映画を観て音楽を聴いて、解説と感想を書くブログ

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映画「日本沈没2020 劇場編集版 シズマヌキボウ」ネタバレ感想&解説 表現したいメッセージは明確なのだが、あまりに雑な展開に辟易する珍作!

日本沈没2020 劇場編集版 シズマヌキボウ」を観た。

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過去に何度も映画化されてきた小松左京の名作小説「日本沈没」を、新たにリメイクした作品。監督は「夜は短し歩けよ乙女」や「夜明け告げるルーのうた」の湯浅政明監督。そもそもは2020年7月にNetflixで配信開始された10話のアニメーションを湯浅監督自身が再編集、再構築した劇場版である。よって151分の上映時間というアニメ作品としてはなかなかの長編となっている。声の出演は上田麗奈村中知佐々木優子など。ネトフリ公開時にはかなり賛否両論あった作品だという事を知り、湯浅監督ファンとしては思わず劇場に駆けつけてしまった。今回もネタバレありで感想を書きたい。


監督:湯浅政明

出演:上田麗奈村中知佐々木優子

日本公開:2020年

 

あらすじ

2020年、突然の大地震が日本を襲った。東京が壊滅的な状況になる中、武藤家の歩と剛の姉弟は一家4人で東京からの脱出を始める。しかし、行く先々でも巨大な地震が断続的に発生し、彼らを追い詰めていく。生きるために迫られる数々の選択、出会いと別れ、そして残酷にも降りかかる生と死。けっして未来を信じることを忘れない歩と剛は、極限状態でさまざまな局面に立ち向かいながら、懸命に生き抜く強さを身につけていく。

 

パンフレット

価格600円、表1表4込みで全20p構成。

A4縦サイズ。紙質は若干悪いがオールカラー。監督湯浅政明氏のインタビューとキャラクター設定、映画評論家の清水節氏の過去の日本沈没解説などが掲載されている。

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感想&解説

今回は頭からネタバレ全開なので、ご注意を。湯浅政明監督が訴えたいメッセージが明確に伝わってくるという意味では、一見の価値はある作品だとは思う。2020年に公開されるべき映画としてラストシーンから受ける感動は大きく、このコロナ禍という事もあるが、原作が書かれた1973年では表現できなかったメッセージがしっかり伝わってくる。「日本の復興」とは日本の中だけの課題ではなく、市井の人々がインターネットで世界と繋がっている現代において、世界中の人たちと協調し多様性を理解し助け合うことで、ようやく達成できる事なのだというメッセージだ。よって、個人的には本作の評価として聞かれる「反日映画」という印象は持たなかった。


本作がフィリピンと日本人の夫婦、更にその娘と弟という4人家族が主人公に設定されている事で、右翼的な団体から人種差別を受けるというシーンがある。終盤に弟がラップにて「こんな日本など沈んでしまえ」とライムするのだが、そもそもこの弟のキャラクターがたびたび英語を喋り、普段からゲームで世界の人たちと繋がっているというグローバルなキャラクターである為、これは世界から見た日本への視点と取れる。だが、そのあとで日本人キャラから見た「日本の良いところ」も表現されているし、この弟がラストではe-sportsの世界大会で、フィリピンではなく日本代表として出場している事からも、この反日的な視点はカバーされていると思う。沈没した日本の復興を世界が援助し、オリンピックに参加するという展開も、決して「日本万歳」でも「日本ディス」でもなく、よりフラットにこれからの日本は世界との調和が必要なのだと訴えてくる。これはこのコロナ禍において世界中が断絶している今、作品からのメッセージとして大きな希望を感じる。


ただこの作品の最大の問題点は、「ディザスター映画」としての脚本が看過できないくらいに酷いことだ。いくら最後に大仰なメッセージを用意していても作品としてキャラクターに感情移入し、ストーリーに没入できていないと白けたものになってしまう。これが出来ていないことが、本作の酷評に繋がっているのだろう。湯浅作品にまさかこの表現を使うとは思っていなかったが、端的にお話が行き当たりばったりで「面白くない」のである。とはいえ冒頭は悪くない。日本で大地震が起こったらこうなるだろうという表現が積み重なっており、震災による混乱した日本という感じはしっかりと出ている。だが、やはりネットでも酷評の嵐であった「父親による不発弾爆発シーン」あたりから雲行きが怪しくなる。まず沖縄でもあるまいし、関東近郊でそんなに不発弾がゴロゴロと転がっている地域はないだろうし、逆に素人が芋堀りをした位で発見できるくらい不発弾が埋まっている地域なら、あんなに簡単な鉄柵くらいでは危なくてしかたない。とにかく芋堀をしていて不発弾を掘り当て、その爆発で父親が死ぬという序盤の展開から始まり、そこから終盤まで本作はあまりに不自然な展開が続いていく。


中盤にシャンシティという宗教団体の組織の中で過ごすシーンがあるのだが、この組織がまるで60年代のヒッピーコミューンのように描かれる。彼らは大麻を吸い、パーティと称し音楽を浴びて恍惚とする人たちだ。そして10歳の少年を媒介として死者の声が聞こえるという、「マザー」という女性を中心にしたコミュニティとして表現されるのだが、驚くべき事にこの少年とマザーの力が本物であると本作は描くのだ。正直この理由はまったく解らない。天災が起こったことにより宗教の力で人々を統率していき、権力を得ていく人物を描くことは作劇的に自然だが、ここで「本物の能力者」を登場させる意味が解らないし、この作品のリアリティラインを乱すことにしかなっていない。またこの組織の中では、なぜか電気や食料といったインフラや物資はまったく問題ないようだし、シンボルのような巨像や牢屋まであり、この映画を観る限りでは、彼らの財源やなぜこれほどまでに大震災の影響を受けない組織なのか?もまったく謎で、このあたりはストーリーとしてノイズでしかない。


さらにこのシャンシティでは、日本沈没の危機を予測していたという小野寺という男と出会う事になる。この小野寺は寝たきりの状態で目と左手しか動かせない状態だが、この小野寺が動かせる指で発信するモールス信号によって地震を察知していくのだが、これが恐ろしいくらいに細かく的中していく。この小野寺が地震が来ると伝えてくれば、100パーセントの確立でその瞬間に地震が起こっていく。まさに超能力だ。さらに姉弟が海に漂流するシーンでなぜか2回も仲間の船に助けられたり、仲間であるyoutuberのカイトに至っては、いきなり自衛隊から盗んだという海陸両用機に乗っていたりと、あまりに展開のご都合が良すぎる。さらに終盤に海の上で「気球」を見つけたという展開に至っては、もはや苦笑いしか出ない。気球には「KITE」と書いてあったが、これはカイトが事前に用意していたものなのか?それならなぜ先に言わないのか?など謎が多すぎる。


物語の中で奇跡や偶然により主人公が助かるというのは、多くて二回までだ。それ以上だと、観ているほうも真面目に観る気が失せてしまう。本作では、このあたりのディザスタームービーとしての演出と脚本がダメダメで不自然過ぎる為、まったく展開にハラハラしない。パンフレットでの湯浅監督の発言で「(脚本の粗は)意図的にやっている」というものがあったが、それで映画が面白くなっているなら何の文句もないのだが、残念ながらそうなっていないのが本作の最も残念なポイントだ。さらに言えば作画も酷い。もちろん元々はネトフリ配信用のアニメなので、他の劇場用アニメーションと比べるのは酷なのかもしれないが、今の映画館では「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」や「ウルフウォーカー」など、上質な作画クオリティのアニメ作品が公開されているのだ。しかも本作はなぜか「特別料金」による上映で、割引きなどがいっさい効かないのもマイナス要素だ。


冒頭で書いたように、ラストから伝わる作品からのメッセージは理解も共感もできる。ここが監督のもっとも伝えたかった部分なのだとも思う。だがその他の「脚本と作画」という、アニメーション映画としての基本的な部分に、大いに問題のある作品だろう。湯浅政明監督の作品に「普通」を求めるのは野暮だと分かってはいるが、それにしても本作はもう少しシンプルにストーリーを紡いだ方が良かった気がする。ラストが感動的なだけにあまりに残念な作品であった。

採点:5.0点(10点満点)