映画を観て音楽を聴いて解説と感想を書くブログ

エンタメ系会社員&バンドマンの映画ブログです。劇場公開されている新作映画の採点付きレビューと、購入した映画ブルーレイの紹介を中心に綴っていきます!

映画「エクストリーム・ジョブ」ネタバレ考察&解説 とにかく笑っぱなしの111分!必見の韓国コメディ!

「エクストリーム・ジョブ」を観た。

f:id:teraniht:20210506191810j:image

麻薬捜査班でありながら大人気フライドチキン店を経営することとなった刑事たちの姿を、「王になった男」のリュ・スンリョン主演で描いた韓国コメディアクション。監督は2015年に「二十歳」という作品を発表しているイ・ビョンホン。俳優であるイ・ビョンホンとは別人のようだ。韓国では歴代興行収入1位を記録し、観客動員数は歴代2位となる1,626万人を突破という大ヒットとなっている。すでにハリウッドリメイクされることが決定しているようだ。今回もネタバレありで感想を書きたい。


監督:イ・ビョンホン

出演:リュ・スンリョン、イ・ハニ、チン・ソンギュ、イ・ドンフィ、コンミョン

日本公開:2020年

 

あらすじ

活動していながらも、思うような実績を積めずに解散の危機を迎えている麻薬班。国際犯罪組織の国内麻薬密搬入情報を入手したコ班長は、チャン刑事、マ刑事、ヨンホ、ジェフンの4人のチーム員たちとともに潜伏捜査を開始する。24時間監視のため、犯罪組織のアジト前にあるチキン屋を買い取り、麻薬班メンバーによるチキン屋稼業をスタートさせるが、絶対味覚を持つマ刑事の隠れた才能により評判が広まり、チキン屋は捜査にも手が回らないほどの大人気店となってしまう。そんなある日、麻薬班に捜査の絶好の機会が訪れる。

 

 

感想&解説

劇場公開時に見逃していた作品だったが、評価が高かった為にオンデマンドにて鑑賞した。結果、これは本当に観て良かった作品だった。ヒューマンドラマやサスペンス、アクションに至るまで韓国映画のレベルの高さには驚かされるが、コメディ作品までこれだけ面白い映画が作れるのかと感心してしまう。国民性から海外のコメディ映画は笑えない作品も多く、残念な思いをするケースも多いのだが、今作については心底笑えて面白いと感じる稀有な映画だと思う。日本のコメディ作品のように、いわゆるテレビで見慣れた俳優や芸人がお茶の間でおなじみのギャグやギャップで笑わせる”前知識ありき”の笑いではなく、素直にストーリーと演出&キャラクターの設定で笑わせるのも良い。この笑いのコンセプトは、「お約束からの外し」なのだと思う。

まずストーリーの設定から面白い。韓国の麻薬班であるコ班長をリーダーとする5人チームは、ドジばかりでなかなか成果が上げられず、解散寸前。コ班長は後輩にも出世を追い抜かされ、署長にも怒られと散々な状態だ。そんな時、麻薬密輸で暗躍している国際的犯罪組織のボスであるイ・ムベの側近が刑務所から出所し、新たな犯罪を企んでいるとの情報を得たチームは、さっそく組織のアジトを張り込むことにする。住人のおばさんからストーカーだと通報されたりと、相変わらずチームはドジを踏むが、なんとかアジトの向かいにあるフライドチキン屋から出前に扮して、盗聴や潜入捜査を行おうと計画を練る。

 

だが、このフライドチキン屋が売り上げ不振の為店を畳むと聞かされたコ班長は、退職金を前借りしてこのお店を買い取り操作を続ける決断をする。だが当初は捜査本部として店を開けていたが意外と来店客が多いため、怪しまれないように仕方なくフライドチキンを提供し始める捜査チーム。だが、なんとこれが大ヒットしてしまい、予想外に店は大繁盛してしまう。客足の途絶えない店の切り盛りに追われる捜査チームは、いつしか本来の目的である捜査も後回しになっていく。反省したメンバーはチキンを値上げして来店数を減らす作戦に出るが、SNS映えして逆に話題を呼んでしまい、一向に捜査は進まない。そんな時、やっと向いのアジトからチキンの注文が入るのだが、運んでみると既に犯罪組織は引っ越した後だった。

 

このことを知った署長は激怒、捜査メンバーの面々は停職処分を受け、さらにマスコミによってフライドチキン屋のずさんな運営体制を指摘されて店の運営も暗礁に乗りあげ、八方ふさがりになってしまう。だがその番組を観ていたイ・ムベはこのチキン屋をチェーン店化して、韓国全土に麻薬を売り捌く隠れ蓑にしようと思いつき、コ班長らをだます事に成功する。だが、このチェーン店のあまりの評判の悪さに調査を開始した捜査メンバーは麻薬密売の実態を知り、イ・ムベの悪事を潰すために再び立ち上がる。

 

ここから映画は終盤戦に突入するのだが、特に麻薬組織がチキン屋をチェーン店化するという展開は荒唐無稽すぎて飲み込みづらいが、そこまでの展開は無理なく楽しめた。映画冒頭の突入シーンから「外し演出」のオンパレードで、ビルの窓を割ってロープで登場する映画における主人公のお約束登場シーンでは、犯人側に窓を開けてもらいながらもロープが短くて突入できないとか、逃走する犯人が通行中の車から運転手を投げ飛ばしハンドルを奪って逃げようとするが、逆におばさんに投げ返されるなど、笑えるコメディシーンがてんこ盛りだ。しかも、これらを登場キャラクターたちが大真面目に演じていて、その表情ひとつ取ってもしっかりと映画的なギャグになっている。体感では3分に1回くらいのペースで笑えるシーンが放り込まれる感じで、特に髪型も特徴的な”マ刑事”がコメディリリーフとして最高なので、中盤から彼が動いたり喋ったりするたびに笑えるという状況になる。

 

他にも、フライドチキン屋の店長として板についてしまったコ班長が毎回電話に出るときのセリフ「これはカルビなのか?チキンなのか?」のタイミングとか、マ刑事が揚げたチキンを食べたときの「おかわりデス!」の言い回し、運転担当のヨンホが単身で麻薬組織の車を追跡するも失敗に終わり、店の運営にてんてこ舞いなチームメンバーにどっちが本業だと激怒するものの全員から逆ギレされるシーンや、チーム紅一点キャラであるチャン刑事とマ刑事のラストにおけるキスシーンなど、思い返してもニヤニヤしてしまうシーンの連続だ。細かい笑いのシーンを入れたらキリがないほどで、この五人組をずっと観ていたいと思ってしまう時点で、この映画は完全に成功していると思う。

 

さらに最後の格闘シーンにも、しっかりカタルシスを用意しているのも素晴らしい。あれだけ負け犬軍団だったコ班長率いる麻薬捜査班が、実は全員格闘のプロであり、バタバタと敵をなぎ倒すという展開には思わず喝采を送ってしまう。イ・ビョンホン監督が「自信をもって笑わせられる伝統的なコメディを撮りたかった。老若男女の誰もが気軽に笑ってほしい」とコメントしているが、本当に全編質の高いコントを観ているような気持ちになる。しかも編集のテンポも良く、監督の笑いのセンスを強く感じるのだ。ハリウッドリメイクが決まっているらしいが、この独特の間までしっかり受け継げるのか?は正直疑問である。またBGMも良い。パルプ・フィクション」で有名になった、ディック・デイル&ヒズ・デルトーンズ「ミザルー」を完全に意識した曲があったり、ハネるファンク風楽曲が映画のテンションをどんどんと加速していく。どうやらサントラは未発売のようだが、ぜひ発売してほしい。

 

劇場で見逃したことを後悔するほど、楽しかった本作。特にこういったコメディジャンルは、当たり外れが大きいので、こういった良作に出会えると嬉しくなる。正直、中盤以降のストーリー展開の雑さと強引さはあるもののそこは目をつむれるくらい、これだけ笑わせてもらった映画は近年記憶にないほどだ。これは是非、同じスタッフとキャストによる続編が観たいと思った。観終わったあと無性にフライドチキンが食べたくなったが、それも含めて久しぶりに満足度の高いコメディ映画だった。

 

 

採点:8.0点(10点満点)