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映画「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」ネタバレ感想&解説 グレタ・ガーウィグ監督の才能が光る快作!

「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」を観た。

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レディ・バード」で世界中から大絶賛されたグレタ・ガーウィグの監督2作目。前作に引き続きシアーシャ・ローナンと再タッグを組み、ルイザ・メイ・オルコットの名作小説「若草物語」を映画化している。第92回アカデミー賞では作品賞はじめ計6部門でノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞。その他の出演は「君の名前で僕を呼んで」のティモシー・シャラメ、「ハリー・ポッター」シリーズのエマ・ワトソン、「ミッドサマー」のフローレンス・ピュー、そして名女優メリル・ストリープローラ・ダーンなどが脇を固めている。今回もネタバレありで。

 

監督:グレタ・ガーウィグ

出演:シアーシャ・ローナンティモシー・シャラメエマ・ワトソンメリル・ストリープ

日本公開:2020年

 

あらすじ

南北戦争時代に力強く生きるマーチ家の4姉妹である、利発な長女メグ、ちょっと頑固だが活発な次女ジョー、内気で優しい三女ベス、我がままな末っ子エイミー。女性が表現者として成功することが難しい時代に、ジョーは作家になる夢を一途に追い続けていた。性別によって決められてしまう人生を乗り越えようと自分が信じる道を突き進むジョーだったが、姉妹にある悲劇が襲う。

 

 

パンフレットについて

価格820円、表1表4込みで全36p構成。

装丁が丁寧でクオリティが高い。写真のカット数も多く、見応えがある。主演者&監督コメントや山崎まどか氏、美村里江氏、大学教授の佐々木真理氏など女性たちのコラム情報量がすごい。

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感想&解説

本作の原作である「若草物語」という古典作品を、不勉強ながら読んでいない。しかも今回4回目の映画化という事だが、その中の一作も観ていない。前作は1994年のジリアン・アームストロング監督、ウィノナ・ライダー主演だったらしいが、「若草物語」というタイトルのイメージからどうにも食指が動かなかったのである。だが、今回はグレタ・ガーウィグ監督の二作品目という観点から鑑賞。そういう意味で今回の感想は、過去作や原作との比較などは出来ずに、本作単体での感想になる。

まず映画作品として、とても好感の持てる一作だと思う。まず役者が主役のシアーシャ・ローナンを始めてとしてエマ・ワトソン、フローレンス・ピュー、ティモシー・シャラメと、それぞれ演技の質が素晴らしく、表情や声色から観ていてすんなりと各キャラクターの感情が理解できる。特に末っ子エイミーを演じたフローレンス・ピューは、アリ・アスター監督の「ミッドサマー」に出演していた時とまったく違う役を見事に演じていて、人を妬みやすい面もあるが、素直で情熱的という複雑なキャラクターを魅力的に表現していた。主役のジョーが大切にしている原稿を腹いせに焼いたり、ジョーとティモシー・シャラメ演じるローリーを巡って三角関係になったりと、本作の中では悪役のポジションとして単純化されそうなキャラクターだが、それでも人間的で愛嬌のあるキャラとして確立できているのは、フローレンス・ピューの演技の幅のおかげだと思う。

 

そしてシアーシャ・ローナン演じる主人公ジョーは、結婚だけではなく自分の仕事を全うし、自立した人生を目指す女性として、極めて「現代的」なキャラクターだと感じた。150年前の文学作品の主人公とは思えないくらい、同世代の若い観客もすんなりと感情移入ができるだろう。彼女にとっては仕事や家族や姉妹たちが人生の基盤であり、結婚だけが生きる道だと思われていた19世紀の女性観において、恋愛に依存しないその姿勢はとてもパワフルに映る。だが、ジョーがさらに魅力的なのは、彼女が「作家になりたい」という強い自己実現の信念を持ちながらも、他の姉妹たちが結婚していく姿を見て、やはり一人で生きていくのは寂しいと感じてしまう、その誰もが感じる普遍的な弱さもあるからだと思う。その心情を母親に思わず吐露するシーンは、本作屈指の名シーンだった。

 

 

さらに後半、屋根裏部屋でジョーが寝る間も惜しみながらも、必死に「若草物語」を書きながら原稿を床に並べていくシーン、好きな事を一途に追及するその姿には心を打たれる。まだ誰にも期待されていないが自分にとって価値のある事を追求する姿は、男女問わず本当に美しいと思う。これは世界中で今、何かを作ったり発信しているクリエイターたちの姿そのものだ。僕はこういうシーンを観ると、涙腺が緩んでしまう。自ら作品を出版社に持ち込み、ギャランティーを交渉しながらも作品の著作権を守るジョーの姿勢は、自立したクリエイターのあるべき姿だ。そしてこれは、半自伝的なデビュー作「レディ・バード」で成功し、タフなハリウッドの映画業界で戦い抜く、女性監督グレタ・ガーウィグ自身を投影しているのではないだろうか。

 

ジョーが出版社に持ち込んだ原稿は最初ボツにされそうになるのだが、編集長が家に持って帰った原稿を彼の子供たちが読んで、その続きが読みたいと言った為に出版にこぎつけたという展開は、作家J・K・ローリングが「ハリー・ポッター」出版までに実際に辿った実話とシンクロする。実際、これが原作にあるシーンなのかは不明だが、もしかしたら同じ女性作家の運命として、この映画用に追加されたシーンなのかもしれない。才能のある人間には男も女もない。野心を持ってチャンスを掴めばいいし、そのクリエイティビティを発揮して世に飛び立てばいいというメッセージが、ストレートに観客に投げかけられる。

 

ジョーが幼馴染のローリーからのプロポーズを断ったことで、ローリーは妹エイミーと結婚するという展開になり、遂に作家としての成功を目指すジョー。だが最後は、自分の作品をもっともストレートに批評してくれたフレデリックと恋に落ちるという展開は、ジョーの描いた作品内でのことなのか?実際に起こったことなのか?をあえてボカシた描き方をしているが、ラストの学校シーンではジョーとフレデリックは一緒にいるので、結婚しているかは置いておいて、これはハッピーエンドという事だろう。

 

アカデミー賞に輝いた本作の衣装は、各キャラクターの気持ちや背景を雄弁に語り観ているだけで楽しいし、映画音楽界の巨匠になりつつあるアレクサンドル・デスプラの奏でる音楽は、構成はクラシックを基調としながらも格調高くなりすぎないバランスなのは流石だ。役者、演出、脚本、衣装やセット、音楽と映画を構成する各要素が高い基準で融合している本作。グレタ・ガーウィグの監督としての才能には感動させられたが、この「若草物語」という作品自体の持つメッセージの素晴らしさも発見でき、今まで敬遠していたのが勿体ないくらい、素直に観て良かった作品だった。

 

 

採点:7.5点(10点満点)