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映画「ジュディ 虹の彼方に」ネタバレなし感想&解説 ゼルウィガーが歌う「オーバー・ザ・レインボー」は必見!

「ジュディ 虹の彼方に」を観た。

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第92回アカデミー賞をはじめゴールデングローブ賞でも、レニー・ゼルウィガーが主演女優賞を受賞した伝記ドラマ。「オズの魔法使」で知られるハリウッド黄金期のミュージカル女優ジュディ・ガーランドが、47歳の若さで急逝する半年前の1968年冬に行ったロンドン公演を中心に描いている。主演は「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズのレニー・ゼルウィガー。監督は日本ではまだ知名度が低いが、本作で見事な手腕を見せたルパート・グールド。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:ルパート・グールド

出演:レニー・ゼルウィガー、フィン・ウィットロック、ジェシー・バックリー

日本公開:2020年

 

あらすじ

1968年。かつてミュージカル映画の大スターとしてハリウッドに君臨したジュディは、度重なる遅刻や無断欠勤によって映画出演のオファーが途絶え、巡業ショーで生計を立てる日々を送っていた。住む家もなく借金も膨らむばかりの彼女は、幼い娘や息子との幸せな生活のため、起死回生をかけてロンドン公演へと旅立つ。

 

パンフレットについて

価格820円、表1表4込みで全32p構成。

オールカラーで写真集のような装丁。音楽評論家の中島薫氏、女優の彩吹真央氏、よしひろまさみち氏のエッセイ、レネー・ゼルウィガーのコメントが掲載されている。劇中の楽曲紹介などもあり、読み物としても充実している。

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感想&解説

この作品で描かれるのは、ミュージカル女優であるジュディ・ガーランドの輝くべき栄光の軌跡などではない。むしろ子役でスタートし、39年「オズの魔法使」の少女ドロシーに抜擢されて一躍スターダムに上り詰めたは良いが、そのハードなスケジュールをこなすために映画会社の上層部から薬物を投与され、肉体的にも精神的にも人生をズタズタにされた女優の生きざまを描いたダークな作品である。決して、楽しい気分になるミュージカル作品などではないし、彼女のもっとも輝いていた頃はあえて描かず、本当に晩年の1968年のロンドンのクラブ「トーク・オブ・タウン」のライブに出演した際の5週間だけにフォーカスした作品だ。


本作を語る上でやはり外せないのは、ジュディ・ガーランドを演じたレニー・ゼルウィガーの名演であろう。レニー自らが歌唱する、「トロリー・ソング」「カム・レイン・オア・カム・シャイン」といった楽曲のパフォーマンスも然ることながら、天才的な才能を誇りながらも幼い時から搾取され続け、傷つけられたメンタルが引き起こす悲劇の数々は強く観客の心を揺さぶる。ジュディは別れた夫、愛すべき子供たち、新たに見つけたパートナー、マネージャーと本当は密なコミュニケーションを取るべき相手たちと、ことごとくぶつかり傷つけあっていく。それは、ジュディが薬と酒に溺れて朦朧とした状態が続き、彼女は自分の人生をまるでコントロールできていない為だ。本来のジュディは奔放で愛すべき女性なのに、いかに昔のショービスの世界が才能ある一人の人生を搾取してきたのか?を辛辣に描いていく。


だがそれでも、ジュディの類まれなる才能を見せつけられる圧巻の場面はやはりラストシーンだろう。このシーンにおけるレニー・ゼルウィガーは本当にすごい。全ての信用とキャリアを失ったジュディは、最後にもう一度だけステージに立ちたいと懇願し観衆の前で歌う機会を得るのだが、ここで歌われる「オーバー・ザ・レインボー」は劇中でもっともエモーショナルな場面だ。もちろん、「オーバー・ザ・レインボー」はドロシー役でジュディがスターとなった「オズの魔法使」の劇中歌である。自らの人生を決定付けたこの曲に対しジュディは感極まり、途中で声を詰まらせて歌えなくなってしまう。だが、それを受け継ぐように歌いだすのは、なんとジュディを今まで応援してきた観客なのである。このシーンで、ステージの為に生きたジュディ・ガーランドというアーティストの存在が「観客の声」を通じて、一つの輪になって閉じられるのを映画として画的に見せられる。このシーンには思わず涙腺が緩んでしまった。


劇中でもジュディがゲイカップルの憧れとして描かれていたが、現代でも彼女はLGBTたちのアイコンと化している。LGBTのパレードに使われる「レインボーフラッグ」は、ジュディの「オーバー・ザ・レインボー」が由来だと聞いた事があるが、ハリウッドシステムの中で搾取されながらも強く生きたアーティストが、同じく迫害されてきた性的マイノリティたちに与えた影響は大きいのだろう。劇中でもLGBTの男性の弾くピアノを伴奏に「ゲット・ハッピー」をジュディが歌うシーンは大変に美しい。


破滅に向かって進み、多くのものを失っていくジュディの姿が痛々しく、同じアーティストを題材にした「ボヘミアンラプソディ」の持っていたライブシーンのカタルシスや、「ロケットマン」が持っていた存命中のアーティストをテーマにしたある種の楽観性とも違う、47歳と若さで亡くなったというジュディの人生を考えるとやや重い鑑賞感を伴う作品だと思う。特にプレゼントされたバースディケーキを美味しそうに食べる姿に、好きなものも食べれずに過ごしてきた彼女の幼少時代の姿が重なり、胸が苦しくなるようなシーンもあった。だが、本作品中でレニー・ゼルウィガーが歌う「オーバー・ザ・レインボー」は、映画史に残る屈指の名シーンとして、観客の記憶に残る素晴らしい場面だったと思う。このシーンを観るだけもこの作品の価値はあるだろう。

採点:7.0点(10点満点)