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映画「サーホー」ネタバレ感想&解説 インドのスター主演の大味アクション!

「サーホー」を観た。

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インド映画史上歴代最高の興行収入を記録し、そのあまりの面白さに日本でもヒットした「バーフバリ」シリーズ。その名作「バーフバリ」で主人公役を演じた、プラバースが主演したクライムアクション超大作だ。初公開時、インド映画ながらハリウッドの並み居るメジャー映画を抑え、「ワイルド・スピードスーパーコンボ」に次ぐ、世界興行収入オープニング第2位を記録したという大ヒット作品。監督はまだ長編二本目の若手監督スジート。今回もネタバレありで。

 

監督:スジー

出演:プラバース、シュラッダー・カプール、マンディラー・ベーディー

日本公開:2020年

 

あらすじ

いくつもの犯罪組織が街を支配する大都市ワージー。ある日、組織の頂点に君臨するロイが交通事故と見せかけて殺害された。組織内では実力者の1人であるデウラージがロイの後継の座を狙うが、ロイの息子ヴィシュワクも父を引き継ぎボスとして名乗りを上げる。そんな中、200億相当の大規模な窃盗事件が発生。潜入捜査官アショークは女性警察官アムリタ―らとともに事件の捜査を開始する。窃盗団を追う中で、アショークは裏組織が隠し持つ金庫の存在にたどり着く。

 

パンフレットについて

価格800円、表1表4込みで全24p構成。

横型レイアウト。写真は多目だが情報量は少ない。プラバースのカットだらけだが、出演者や監督コメントなどは無し。江戸木純氏のレビューが掲載されている。

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感想&解説

本作の上映時間は169分。アクション映画としては、かなり長いほうだろう。だが、体感時間としてはこの半分くらいだと思う。それだけ、とにかくバイク&カーアクション、銃撃&格闘シーン、ラブロマンス、そして歌と踊りのシーンが大量にこれでもかと投入され、大きな鍋でグツグツと煮込まれているといったイメージの映画だ。よって、鑑賞中に退屈はしない。ただ惜しむべきは、あまりに要素を大量にぶち込んでいる為に、全体的に大味でかなり雑な作品になってしまっているところだと思う。もちろん「バーフバリ」が洗練された作品だったかと言えばそうではないが、シーンの繋がりや編集には観客を混乱させないという配慮が感じられたし、、ストーリーもわかりやすく整理されていた。


その点、今作「サーホー」は冒頭から設定が複雑で、こちらの頭を悩ませてくる。インドの架空都市ワージーという場所で、犯罪組織を牛耳っているロイという男がいるのだが、彼はかつて抗争に敗れてムンバイからワージーに渡たり、首領プルドヴィラージの後継者となって組織を拡大する。だが、プルドヴィラージの息子デーヴラージはそれに不満を持っていた。その後、抗争を懸念したロイは裏稼業から足を洗い、合法的なビジネスを開始した矢先に、ムンバイで何者かに暗殺されてしまう。だがロイには人知れず、ヴィシュワクという一人息子がいて突然名乗りを上げる。ロイには莫大な資産があり、ヴィシュワクはその金庫を開けるためには「ブラックボックス」が必要だと言うのだ。


ここまでがストーリーの前提にあるのだが、まずこの設定を理解するのに苦労する。ここに、アショークというプラバースが演じる凄腕の捜査官とアムリタという女性捜査官、ブラックボックスを追う謎の男が交錯してくる。更に映画が始まり90分くらいで、この謎の男こそが覆面捜査官であり本当のアショークであること、更にプラバース演じる捜査官は「サーホー」という犯罪者であることがわかり、サーホーの「It's Showtime」というセリフと共にタイトルが表示されるのだが、この頃には映画を一本観終わったくらいの感覚がある。と同時に、話の複雑さとツッコミどころが満載で頭が混乱してくるのだ。展開に無理があり過ぎるのである。


そのあとに度々インサートされる、サーホーとアムリタによるダンスシーンの数々は、場所もセリフもほとんどストーリーには関係のないMV風で、プラバースの「俺、イケてるだろ」のキメ顔が連発される度に苦笑いが浮かんでしまう。さらに、この女性捜査官のアムリタはサーホーは犯罪者だと知り二重スパイを装っているが、常に警察からの連絡をガン無視して、サーホーとイチャイチャしてしまうというダメっぷりを見せて観客を更に混乱させる。この後もこのブラックボックスを巡っての、警察とデーヴラージ一味、サーホー達の攻防が続くのだが、突然アイアンマンのような「ロケットスーツ」でサーホーが空を飛び始める展開には、さすがに呆れてしまった。


ネタバレになるが、ブラックボックスを載せたトラック2台を替え玉としてすり替えたという、映像で観ても全く説得力のない展開を経て、クライマックスの肉弾戦、そして実は、サーホーこそがロイの真の息子だったという最後の大きなツイスト展開を用意している本作だが、その頃にはもう悪い意味でお腹いっぱいで胃もたれしてくる。監督の「ミッション:インポッシブル」「ワイルド・スピード」「マトリックス」「マッド・マックス」「マーベルシリーズ」などへのリスペクトは各オマージュシーンから痛いほど感じるし、劇中で「ターミネーター2」のシュワルツェネッガー出演シーンをそのまま使うなど、ハリウッド大作への憧れも強く感じる(このシーン権利処理がよく出来たなと感心する)。また、とにかくツイストを効かせまくったストーリー展開も、娯楽映画として観客を驚かそうという気持ちの表れだと思うので、好感は持てる。だが、とにかく全てが大味過ぎるのである。


ヒーロー映画というフォーマットの中で、ひらすらプラバースという俳優が演じるサーホーなるキャラクターの全能性、ハチャメチャで「ポリティカリィコレクト」や「ガールズエンパワーメント」などはどこ吹く風の前時代的な世界観など、ハリウッドに憧れと野望を持つクリエイターが作った、とにかくインド産アクション映画として力推しの一作であることは間違いない。ラストのサーホーが王座に帰ってくる展開は「バーフバリ 王の凱旋」という、監督から世界的に大成功した作品への目配せも感じたのだが、残念ながら本作は「バーフバリ」には遠く及んでいないと思う。やりたい事へのパワーは感じるのだが、どうしても一本の映画としての完成度という意味では物足りない、観ていてノイズの多い作品だった。

採点:5.0点(10点満点)