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映画「ベター・ウォッチ・アウト:クリスマスの侵略者」ネタバレ感想&解説 ポップなアートワークに騙されるな!良くも悪くも胸糞なホラーサスペンス!

「ベター・ウォッチ・アウト:クリスマスの侵略者」を観た。

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北米最大のジャンル映画祭「ファンタジア映画祭2017」や「ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭2017」で高い評価を得た、ホラー風サスペンス映画。主演はM・ナイト・シャマランの「ヴィジット」のお姉さん役といえばピンとくる人も多いであろう、オリビア・デヨング。さらに「PAN~ネバーランド、夢のはじまり」のピーターパン役だったリーヴァイ・ミラーが共演している。ちなみに「ヴィジット」で弟役だったエド・オクセンボールドも、重要な役で出演している。監督はおそらく本作が長編デビューとなるクリス・ペッコーバー。上映している劇場は都内でも一館のみという寂しい状態だったが、作品の注目度が高いのか満席での鑑賞だった。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:クリス・ペッコーバー

出演:オリビア・デヨング、

日本公開:2020年

 

あらすじ

クリスマスも近いある日。アシュリーは、ベビーシッターのアルバイトでルークの家を訪れる。もうすぐ13歳のルークは年上のお姉さん、アシュリーに興味津々。ルークはアシュリーの興味をひこうとするが、彼氏との別れ話で頭がいっぱいのアシュリーは子供のルークに興味が持てない。そんな中、アシュリーの元に不審な電話がかかってくる。そして家の外には不審者の影がちらつき、アシュリーは年下のルークを守ろうとするのだが、ここから事態は思わぬ方向へ進行していく。

 

パンフレット

販売無し。

 

感想&解説

「ホラー版ホーム・アローン」というキャッチコピーを見て、ある程度”こういう内容だろう”というこちらの予想を完全に裏切ってくるという意味では、優れたジャンルムービーだと思う。あらすじにあるような、「女子大生のベビーシッターと13歳の少年が不法侵入してくる不審者からどのように戦うのか?」がストーリーの根幹で、この敵の正体を巡るサスペンスかと思いきや、中盤から映画のジャンルが明確に変わるのである。しかも、正直言って本作は相当に後味が悪い。ここが作品の評価の分かれ目のような気がする。


ここから完全にネタバレになるので、観る予定のある方はご注意を。序盤は完全にウェス・クレイヴン監督「スクリーム」的なホラー演出で、突然の侵入者に追い詰められていく13歳の少年ルークとベビーシッターであるアシュリーだったが、実はこの侵入者は少年ルークの同年代の友人であり、アシュリーの事が好きなルークが仕組んだ質の悪いイタズラである事が発覚する。彼女にいいところを見せようという魂胆だった訳だ。一旦、ここで劇場内に高まった緊張感が弛緩するのだが、実はこの中盤からの展開が本作の真骨頂となる。なんと、この少年ルークが完全にサイコパスなのだ。


悪事がバレたうえにアシュリーに罵倒されたルークは、アシュリーを階段から突き落とし、気絶させたうえに椅子に縛り上げる。その上でネチネチと言葉と行動でアシュリーをいたぶるのである。このあたりはミヒャエル・ハネケ監督の「ファニーゲーム」を思い出したが、本作は13歳の少年が悪事をやっているだけに一層インパクトが強い。さらにここから彼の犯行は加速していき、アシュリーの彼氏を呼び出しバットで殴ったうえで、同じように椅子に縛りあげるのである。本作は「R15+」のレーティングなのだが、このあたりになるとさすがに笑えない展開になっていき、だんだんと観ていて居心地が悪くなってくる。


そしてその最初の山場が、振り子の原理で二階から紐の付いたペンキ缶を投げて、一階で縛られているボーイフレンドの頭を潰すというショックシーンだろう。もちろん、これは「ホームアローン」に存在するシーンのパロディなのだが、本作のそれは全く笑えない。グチャというSEとペンキの黄色と血の赤が混じり合って、直接的にゴア描写は見せないが凄惨な演出になっているのだ。しかもそれを見たルークは喜々とした声を上げて興奮する。ここで、このルークという少年が真のサイコパスである事が観客にも伝わり、さらに緊張感は高まっていく。この後の展開も酷い。さらに元彼を呼び出し、全ての犯行を彼に押し付けて自殺に見せかけて殺したり、さすがに罪の意識にさいなまれた友人がアシュリーを助けようとしたところをショットガンで撃ち殺したりとやりたい放題である。


母親のお腹の中にいる”胎内音”が聴けるグッズを使って寝ていることから、いまだに母離れできていない設定のルーク。さらに年上の女性への成就しない片想いと性欲が彼を狂気に誘っているようだが、それにしてもここまで狂った未成年キャラというのは新鮮だった。これはリーヴァイ・ミラーという子役が優秀なのだろうが、さすがに彼の今後のイメージが心配になってしまうほどだ。子供が人を殺しまくるというストーリーでは、リチャード・ドナー監督の「オーメン」があるが、少年ダミアンは”悪魔の子”であるという設定だったので、まだホラーとして割り切れたのだが、本作のルークは恵まれた一般家庭の子供なだけにより深い闇を感じるのだ。


ここから更にネタバレになるが、ラストはルークの完全犯罪になりそうなところで、一応最後は観客の留飲を下げるような展開になる。殺したと思っていたアシュリーが生きていたのだ。再三「ガムテープ」によって動きを拘束されてきたアシュリーだったが、このテープによって止血し命を救われるという展開自体は上手い。傷だらけで救急車に乗せられながら、ルークに中指を立てるアシュリー。これでルークの犯罪は明るみに出るだろうというところでエンドクレジットが始まる。だが本作は、それをもう一度エンドロール中のラストワンカットで覆してくるという、意地の悪い仕掛けを用意している。なんと、母親にアシュリーのお見舞いに行きたいとねだるのだ。個人的にはこのシーンは蛇足だったかと思うが、この一言のおかげで、観客は最後まで嫌な気持ちで劇場を後にする事になる。ある意味、ホラーサスペンスの結末としては見事だ。


あえてだろうが、ポスターワークのポップなイメージや予告編とは大きくかけ離れた本作。無軌道な少年の犯行の為、思った以上に後味の悪い作品になっていたが、他の映画との差別化が出来ているという意味では、映画祭で評価されているのも理解できる。88分の上映時間という事あり展開が早い為退屈はしないし、ホラー映画としての演出もしっかりしていてドキドキもさせられる。シンプルに言えば、エンターテイメント映画として面白いのである。ただ本作が嫌いという人が一定数いるのは想像できるので、アートワークからのミスリードにはご注意を。

採点:7.0点(10点満点)