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Disney+映画「ソウルフル・ワールド」ネタバレ考察&解説 大人向けピクサーの傑作!!

「ソウルフル・ワールド」を観た。

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『Disney+』で2020年12月25日から配信が始まった、ピクサー23作目の長編最新作。新型コロナウイルス感染拡大により劇場公開を断念し、『Disney+』での独占配信に切り替えられたのだが、本作は映画館の良い環境で観たかったというのが正直なところだ。監督は「インサイド・ヘッド」「カールじいさんの空飛ぶ家」のピート・ドクター。主人公ジョー・ガードナーの声はジェイミー・フォックスが担当している。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:ピート・ドクター

出演:ジェイミー・フォックスティナ・フェイ、グレアム・ノートン

日本公開:2020年

 

あらすじ

ニューヨークに暮らし、ジャズミュージシャンを夢見ながら音楽教師をしているジョー・ガードナーは、ついに憧れのジャズクラブで演奏するチャンスを手にする。しかし、その直後に運悪くマンホールに落下してしまい、そこから「ソウル(魂)」たちの世界に迷い込んでしまう。そこはソウルたちが人間として現世に生まれる前にどんな性格や興味を持つかを決める場所だった。ソウルの姿になってしまったジョーは、22番と呼ばれるソウルと出会うが、22番は人間の世界が大嫌いで、何の興味も見つけられず、何百年もソウルの姿のままだった。生きる目的を見つけられない22番と、夢をかなえるために元の世界に戻りたいジョー。ここから正反対の2人の冒険が始まる。

 

 

感想&解説

久しぶりにピクサー作品を観て、心が震えた。トイストーリー4」や「2分の1の魔法」も、もちろん良い映画だったが、さらに本作はもう一段深く、観た後で”自分の生き方”にまで影響が及ぶような作品だったと思う。正直、テーマからいっても子供向けの作品では無い。主人公のジョー・ガードナーは、ジャズピアニストになる夢を追い続ける45歳の音楽教師という設定なのだが、いわゆるアニメ的な外見のキャッチーさとは無縁のキャラクターだ。こういうキャラを主人公に立てて、4年半もの歳月をかけて作品を作り、商業作品として勝負できるところにピクサーの凄さがあると思う。


物語の主人公としては、非常勤講師として細々と音楽を教えているジョー・ガードナー。小さい頃からジャズミュージシャンを夢見ながら暮らしている。校長先生から正規雇用の話をもらい、ミュージシャンへの夢を諦めようとしたその日に、ひょんな事から憧れのジャズクラブでプロとして演奏できるチャンスを手にする。嬉しさに舞い上がるジョーだったが、なんとその直後に運悪くマンホールに落下してしまい、そこから「ソウル(魂)」たちの住む”生と死の境にある場所”に迷い込んでしまう。


そこはソウルたちが人間として現世に生まれる前にどんな性格や興味を持つかを決める場所で、ソウルの姿になってしまったジョーは22番と呼ばれる小さなソウルと出会う。メンター(師匠)として22番のやりたい事=「きらめき」を見つけ、自分も早く人間界に戻りたいジョーは、必死にいろいろな事を体験させるが、22番は音楽を含めて何にも興味を持たない。だが手違いでその後、二人の魂は人間界に戻ってくるのだが、ジョーの身体には22番の魂が、そしてジョーの魂は近くにいた猫の身体に戻ってしまう。そこから現実社会を生活するという二人の冒険が始まっていくのだが、果たしてジョーの魂は元の身体に戻れるのだろうか??というのが、大筋のストーリーだ。

 

 


本作「ソウルフル・ワールド」は、非常に哲学的なメッセージを視聴者に投げかけてくる。それは”人間は目的を持ってこの世に生まれるのか?”、さらに”目的を持たない人間は生きる価値がないのか?”という問いかけだ。この深遠なテーマに対して、本作は見事な回答を用意してくれるのである。過去のアメリカ映画は、「自分の夢を叶えよう!」「人生でやりたい事がある事は素晴らしい」「なりたい自分になればいい」と、アメリカン・ドリームを繰り返し描いてきた。それはアニメ作品も同様であり、ブラッド・バード監督「アイアン・ジャイアント」では”兵器”として生まれたロボットが、それ以外の生き方を自分で選び取るストーリーだったし、ピクサー作品でも「レミーのおいしいレストラン」は料理の才能があるネズミが、レストランのシェフになるという夢を叶えるという”才能”にまつわる話だった。


実写でも同じジャズミュージシャンを主人公とした作品で、デイミアン・チャゼル監督「セッション」には偉大なジャズドラマーになるという夢のためには、いかなる犠牲もいとわないという主人公が登場していたが、あの作品の登場人物の思考は極端にしても、アメリカ的なオブセッションとして「夢は叶えるべき」「人生で成功するべき」という考え方は、良くも悪くも様々な作品の中で繰り返し描かれてきたテーマだと思う。この作品の主人公ジョーも、教師の正規雇用を薦める母親と議論するシーンがあるのだが、ジョーはジャズミュージシャンになる事だけが人生の全てだと力説する。もちろんこういった強烈な夢がある人間に対して、この作品は否定しないが、逆にまったく夢もなくやりたい事もない”22番”というキャラをジョーと比較することで、夢を追うだけが人生ではない、本当は生きていること自体が素晴らしい事なのだと訴えてくるのである。


ジョーの身体に乗り移った22番は、ニューヨークの街で普通の日常を経験する。ピザを食べ、床屋に行き店の人たちと会話する。路上で演奏している歌を聴き、夕暮れに舞い落ちる落ち葉を見る。そんな何気ない日常描写の美しさが、”夢を追いかけること以外”の生き方もあると教えてくれるのである。「夢を叶えることは人生のきらめきの一つに過ぎない」という劇中のセリフがあるが、夢に挫けたり見つからなかった人にも、この作品は優しく語りかけてくれる。ラストシーンにおける、これからどう生きる?と聞かれたジョーのセリフが、本作の全てを物語っている気がする。それは「一瞬一瞬を大切に生きる」だ。


最後に、このソウルや生と死の境にある場所といった抽象的なイメージを、うまくビジュアル化する手腕も相変わらず素晴らしい。これはピート・ドクター監督の「インサイドヘッド」にも通じるのだが、誰も観た事がないイメージを分かりやすく具現化するというのは、相当なクリエイティビティが必要だと思う。圧倒的な映像クオリティに驚かされただけに、本作が劇場で鑑賞できなかったことが本当に残念だ。しかもスコアを担当しているのは、トレント・レズナー&アッティカス・ロスのコンビと、グラミーノミネートのジャズミュージシャンであるジョン・バティステという事で、もうサントラも購入決定である。圧倒的なカリスマを持ったジョン・ラセターが抜けたピクサーの今後には不安だったが、本作はそれを覆す傑作だった。できれば多くの人が鑑賞できるように、コロナ禍明けに劇場でも公開してほしいと切に願う。その価値は十分にある作品だと思う。

 

 

採点:9.0点(10点満点)