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映画「ブラック アンド ブルー」ネタバレ感想&解説 スルーするには勿体ない!女性警官アクションの傑作!

「ブラック アンド ブルー」を観た。

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麻薬密売と汚職がはびこる街でたまたま同僚の犯罪を見てしまった為に、警察からも犯罪組織からも追われる事になる黒人女性警官の奮闘を描いたアクション作品。監督は2019年に「侵入する男」という作品を撮っているデオン・テイラー。個人的にはまったくノーマークで、日本ではほとんど無名の監督だと言っていいだろう。脚本はピーター・A・ダウリングで、過去には2006年のジョディ・フォスター主演「フライトプラン」を担当していた、と書くといきなり駄作感が漂うが、本作は比較するのも申し訳ない位によく出来た脚本に仕上がっている。主演はダニエル・クレイヴ版「007」シリーズで、マネーペニーを演じている英国女優ナオミ・ハリス。他には「トランスフォーマー」「ワイルド・スピード」シリーズのタイリース・ギブソンや「キャプテン・アメリカ」のフランク・グリロなどが出演している。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:デオン・テイラー

出演:ナオミ・ハリス、タイリース・ギブソンフランク・グリロ

日本公開:2020年

 

あらすじ

ルイジアナ州ニューオーリンズにある故郷の街で、警察官として第2の人生を歩み始めた退役軍人のアリシアだったが、黒人というだけで理不尽な扱いを受けたり、不当な差別を受けたりする日々が続いていた。そんなある日、先輩警察官とともに通報があった現場に急行したアリシアは、そこで警察官が麻薬の売人を殺害する場面を目撃する。見てはならない場面を目にしてしまったアリシアは、口封じのために同僚の警察官から追われる身となってしまう。

 

パンフレットについて

発売無し。

 

感想&解説

これだけ面白い作品の割には、公開規模がかなり限定的で残念だ。映画館で鑑賞するのは都内でも苦労するほどで、しかもパンフレットも作られていない。こういうスター俳優不在のアクション映画は日本では商業的に苦戦するという事なのだろうが、本作はスルーするには勿体ない。誰が観ても面白いと思うであろう、非常に完成度の高いアクション映画に仕上がっていた。いわゆる警察アクションものなのだが、警察組織自体も汚職にまみれていて他に信用できる者がほとんどいないという状況に追い込まれた、黒人女性警官が主人公というのがまず面白い。

 

映画の冒頭から、ナオミ・ハリス演じる私服でランニングをしていた主人公アリシアが、いきなり白人警官のパトカーに止められ、不当な理由で尋問を受けるシーンから始まる。アメリカ在住の黒人女性がどれほど屈辱的な扱いを受けているのか?が短いシーンながら端的に描かれ、この場面からいきなりアリシアに感情移入させられるのだが、この中で彼女のIDを見た白人警官が、「この女はブルー(警察官)だ」と同僚に告げる事から、本作のタイトルである「ブラック アンド ブルー」の意味が解る。ブルーとは警察官を指し、ブラックとはもちろん黒色人種を指すのだろう。この直後のショットで、アリシアが青の警察制服に身を包んで登場するのが印象的だ。

 

ここから、アリシアと相棒の男性警察官ケヴィンがパトロールに出かけるのだが、町はハリケーンの影響で過疎化し治安の悪化も激しく、しかもマフィアのボスであるダリウス一味が周囲を牛耳っている事が描かれる。その夜、ケヴィンの代わりに夜勤に入ったアリシアは、そこで黒人警官のディーコンと行動を共にすることになるのだが、ディーコンが単独行動を取り始めた為、その後を付けると、なんと麻薬課の警察官たちがヤクの売人を撃ち殺しているところを目撃してしまう。そしてアリシアはボディカメラを着用しておりその模様を撮影していた為に、そのカメラを強奪しようとする警察官たちに追われる羽目になる。

 

ここからネタバレになるが、現場では銃で撃たれるも、なんとか男たちに追われながらその場を脱出できたアリシアは、相棒のケヴィンに連絡するがなんと彼も汚職警官の一人であり、彼女を捕獲しようとしてくる。麻薬を横流しして儲けている汚職警察は広範囲に及んでおり、誰を信用していいか解らないアリシアは完全に四面楚歌となってしまうのだ。だが、ただ一人雑貨店の黒人店員マウスだけはケガをしている彼女を匿ってくれ、手を貸してくれるパートナーとなる。彼も警察の暴挙の数々には苦い思いをしてきたからだ。なかなかアリシアの足取りが掴めずに焦った麻薬刑事は、マフィアのボスであるダリウスに売人を撃ち殺したのはアリシアであるという、偽の情報を与え命を狙わせる。町中の警察官やマフィアから命を狙われる事になったアリシアとマウスは、身の潔白を証明し、警察内部の犯罪を立証するボディカメラの映像を、なんとか警察上層部に届ける為に奮闘する事になるのだ。

 

この主人公のアリシアが持つ「正義感」が、この物語の強い推進力になっている。屈強な男たちから命を狙われ傷つきながらも、彼女は警察内部の不正を絶対に許さない。マウスからも「見て見ぬ振りをすれば命は助かる」と説得されるが、彼女は自分の正義を貫き通し、保身や金の為に自分を正当化する悪人に果敢に立ち向かっていく。その姿に一般人であり本来は無力なマウスも感化され、勇気を振り絞り利他的な行動を起こしていくのだ。この映画は何を犠牲にしても守り通すべき「尊厳」を持った、美しい人間を描く。シンプルながらも黒人として、そして弱き立場として、今までアリシアやマウスの受けてきた痛みが一気にカタルシスに昇華する終盤の展開には、思わず涙が出そうになる。警察のトップがやはり黒人女性で、彼女に映像を渡すまでが本作の目的になっているところからも、この作品の意図は明確だろう。

 

アリシアとマウスの間に、半端な恋愛要素を持ち込まないところも良い。ここに共に戦う二人に恋愛的な展開を入れると、せっかくのテーマが矮小化してしまうからだ。ラストのあっさりとしたお互いの友情を確かめ合う描写には、とても好感を抱いた。とにかく上映時間は108分とタイトだが、描かれている内容は演出、アクション、ストーリーと非常に高いレベルで融合している名作だと言えるだろう。主演のナオミ・ハリスも、小さい身体で恐怖と戦いながら必死に振る舞い戦う姿が、とても美しく、この女優の新たな魅力が溢れていたと思う。まだ劇場公開している間に足を運んで頂くか、ぜひソフト化された際にでもチェックしてほしい一作だ。デオン・テイラー監督の過去作もこの機会に観てみたい。

採点:7.5点(10点満点)