い司法」の舞台である80年代のアラバマでも、「アラバマ物語」の1930年代と同じく、黒人への差別は変わらず横行しており、公平性の無い裁判が日々行われて、黒人たちは冤罪で死刑にされていくことが観客には伝わるからだ。「黒人差別」をテーマにしたアメリカ映画が、毎年これだけ製作されている自体で、現在進行形の社会問題としてまったく解決されずに根強くはびこっている事が、日本にいても強く感じられる。そして毎回こういった作品を観る度に、「本当にこんな酷いことが実際にあったのか?」と驚きを隠せないのである。

 

本作「黒い司法」でも、黒人の被告人ジョニー・Dは、まったくの無実である殺人の罪で、死刑判決を受けている。しかも、それは罪を軽くするために検察側と取引した犯罪者の証言だけで立証されており、明らかに無罪の証拠は握りつぶされているのである。いわば関係者全員が、彼は犯人ではないと解りながら「犯人を逮捕した」という名目のためだけに死刑にされる黒人が、ジョニー・Dなのである。そして、それを救うために立ち上がる、正義の新人弁護士がマイケル・B・ジョーダン演じる、ブライアンだ。

 

物語としては、非常にシンプルでストレートだ。ブライアンがこのジョニー・Dの無罪を証明するために、未だに強い差別意識のあるアラバマ州を舞台に、ブライアン自らも差別や妨害を受けながらも、ジョニー・Dや家族たちに希望を与え続ける。それでも理不尽な判決の数々に心を折られながら、差別という大きな壁に立ち向かっていくストーリーだ。だが、本作においてはこのシンプルさこそが、強い感動を産む原動力になっている。このジョニー・Dが置かれている厳しい環境や、ブライアンのまっすぐな感情が観客にもストレートに伝わるがゆえに、ラストシーンのカタルシスが爆発する作りなのである。

 

劇中、ブライアンが白人検察官の家に出向き、本当の善悪について説くシーンがある。検察官は「市民を守るためにやっている」と反論するが、そんな彼にブライアンは「その市民に黒人は入っているのか?」と問いただす。なぜ無実だと解っている人間を死刑にするのか?、そんな権利が誰にあるのか?を問うのである。いわば、黒人とか白人を越えて、一人の人間として善悪を判断してほしいという、人間の尊厳に訴える問いなのである。

 

 

この作品には、この「人間の尊厳」という価値観が重要なワードになっていると思う。偽証してジョニー・Dを有罪に追い込んだ白人犯罪者が、自分の利益よりもこの黒人の命を救うべく「正しい事」を証言するシーン、先ほどの検察官が法廷においてブライアンの「正義の法」を行うべきだという演説を聞き、自ら告訴を取り下げるという独断をするシーンらにこそ、「黒人差別」という悪しき意識を絶てるのは、肌の色を越えた「人間の尊厳」なのだという強いメッセージになっていると思う。正直、これらのシーンに僕は涙が止まらなかった。

 

マイケル・B・ジョーダンジェイミー・フォックスの演技も申し分なく、137分と少し長めの上映時間だが、まったく飽きる事なく鑑賞できる作品だった本作。高い演出力で乗り切った監督のデスティン・ダニエル・クレットンは、今後手掛ける作品にも俄然興味が沸いてきた。今回、素晴らしい仕事をしたと思う。劇場での鑑賞により魅力が増すタイプの映画ではないが、スルーするには勿体ない作品だろう。名セリフ、名シーンの連続なので、お見逃しなく。

採点:7.5(10点満点)