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映画「ガンズ・アキンボ」ネタバレ考察&解説 世界観にまったく乗り切れなかった作品!

「ガンズ・アキンボ」を観た。

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ハリー・ポッター」や「スイス・アーミー・マン」のダニエル・ラドクリフが主演を務めた、アクション映画。監督と脚本は「デビルズ・メタル」のジェイソン・レイ・ハウデン。共演は「マトリックス」において”エージェント・スミス”を演じていた、ヒューゴ・ウィービングの娘サマラ・ウィービングなど。ネットで殺し合い中継をするサイトを中傷した為に、両手に拳銃を固定された状態でゲームに参加させられる羽目となった男の戦いを描く。レーティングは「R15+」。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:ジェイソン・レイ・ハウデン
出演:ダニエル・ラドクリフ、サマラ・ウィービング、ナターシャ・リュー・ボルディッゾ
日本公開:2021年

 

あらすじ

ゲーム会社でプログラマーとして働くマイルズは、ネットの掲示板やコメント欄に過激な書き込みをして鬱憤を晴らしていた。ある日、マイルズは本物の殺し合いを生配信する闇サイト「スキズム」に攻撃的な書き込みを繰り返し、サイトを運営する闇組織のボスを怒らせてしまう。組織に襲撃され気を失ったマイルズが目を覚ますと、両手にボルトで拳銃が固定されていた。さらに元恋人も人質にとられたマイルズは、「スキズム」で最強の殺し屋ニックスに24時間以内に勝てば解放すると言い渡される。

 

 

感想&解説

「あらすじ」や「予告編」を観て、おおよその内容を知りながらも観に行った自分が悪いのだが、まったくノレない作品であった。”ゲーム的な映画”だという想像はついていたが、ストーリー展開における「なんでこうなるの?」のあまりの多さに、映画中盤には思考停止してしまい、どうでも良くなるタイプの作品だったのだ。”二丁拳銃”はジョン・ウー監督の「男たちの挽歌」オマージュだろうし、主人公の部屋に「ランボー」のポスターが貼ってあったりと、80年代アクション映画へのリスペクトは感じるが、作品としては落ち着きのないカメラワークと、早すぎる編集テンポで00年代初頭に流行ったB級アクション映画群を彷彿とさせる。とにかく観ていて目が回るのだ。もちろん画面は終始動きがあり、それを眺めていると時間は過ぎるのだが、98分という上映時間がやや長く感じた。こういう破天荒な設定の作品は、ルールや人物の描き込みでこの”世界観”に説得性が欲しいと思ってしまうので、これは自分の好みと合わなかったという事だと思う。

 

ゲームプログラマーとして働いているが、日々の生活にやりがいを感じられず鬱蒼と過ごしている、ダニエル・ラドクリフが演じる主人公マイルズ。ある夜、本物の銃撃戦やファイトによる殺し合いを生配信する闇サイト「スキズム」を誹謗中傷するコメントを送ったことで、そのサイト運営者にIPアドレスを知られ、家を襲撃されてしまう。そのまま彼は誘拐され、再び家で目が覚めた時には両手にボルトで拳銃が固定されており、最強の女殺し屋ニックスと戦って24時間以内に勝利しないと殺すと命じられる。

 

両手の銃の為に着替えやトイレもままならないマイルズの元に、突然ニックスが現れ銃撃戦となるが、なんとかそこから逃げ出すマイルズ。その様子は全て「スキズム」のサイトで中継されていた。マイルズの元彼女ノヴァは彼を助けようと警察に助けを求め、彼らも「スキズム」を観ておりマイルズの跡を追う。そこからひたすらニックスに追われ続けるマイルズはノヴァに電話をかけるが、その途中で「スキズム」の管理者リクターに彼女は誘拐されてしまう。実は警察も「スキズム」の手の内にある事や、殺し屋ニックスの両親を殺したのはリクターであることを知ったマイルズはニックスと手を組みノヴァを救出することになる。そして二人は「スキズム」の本拠地に向かうことを決意する。

 

 

このストーリーに、もちろん厳密なリアリティを求めるという野暮はしない。だがそれにしても、主人公マイルズが取る行動の数々に疑問が浮かび、あまりストーリーに集中できないのである。まず両手にボルトで銃が取り付けられていたなら、最初に行くべき場所は「病院」だろう。ボルトで銃が手のひらに付いたまま発砲したら反動でとんでもない激痛だろうが、それもあまり無さそうで、マイルズが両手の状態に我慢できている理屈が良くわからない。終始ドラッグでもキマッているのだろうか。しかも殺し屋ニックスから逃げ回るマイルズは行く先々で、両手に銃が付いていることを隠して会話するのだが、事情を説明して病院か警察に保護を求めるのが普通ではないだろうか。ポケットと手が接着剤でくっ付いており両手が出せないという嘘や、手が使えない為に人に何かを取ってもらうという行動がコメディ演出のように繰り返されていたが、これもあまり笑えない。終始、主人公の行動の理屈があまりにピンとこないので感情移入が出来ないのである。

 

しかも冒頭の銃撃戦ではあれだけ百発百中だった女殺し屋ニックスの銃が、なぜか素人のマイルズにはほとんど当たらないのも不自然だし、バレバレの変装をしたニックスが警察署内のデータ端末を簡単に利用できるという場面もめちゃくちゃだ。さらに元恋人との電話中に、「あなたは警察に追われているから保護してもらって」と薦められるシーンがあるのだが、なぜか「いや、街を出る」という何の解決にもならない返答をするマイルズにも首を捻らざるをえない。警察は殺人を生中継している「スキズム」をなぜもっと大人数で追わないのか?というこちらの疑問に対して、終盤に警察は「スキズム」の配下に入っているという発言があったが、ではただの闇サイトになぜ国家の実力組織が言いなりなのか?など、とにかく観ている間に頭の中が疑問だらけになるのだ。”たまたま”ギャングが取引をしている場所に出くわしてしまい、両手の銃のせいで殺されかけるがニックスに救われるというシーンも、ここに派手なシーンが欲しかったんだろうなと思わせるほど、流れとして唐突すぎる。

 

ここからネタバレになるが、その後ニックスと手を組み「スキズム」の本部に乗り込むマイルズが突然銃撃が上手くなるのも謎だし、いきなり爆弾を抱いてニックスが自爆するシーンもまったくその理屈が解らない。ラスボスのリクターがただの人質であるノヴァを、部下全員を犠牲にしてまで一緒にヘリに乗せたい理由も解らなければ、屋上での最終対決シーンで、ボロボロの上に丸腰のマイルズに銃を持っているのに負けるのもおかしいだろう。頭を撃ち抜けば終わりなのだ。700万人が観ているという「スキズム」という闇サイトでの殺し合いに参加している人間の動機や選手の選出方法も最後まで描かれない為によく解らないし、そもそもそれほど大きな組織であれば、たかが主人公一人のクソリプにわざわざ家まで来て誘拐するのも変だと思う。

 

これらの矛盾は、単純に「こういう画があるとカッコいい」という発想から逆算で脚本や設定を考えている為に起こるのであろうが、あまりに場面場面がちぐはぐな演出や描き込みの為、カタルシスを感じなかった本作。劇中でマイルズが「スキズム」を観ている視聴者に「サイトを観るのをやめろ」と訴えて笑われるシーンがあるが、この連鎖を断ち切るのは、むしろ「サイトに選手として参加するのを止めること」だと思う。よって、結局ラストで世界中に拡散した「スキズム」にまた主人公が参加することを予感させる行動は、さらに「ネットでの暴力行為」を観る人々が増えてしまい、何の解決にもならないのでは?と思ってしまった。マイルズ個人は、ネットで書き込むだけの人間から”実際の世界”で行動できる人間になったかもしれないが、これでは「スキズム」という闇サイトを喜ぶ異常な人々が増えていくように見えてしまうからだ。

 

髭面で逃げ回るダニエル・ラドクリフと、クールな殺し屋を演じたサマラ・ウィービングの役者陣は魅力的だったし音楽の使い方も面白かったが、切られた指を使った悪趣味なギャグなどもあり、個人的には楽しめなかった本作。いっそのこと架空の近未来設定くらいならまだ説得力もあったかもしれないが、それは予算的に難しかっただろう。ジョン・ウィック」シリーズくらい世界観が作り込まれていたり、超人的な強さを堪能できる作品でもないため、観ていて爽快感があまり無かったのも残念だ。続編もありそうな終わり方だったが、次回作が観たいかといわれると個人的には正直微妙な作品であった。

 

 

採点:2.5点(10点満点)