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映画「花束みたいな恋をした」ネタバレ考察&解説 タイトルが秀逸!ほろ苦エンターテイメント!

「花束みたいな恋をした」を観た。

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東京ラブストーリー」「カルテット」など数々のヒットドラマを手がけてきた坂元裕二氏のオリジナル脚本を、「罪の声」「映画ビリギャル」の土井裕泰監督が映像化した作品だ。主演は菅田将暉有村架純三浦大輔監督の2016年「何者」以来4年ぶりの映画共演だ。坂元裕二氏が初めて映画オリジナルのラブストーリーを手掛け、二人の男女が過ごした最高の時間とその結末を描いている。今回もネタバレありで感想を書きたい。


監督:土井裕泰

出演:菅田将暉有村架純、清原果耶

日本公開:2021年

 

あらすじ

東京・京王線明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った大学生の山音麦と八谷絹。好きな音楽や映画がほとんど同じだったことから、恋に落ちた麦と絹は、大学卒業後フリーターをしながら同棲をスタートさせる。日常でどんなことが起こっても、日々の現状維持を目標に2人は就職活動を続けるが、これを機に二人の関係が変化していく。

 

 

感想&解説

土井裕泰監督の前作「罪の声」があまりに素晴らしい映画だったこともあり、普段は観ないタイプの作品だが鑑賞。結果、非常にストレートな、そして特に大人が楽しめる恋愛劇だったと思う。映画にはもっとも刺さる年齢があると思うが、本作においてそれは30代~40代前半かもしれない。菅田将暉有村架純というキャッチーな配役から、歯の浮くようなセリフが連発される恋愛劇だと退屈だなと思っていたが、むしろ自分の若き日の経験に照らし合わせて「あるある」を楽しむタイプの作品だったような気がする。逆に主人公たちの年齢と同じくらいである、20代中盤までの観客には中盤以降気まずい展開となるので、カップルのデートムービーとしては微妙かもしれない。

ただタイトルの「花束みたいな恋をした」の意味は、鑑賞後に振り返れば素晴らしいタイトルだと思う。ここからネタバレになるが、”花束”は基本的には誰かにプレゼントしたり一時的に飾ったりするためのものなので、その時は美しいのだが、短時間でいつかは枯れてしまう。この期間限定だが美しいものとして主人公二人の恋愛を描いており、恋愛の持つ"タイムリミット感"が良く表現されている題名だと思った。このタイトルからもわかるように、本作の二人の恋愛は”別れる”ことで着地する。だが過度なウェットさや大仰さがなく、最後までカラッとした演出に抑えているのは非常に好感が持てた。基本的なストーリーの概要はこうだ。


菅田将暉が演じる大学生の”麦”と有村架純が演じる”絹”が、ある夜に終電を逃したことで知り合りあい、ファミレスで語り合う。そして音楽や映画、小説といった趣味が同じだったというきっかけで急速に関係が縮まり、恋に落ちる。麦にはイラストレーターになるという夢があったため、大学卒業後はフリーターをしながら同棲生活をスタートさせる。生活は楽ではないが、幸せな二人。だがこの生活をずっと続けていく訳にもいかないと悟り、麦と絹は就職活動を始める。先に内定をもらったのは絹の方で、歯科クリニックの事務として働き始めるが、仕事内容には面白みを感じていなかった。麦も焦りながらの就職活動の末にようやく内定をもらい、ネット物流の営業職として働きだす。だが激務のため帰る時間が遅くなり、休日出勤も当たり前の生活に、だんだんと二人の心はすれ違っていく。

 

 


麦は社会人としての経験を積んでいくことにより、「好きなことを仕事にしたい」とベンチャーのイベント会社に転職した、絹の考え方に違和感を覚え始め口論となる。こうして、ますます二人の溝は深まっていく。そして遂に二人は別れを決意し、思い出のファミレスで別れ話を始めるが、麦は思わず「別れたくない。結婚しよう」と絹に告げる。恋愛感情が無くても成立している夫婦は多いし、二人はこれからも幸せにやっていけると涙ながらに話す麦。現実的な結婚を想像し少し悩んだが、やはり絹は別れを選ぶ。そのとき、同じファミレスの席には4年前の自分たちのように、好きな音楽について楽しそうに語り合うカップルがいて、その様子に麦と絹は涙を流す。そして1年後、お互いに違うパートナーを連れて、偶然カフェで再会する二人。だが二人は視線をそらし、互いの相手に気づかれないように、背を向けたまま「バイバイ」と手を振るのだった。


特に本作は三角関係のドロドロや、病気により恋人の死が宣告されるなどのドラマチックな展開はない。だが、ある程度の年齢を重ねた大人であれば誰しもに思い当たる展開の数々は、胸に刺さる。とにかく本作は脚本家、坂元裕二氏の書いたセリフが良い。麦が就職が決まった直後に言うセリフで、「絹ちゃんと出会って二年、楽しいことしかなかった。僕の人生の目標は、絹ちゃんとの現状維持です。」と言い、笑い合っていた二人。だが仕事によって麦の休日出勤が決まり、約束していた演劇に行けなくなったことで口論するシーンでの「また(約束破り)かって顔したじゃん」「またかとは思うよ。まただから。」「だから、じゃあ行くって言ったじゃん」「じゃあって。じゃあだったら行きたくないよ!」という一連のやりとりは、自分の経験でも思い当たり過ぎて、思わず顔をしかめてしまった。


また麦の仕事が順調で、結婚を持ち出したときの絹の反応を受けて、二人の心のナレーションが入るシーン。絹(よくわからない。三か月セックスしてない恋人に結婚の話を持ち出すってどういう感じだろう)、麦(よくわからない。いつまで学生気分でいるんだろ。ずっと二人でいたいって思ってないのかな)というやりとりは、男女間における埋めようのない違いを端的に表現していて上手いと思ったし、これが菅田&有村の自然体な演技と相まって素直に胸に響くのである。本作のキャスティングは完全にハマっていると思う。


そして「押井守」や「きのこ帝国」、「ゴールデンカムイ」や「ゼルダの伝説」などのサブカル文脈もいちいちツボを突いてくる。押井守はなんと本人カメオ出演しているのにも驚いた。この主人公たちのように同じ趣味を持った相性ピッタリの二人でも、「現実」や「生活」という高い壁を越えることはできなかったという、このあまりにビターな結末には、わざわざコロナ禍に劇場を訪れる観客の中では落胆してしまう人も多いだろう。だが、”過去の恋愛は決して無駄ではなく、それらの連続で人生は続いている”と知っている大人には、「ほろ苦エンターテイメント」として楽しめる佳作だったと思う。とはいえ、映画的な「演出や画」としての見どころがある作品だったかといえば、やはりテレビドラマの延長といった感は否めず、物足りないポイントだったことは書き足しておきたい。

 

 

採点:6.0点(10点満点)