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映画「ファーストラヴ」ネタバレ考察&解説 本格サスペンスだと思うとガッカリ!ヒューマンドラマとしても半端な凡作!

「ファーストラヴ」を観た。

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第159回直木賞を受賞した、島本理生のサスペンス小説を堤幸彦監督が映画化した本作。主演は北川景子。共演は中村倫也芳根京子窪塚洋介など。堤幸彦監督の前作「望み」が良かった事と、予告編を観て面白そうだったので鑑賞。原作は未読である。入った劇場も非常に混んでいて北川景子中村倫也というキャスティングもあり、ヒットしているようだ。では実際の感想はどうだったか?今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:堤幸彦

出演:北川景子中村倫也芳根京子窪塚洋介

日本公開:2021年

 

あらすじ

父親を殺害した容疑で女子大生である聖山環菜が逮捕された。彼女の「動機はそちらで見つけてください」という挑発的な言葉が世間を騒がせる中、事件を取材する公認心理師の真壁由紀は、夫の我聞の弟で弁護士の庵野迦葉とともに彼女の本当の動機を探るため、面会を重ねるが、二転三転する環菜の供述に翻弄されていた。真実が歪められる中、由紀はどこか過去の自分と似た何かを感じ始めていた。由紀の過去を知る迦葉の存在、そして環菜の過去に触れたことをきっかけに、由紀は心の奥底に隠したはずの「ある記憶」と向き合うことになる。

 

 

感想&解説

予告編を観た時点では、1996年の”「真実の行方」的なサスペンス”だと思って観に行ったのだが、個人的には残念な方に大きく予想は外れていた。本作はどちらかと言えば、女性たちが自らのトラウマを克服し成長していくヒューマンドラマの要素が強い。正直、予告編で面白そうだと感じた、”父親を殺害した容疑で逮捕された女子大生が、サイコパスな人格で証言がコロコロ変わる”といった要素は、本当に冒頭だけだ。映画のほとんどの時間は、主人公の女性心理師が被告の不安定な内面は思春期に大人の男たちから受けたトラウマであることを知り、その過去を探っていくという内容になる。しかも主人公自らも、過去に負っていた心の傷を克服していくといった物語だ。いわゆる、殺人の手法や犯人の意外さで魅せる作品ではないので、予告編からここを期待して観に行くとガッカリするだろう。


この北川景子演じる主人公の真壁由紀という女性が、心理師という職業からドキュメンタリー本の執筆をすることになり、父親殺しで逮捕された女子大生の環菜を取材する。殺人は認めているものの「動機はそちらで見つけてくれ」などと、由紀になかなか心を開かない環菜。さらに環菜の弁護士は、由紀の夫の弟である迦葉(かしょう)だという事が判明し、由紀は動揺する。迦葉とは過去に同じ大学に通っており、実は男女の関係があったのだが、それを由紀は夫の我聞(がもん)には言えないでいた。環菜と面会を重ねるうちに、環菜の殺人には過去のトラウマが関係していると知り、由紀は弁護士である迦葉と共に事件を調査することになる。

 

すると環奈には幼い頃に画家である父のデッサン教室でモデルをさせられ、特殊な環境で多数の男性の視線に晒されたことや、環菜に優しくしてくれた”ゆうじ”という大学生とまだ子供だったにも関わらず身体の関係を持ってしまったこと、また母親は環菜をまったく助けてくれず、常に孤独を抱えた少女だったことが判ってくる。一方で由紀は、成人式の日に母親から突然告白された父親が海外で少女買春をしており、その写真を見てしまったというトラウマを、性的に搾取されていた過去の環菜の状況と重ねることで同情し、なんとか彼女を救おうとするというストーリーである。

 

 

 

ここからネタバレになるが、物語終盤に由紀は夫の我聞に、父親に持っていた恐怖の感情や、迦葉との過去を告げるが、我聞は全てを受け入れてくれる。さらに環菜の父親殺しは殺人ではなく、事故だったことが心を開いた環菜から告げられる。自傷癖のあった環菜の持っていたナイフが濡れた床で滑った父親の胸に刺さってしまい、混乱した環菜はその場から逃亡したというのだ。更に、すぐ母親にそのことを告げたが「ナイフが勝手に刺さるはずがない」と言われ、両親の言いなりだった環菜は自分が殺したと思い込んでしまい、逮捕されたというのが事件の顛末だった。裁判では殺意のなかった事と過去の環境も考慮され、実刑8年と罪は軽くなり更生に励む環菜の姿と、夫の愛によって心の平穏を手に入れた由紀と、同じく兄の家族愛を感じた迦葉の姿で映画は幕を閉じる。


かなり特殊な設定が重なるので、本来この作品が描きたかったテーマがなかなか腹に落ちないのは、勿体ないと思う。まず主人公が取材する事になった殺人事件を担当する弁護士が、夫の弟であるという偶然から始まり、その弟と実は過去に関係があり、それを今も夫に黙っているという設定からなかなか苦しい。しかも本作に登場する主要キャラクターたちのほとんどが、”まともな人間”の行動ではない為、本作が非常に「特殊な物語」に思えてしまうのだ。もちろん一人や二人の異常行動なら、映画として理解できる。だが本作は「この世の中はほとんどが異常者だ」と思えてしまう頻度で、サイコな人物が頻出するのだ。

 

まず北川景子演じる由紀の両親の行動から意味不明だ。父親は海外で少女買春を行っており、その写真を娘が乗る車の助手席ダッシュボードにわざわざ大量に入れておくという行動を取る。しかも母親は娘の成人式に突然その父親の異常な性癖を伝えてくるのだが、理由は「大人になったから、男はそういうものだと知ってほしくて」だそうだ。このおかげで由紀はトラウマを抱えてしまうのだが、母親がその事実を背負いきれなくて思わず娘に吐露してしまったという事ではなく、実にあっけらかんとこの家族にとっての闇を、娘の晴れの日に伝えてくる。しかも、父親は実の娘にも性的な目線を向けていたことを匂わせるシーンすらあり、この夫婦がすでに相当なサイコパスだと感じてしまう。


また由紀の夫である”我聞”とその弟の”迦葉”の母親も、男を作って出て行ってしまったという設定だし、迦葉もその日にナンパした女の子の髪の毛を焼き肉屋のハサミで切ってしまうし、環菜の母親も夫とは違う男の子供を身ごもってしまい、それが環菜であることが後々判明する。さらに環菜の父親は、自分の絵画教室の生徒たちに娘をモデルにさせて画を描かせるのだが、その両側には全裸の男性を立たせるという考えられない行動をとり、環菜の初恋の男である”ゆうじくん”は大学生なのに、合意とはいえまだ子供だった環菜に対して性的な行動に出てしまう。とにかくこの作品に出てくる「大人たち」は、夫の我聞を除いてはほぼ倫理観の欠如した人間ばかりで、観ていてそういう特殊な世界なのかと思ってしまうほどだ。


その逆に、窪塚洋介が演じる夫の我聞はあまりにパーフェクトな人間すぎて他とのギャップがすごい。北川景子が仕事から帰ってきた時はいつも料理をしてお出迎えし、レストランを予約してくれていたにも関わらず、仕事でいけなくなった由紀に文句の一つも言わない。弟との過去を隠している妻に対して、全てを許容してくれ許してくれる”完璧な存在”である彼は、逆に何か秘密があるのかと勘ぐってしまい、いつサイコパスな側面を見せてくるのかとハラハラしたほどだ。環菜の母親にあったリストカットの痕など、作品内で描かれていないキャラクターの闇などを匂わせはするが、どうにも平面的でこちらの興味を掻き立てない。


”性的な搾取や暴力”がどれほどその人の人生に深刻な影響を与えるのか?を描くことは、作品として重要だと思うし、価値のあることだと思う。ただそれを描きたいがために、かなり強引な設定と演出を詰め込んだという印象の本作。成長を描き希望が持てるエンディングの展開は心地よいが、十代前半の女の子をあれだけ寄ってたかって性的な対象として捉えてしまう男だらけの世界は、特異に映るしハッキリ異常だと思う。そここそが、そもそもこの世界は異常なのだという原作者からのメッセージかもしれないが、あまりにペシミスティック過ぎる気がするのだ。

 

そもそも本格サスペンスを期待して観に行ったという前提がありながらも、内容に乗り切れなった本作。北川景子の整った顔も、本作の描きたかったであろうテーマを考えると、この映画の"特殊感"に拍車をかけている気がする。自分たちの身近に起こる事件とは思えず、あまりに絵空事に感じてしまうのだ。「ファーストラヴ」という甘いタイトルは、登場人物たちの心情を考えると逆に「過去の想い出」の残酷さを表現しているのかもしれないが、芳根京子の演技力と主題歌のUru「ファーストラヴ」の美しさだけが印象に残った作品だった。

 

 

採点:4.0点(10点満点)