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映画「悪魔を見た」ネタバレ感想&解説 本当の「悪魔」は誰なのか??を問う問題作!

「悪魔を見た」を観た。    

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MASTER マスター」「インサイダーズ 内部者たち」などの韓国作品や、ハリウッド映画でも「マグニフィセント・セブン」などに出演している世界的スターのイ・ビョンホンと、「オールド・ボーイ」などで知られるチェ・ミンシクという、韓国2大俳優が初共演したバイオレンスサスペンス。「甘い生活」「グッド・バッド・ウィアード」でイ・ビョンホンと組んだキム・ジウン監督が、再びメガホンを取っている。日本公開は2011年だが、今観てもまったく古びていない作品だ。今回もネタバレありで感想を書きたい。


監督:キム・ジウン

出演:イ・ビョンホンチェ・ミンシク、オ・サナ

日本公開:2011年

 

あらすじ

国家情報院捜査官スヒョンの婚約者の死体の一部が発見される事件が発生する。仕事を休職し極秘で捜査に乗り出したスヒョンは、真犯人の連続殺人鬼ギョンチョルを捕まえ、体の中にマイク付きのGPSチップの入ったカプセルを飲ませ解放する。そしてギョンチョルが犯行に及ぼうとするたびに現れ、アキレス腱を切るなどの残虐な制裁を加えていく。

 

感想&解説

ダークナイト」のジョーカーや「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクター、「ノーカントリー」でアントン・シガーなど映画史に残る殺人鬼は多数存在するが、この「悪魔を見た」の”ギョンチョル”も韓国映画史に残る極悪な殺人鬼だと言えるだろう。ただ、”ジョーカー”や”ハンニバル”と比べるとチャーミングさの欠片もない、まったく感情移入の出来ない卑劣で残忍な男を、「オールド・ボーイ」や「新しき世界」のチェ・ミンシクが独特のテンションで演じており、画面に映る彼から目が離せなくなる。

冒頭はイ・ビョンホンが演じるスヒョンと、彼の恋人であるジュヨンが携帯電話で話するシーンで始まる。ジュヨンは雪が降る中で車がパンクしており修理業者を待っているが、そこに一台の塾の送り迎え用スクールバスが通りかかる。バスからはチェ・ミンシク演じる中年男が降りてきて「乗せてあげようか?」と声をかけるが、彼女はそれを断る。いったんは諦めたように立ち去る男だったが、次の瞬間、車のガラスを割って連れ去られ、スヒョンはそのまま恋人ジュヨンと連絡が取れなくなる。場面が変わって、ジュヨンはその男によって”監禁小屋”に拉致されていた。「お腹に赤ちゃんがいるから命だけは助けてほしい」と懇願するジュヨンを、男は容赦なく殺しバラバラにしたうえで川に捨てる。そして、そこから恋人を殺されたスヒョンの犯人捜しと復讐が始まっていくというストーリーだ。


まずこの導入部分で、本作はこのチェ・ミンシクが演じる”ギョンチョル”という男に強烈な嫌悪感を抱かせることに成功している。このギョンチョルがまったく同情する余地のない極悪人である設定が、本作においてはとても重要だからだ。この「悪魔を見た」という映画は、イ・ビョンホン演じる主人公のスヒョンが犯人であるギョンチョルの行方を追うという、通常の”追跡型サスペンス”ではない。むしろ映画の中盤でスヒョンの圧倒的な身体能力でギョンチョルをボコボコに叩きのめし、気を失っているうちに”追跡用GPSカプセル”を飲ませるところから、本作の本題が始まると言って良い。そしてなんとGPSカプセルを飲ませた後、スヒョンはギョンチョルを解放してしまうのだ。


再び世に放たれたギョンチョルは、身体を痛めつけられた為に病院に行くのだが、そこでもまた看護師の女性を暴行しようとする。だがGPSによってギョンチョルの場所が特定できるスヒョンが颯爽と現れて、またギョンチョルをボコボコにしたうえにアキレス腱を切るという制裁を下すのだ。これが観ていて非常に”快感”なのである。ギョンチョルが悪事を働くたびに、警察に通報せずに暴力のキャッチ&リリースを繰り返すスヒョンは本来、”私刑”を繰り返す犯罪者でもあるはずなのに、観ている観客はその行動を容認どころか「もっとやれ」と強く感じる作りになっている。明らかにここがこの映画の面白さのポイントなのである。


ギョンチョルがその後に合流する”サイコ仲間”の男も最低すぎて、スヒョンが同じように制裁を加えるシーンではやはり溜飲を下げてしまうし、このシーンにおける「男の”手の甲”に刺さった刃物を抜こうとしたら、取手だけが抜けるシーン」など、緊張感のある場面からいきなり放り込まれるコメディシーンになっており、その緩急の差で思わず爆笑してしまう。このあたりの演出も本作の上手いところだろう。ここからギョンチョルが飲まされたGPSカプセルの存在に気づき、スヒョンに復讐を始めるあたりの嫌な感じはいかにも「韓国映画」という流れで、ナ・ホンジン監督の「チェイサー」後半の展開を思い出す。胸のあたりがムカムカしてくる、あの感じである。


ここからネタバレになるが、GPSカプセルを下剤を飲むことで放出し、再び行方の解らなくなったギョンチョルは、スヒョンを理解してくれていた恋人ジュヨンの義理の父や妹を襲いに行き、再び犯罪を犯す。そこでスヒョンは独善的な”私刑”を行うことに夢中になり、ギョンチョルを警察に渡さなかった自分の行動を悔いることになるのだ。スヒョンへの復讐を果たし、そのままギョンチョルは警察に自首しようとするが、完全に”悪魔”と化したスヒョンがその前にギョンチョルを例の”監禁小屋”に連れ去り、ここから怒涛のラストシーンとなる。


ギロチン器具に繋がれ、泣きながら命乞いをするギョンチョル。それをスヒョンは哀しみと怒りに満ちた顔で見ているが、「俺は苦しみなんて感じないんだ。」というセリフからこの男が”純粋な悪”であることが解り、最後の制裁を下すことになる。ギョンチョルを監禁している部屋に彼の家族を呼び出し、部屋の扉を開けることでギロチンが落ちるという仕掛けを施すのである。彼の父母と息子を呼び出し、そのまま部屋を出るスヒョン。部屋に仕掛けた盗聴器によりギョンチョルが死んだことを聞いたスヒョンが、嗚咽し泣き叫ぶ場面でこの映画は終わる。彼の最後の復讐は成し遂げられたのだが、スヒョンには何も残っていないことを描いたラストシーンは、「暴力の虚しさ」を描いているのだと思う。


だが正直、このラストシーンを観ていて感じたのは、このギョンチョルという最低な人間をどうやってスヒョンは制裁するのだろう?という強い興味だ。個人的に映画を観ていて、これほど暴力的な気分になるのは珍しく、この一点だけでもこの映画は他の作品と一線を画している。本当に正直言えば、この暴力と悪意に溢れた映画をとても楽しんでしまったのだ。そういう意味ではチェ・ミンシクが演じたギョンチョルというキャラクターが、”魅力的な悪役”だったとも言えるだろう。ギョンチョルは間違いなく”悪魔”だし、私刑を行い残忍な殺し方でギョンチョルを葬ったスヒョンも”悪魔”だと言える。そして劇中、ギョンチョルが無抵抗になるたびにワクワクしてしまう自分も”悪魔”なのだと、この作品の作り手から言われているような気持ちになった。


もちろん、GPSカプセルを飲ませてもいつかは出てきちゃうだろうなぁとか、さすがにカプセルを飲ませてもそこまでクリアに音まで拾うのは無理でしょとか、突っ込みどころもあるにはあるが、相変わらず韓国映画のレベルの高さが堪能できる映画だった。本作は「R18+」のレイティングの為、非常に暴力的だしグロ描写も手加減なしだ。オチも含めていわゆる「胸糞映画」の部類に入る為、万人にオススメという作品ではない。だが”人間の闇”を表現した作品として、そして観る側の感情を搔き乱す作品として、一見の価値はある映画だと思う。ただ、できれば体調の良いときに観てほしい。

7.5点(10点満点)