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映画「ダニエル」ネタバレ考察&解説 予想を超えた展開となるB級カルト作品!

「ダニエル」を観た。

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ティム・ロビンススーザン・サランドンの息子マイルズ・ロビンスと、アーノルド・シュワルツェネッガーの息子パトリック・シュワルツェネッガーという有名ハリウッド俳優の二世が共演していることで注目されているスリラー作品。しかも俳優であるイライジャ・ウッドが製作を手がけている。レーティングは「R15+」。監督・脚本はアダム・エジプト・モーティマーという人で、2015年「デッド・ガール」などの過去作があるようだが未見である。本作はネット上でもかなり賛否が分れているようで、それも理解できる作品となっていた。今回もネタバレありで感想を書きたい。


監督:アダム・エジプト・モーティマー

出演:マイルズ・ロビンス、パトリック・シュワルツェネッガーサッシャ・レイン

日本公開:2021年

 

あらすじ

内気で繊細な少年ルークには、自分にしか見えない空想上の親友ダニエルがいた。しかしある事件をきっかけに、ダニエルの存在を封印することに。時が経ち、成長したルークは孤独と不安に苛まれ、再びダニエルを呼び覚ます。カリスマ性あふれる美青年の姿で現れたダニエルの助言により、ルークの人生は好転していく。やがてルークはダニエルを必要としなくなるが、ダニエルはそれを許さず、次第にルークの精神を支配するようになっていく。

 

 

パンフレット

価格850円、表1表4込みで全32p構成。

縦B5サイズ。表紙など各ページのデザイン性が高く、冊子としてクオリティが高い。アダム・エジプト・モーティマーへの監督インタビューと、映画評論家の柳下毅一郎氏、映画ライターの山縣みどり氏/村尾泰郎氏/真魚八重子氏のコラムに加え、大学教授である出口保行氏のレビューが掲載されており、充実した映画解説が楽しめる。

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感想&解説

予告編から受けた、想像上の友達(イマジナリーフレンド)を巡る「心理サスペンス」や、日本版ポスターアートから感じる「BLもの」という予想を覆し、本作は良くも悪くも想定外の映画であった。イマジナリーフレンドがテーマの作品というと、99年デヴィッド・フィンチャー監督「ファイトクラブ」や、近作だとタイカ・ワイティティ監督「ジョジョ・ラビット」などを思い出すが、中盤までの展開はマイルズ・ロビンスが演じる青年ルークと、彼の空想上の友達であるパトリック・シュワルツェネッガー演じるダニエルによる”友情物語”のような展開となる。非常に奥手で自己肯定感の低いルークの側にダニエルは常にいて、その場その場で適切なアドバイスを送る。魅力的な容姿のダニエルに「僕は君の一部だ」と背中を押してもらえる事で、ルークは意中の女の子と仲良くなれたり、テストの答えを教えてもらったりと学生生活が一変していく。以下、ネタバレ注意。


ところが常にルークの側を離れようとはせず、生活にどんどんと侵食してくるダニエルに対して、ルークは徐々に不安を覚えていく。そして遂にダニエルは、ルークの身体を乗っ取ろうと行動してくるのだが、他人には見えないダニエルを追い払おうと必死のルークから、周りの人間はどんどんと距離を取り始める。ルークの母親は精神を病んでいるのだが、決して消えてくれないダニエルに苦悩し、自分も母親と同じく狂ってしまったのかと不安を覚えはじめたルークは、精神カウンセラーの力を借りてダニエルを消滅させようと試みる。ところが、今まではルークにしか実態が見えなかったダニエルが、カウンセラーの前にも現れルークの身体に完全に憑依し、遂にカウンセラーを殺害してしまう。そしてルークの身体を乗っ取ったダニエルは、悪魔の化身として行動を始めていくという展開になるのだ。


このストーリーの展開から解るように、本作は”イマジナリーフレンド”をテーマした心理サスペンスでも、ましてやBLものでもなく、「悪魔憑き」をテーマとした完全なホラー映画だ。パンフレットに掲載されている監督インタビューでも、ウィリアム・フリードキン監督「エクソシスト」に本作は影響を受けていると公言しているし、劇中でも実体化された悪魔が現れるのだがこれがグロテスクな様相で、個人的に岩明均の漫画「寄生獣」を思い出した。本作は、二重人格による人間の深遠な闇を表現するようなアート作品ではなく、いわゆる”オカルトホラー”というジャンル映画なのである。正直、このあたりの展開が本作の評価の分かれ目な気がするが、「ダニエル」の製作プロデュースをイライジャ・ウッドが担当しているという時点で、この展開にもなんとなく合点がいく。

 

 


イライジャ・ウッドといえば、もちろんピーター・ジャクソン監督「ロード・オブ・ザ・リング」のフロド役が有名な俳優だが、実は「スペクターヴィジョン」という映画製作会社を立ち上げ、ニコラス・ケイジ主演の「マンディ 地獄のロード・ウォーリアー」や「カラー・アウト・オブ・スペース ー遭遇ー」をプロデュースしている。どちらも近年の作品にも関わらず、すでにカルト映画の匂いがプンプンしている作品なのだが、このラインナップからもいわゆる”B級ジャンル映画”を作りたいというのイライジャ・ウッドの心意気を強く感じる。そして、この「ダニエル」もしっかりとその路線の作品だったという訳だ。特に全体的にチープな特殊効果と、ラストシーンにおけるルークとダニエルの格闘シーンから決着へのあまりにユルい展開は、怒る人がいても仕方ないだろう。


だが本作が見どころの無いB級ホラーかと言われれば、実はそうでもない。冒頭の子供時代のルークが初めてダニエルと出会うシーン。カフェでのショットガン無差別殺人事件の現場で二人は出会うのだが、この”死んでいた殺人犯人”も実はダニエルに憑りつかれていたことが映画終盤で解ることから、この時点でルークの中に悪魔が憑依したということが解る。そもそもダニエルが”イマジナリー・フレンド”だという演出が、観客へのミスリードだった訳だ。これは冒頭のシーンが伏線になっている構成としてなかなか上手いと思うし、ルークのイマジナリー・フレンドだと思っていたダニエルが身体を乗っ取るときの、「急に映画のジャンルが変わる感じ」も嫌いにはなれない。さらに各シーンから感じる「遊星からの物体X」「ハウス・ジャック・ビルド」「パンズ・ラビリンス」「ジェイコブス・ラダー」「ヘレディタリー ー継承ー」といった、過去作からの影響を隠さない監督の姿勢も好感が持てる。


そしてなにより、マイルズ・ロビンスとパトリック・シュワルツェネッガーの二世俳優たちが魅力的だ。特にパトリック・シュワルツェネッガーは、父親であるアーノルド・シュワルツェネッガーの面影が強いにも関わらず、セクシーな上に非常に繊細な演技を見せていてそのギャップが素晴らしい。またマイルズ・ロビンスも本作でシッチェス・カタロニア国際映画祭で男優賞を受賞したらしく、この二人は親の七光りに頼らずとも、今後かなり活躍する俳優になるのではないだろうか。他の作品でもぜひ観てみたい二人である。期待したジャンルとは違ったが、個人的にはB級カルト作品の匂いがして好きだった本作。例えるなら、オンデマンド配信などで夜中にふと観ると楽しめるタイプの映画だ。ただ終盤に向けての失速感も含めて、やや惜しい作品だった。

採点:6.0点(10点満点)

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