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映画「アーヤと魔女」ネタバレ感想&解説 吾朗監督の"ジブリを変えたい"という熱意だけが空回りした作品!

映画「アーヤと魔女」を観た。

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2020年12月30日に宮崎吾朗監督の最新作であり、スタジオジブリの最新作でもある「アーヤと魔女」がNHKにて放送されたのち、延期を経て2021年8月に劇場版が公開された。本作はジブリ初の本格3DCG作品である。テレビ版は19時30分からの地上波放送ということもあり、事前の印象は“ファミリー層向け”の内容だと思ったが、実際はどうだったのか?ちなみにテレビ版と劇場版とのストーリー的な違いは無いようだ。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督: 宮崎吾朗

出演:平澤宏々路、寺島しのぶ豊川悦司濱田岳

日本公開:2020年&2021年

 

感想&解説

宮崎吾朗監督は2006年公開の「ゲド戦記」で長編劇場作品デビューしたが、正直作品の評価としてはボロボロで、続く2011年「コクリコ坂から」も賛否両論あり、なかなか父親である宮崎駿の影響が消せないで苦労していた印象が強い。そのあたりはNHKが放送していた『ふたり「コクリコ坂・父と子の300日戦争~宮崎駿×宮崎吾朗~」』という番組でも取り上げられていたが、その後ジブリを離れて「山賊のむすめローニャ」という作品を作り、3DCGの手応えをつかんだようだ。それが、本作の「アーヤと魔女」にも存分に活かされていると思う。もともとの原作は「ハウルの動く城」のダイアナ・ウィン・ジョーンズの児童小説であり、この原作を選んだのは宮崎駿氏だそうだが、劇場長編アニメ「君たちはどう生きるか」の制作に取り掛かったために、吾朗監督に声がかかったようだ。 

父親の駿氏が得意としている「手書きアニメーション」から離れ、まるでピクサー作品のような3DCGにジブリが挑戦するということで、今回はかなり宮崎吾朗監督ならではの持ち味が出せたのではないだろうか。制作スタッフも海外からのメンバーを参画させ、既存のジブリスタッフはほとんどタッチしていないようだが、主人公アーヤのデザインがやはり“ジブリ印”になっているのは興味深い。だが、あくまでもデザインとして似せているのであり、今回の主人公はかなり新しい試みをしていると感じた。彼女がかなり「意地悪な表情」をするのである。これは良くも悪くも過去のジブリ作品では無かった事だが、主人公アーヤの設定に強く関連しており手法として面白いと思う。

 

舞台は1990年代のイギリスで、 主人公は 10 歳の少女アーヤ。母親である魔女により孤児院で預けられたため、赤ん坊の頃から孤児として育ったアーヤは、誰もが自分の思いどおりにしてくれる孤児院での生活がとても快適だった。アーヤは言葉巧みに大人に取り入り、まさに“操る”ことで、その快適な生活を手に入れていたのだ。だから他の家庭に貰われたいなど一度も思ったことが無かったが、ある日突然やってきた中年の男女により、彼女は引き取られることになってしまう。しかもその中年女性も実は魔女で、アーヤを仕事の助手として毎日こき使うばかり。いくら頼んでも魔法を教えてくれないうえに、男性のマンドレークの口癖は「私をわずらわせるな」。そんな環境の中、アーヤは周囲の人を操って自分の思いどおりにさせてしまうという特技により、状況を変えていくというストーリーだ。

 

今回の主人公アーヤは、正直言ってかなり“嫌な子”に映る。それは作り手も意識している発言をしているが、大人に取り入って、いい顔をすることで世の中をうまく渡っていくタイプなのである。もちろん、とことん前向きだしポジティブで、努力家という良い部分もある。そのギャップが面白いし憮然とした表情や意地悪さが、コメディとして魅力的に映る場面もある。だが、やはり小説家であるマンドレークの作品を陰ではこき下ろしておいて、本人には「面白い小説」だと嘘を付いたり、あからさまに媚びを売って自分の要望を通そうとしたりと、子供なのに「裏の顔」がありすぎてどうも好きになれない。賢いというより"狡猾"なイメージで、バランスとしてネガティブな部分が目立つのである。ここは原作からもっと改編しても良かった気がする。


恐らく、ジブリの新作として公開し、過去のジブリ作品の場面をTVCMに入れている事からも、多くのファミリー層が観ることを想定している作品だろう。当然だが、決して大人だけが観る作品ではないのである。だがこの映画からは最後まで、「世の中はうまく大人に迎合して、渡っていけばいい」というメッセージを感じてしまい、正直子供には観せたくないと思ってしまった。しかもアーヤは「人を操る」という言葉を頻発するが、そもそも人は操るものではないのだ。さらに自分の行動で人を怒らせても、本心から謝るわけでも、自分の言動を反省して責任を取るわけでもない。どこか一場面だけでもいいので、他人を許したり、他人を思いやる利他的な行動により、アーヤが人として成長するという場面があっても良かったと思う。エンディングの展開も、ただただ彼女が甘やかされて終わってしまう印象だ。

 

結果、使われている音楽が70年代ブリティッシュロックのディープパープル風だったりと、いままでのジブリ作品とはまったく違うものを作るのだという、宮崎吾朗監督の熱意だけが感じられた本作。ただその割には、何故か登場する車が「カリオストロの城」のシトロエン&黄色いフィアット風だったり、トトロのおみやげ包みが登場したりと、半端なジブリ過去作への目配せがイラッとしたのも事実だ。さらにラストの尻切れ具合も、もう少し洒落ていれば納得感もあるが、突然の母親登場も伏線がない為に、ただの消化不良なシーンとなってしまっている。

 

コミカルなアーヤの表情や、食材が美味しそうという魅力的な場面もあったので、脚本をもっとブラッシュアップすれば今後3DCG作品もアリかもしれないが、少なくても本作はこのコロナ禍において、「ジブリブランド」から公開される作品に期待していたものとは大きく違っていたという感想だ。ジブリの子供向けの作品なら、もっと夢のある物語が観たいと思ってしまう。ちなみに、本作の挿入歌「Don't disturb me(私の邪魔をしないで)」、エンディングテーマ「あたしの世界征服」というタイトルからも、本作の作風がにじみ出ていると思う。過去の作風をそのまま二番煎じで出せば良いという訳ではないが、今までのジブリ作品は何が評価されてきたのか?をもう一度振り返るのは、3DCGという新しい表現方法を会得した吾朗監督にとって必要だったのでは無いだろうか。

採点:3.0点(10点満点)