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映画「アーミー・オブ・ザ・デッド」ネタバレ考察&解説 オープニングシークエンスは最高だが、残念ながらそこからは下り坂!

「アーミー・オブ・ザ・デッド」を観た。

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ウォッチメン」「マン・オブ・スティール」のザック・スナイダー監督が、「ドーン・オブ・ザ・デッド」以来、久しぶりに手掛けたゾンビアクション。監督作としても2017年「ジャスティス・リーグ」以来、4年ぶりの新作となる。主演は「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」で破壊王ドラックスを演じていたデイブ・バウティスタ、他にも「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」のエラ・パーネル、「チョコレートドーナツ」のギャレット・ディラハント、そして日本からは真田広之などが出演している。すっかりアメコミ映画のクリエイターとして定着しつつある、ザック・スナイダーゾンビ映画の出来はどうであったか??本作の配信はNetflix限定。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:ザック・スナイダー
出演:デイブ・バウティスタ、エラ・パーネル、マティアス・シュバイクホファー、真田広之
日本公開:2021年

 

あらすじ

ある日アメリカ軍が極秘に輸送していた突然変異ゾンビが脱走したことで、ラスベガス周辺にゾンビが大量発生してしまうが、人類は多くの犠牲を払いながらもラスベガスにゾンビを隔離することに成功する。ゾンビとの死闘の後、静かに暮らしていたスコットは、謎の男の依頼により、ラスベガス地下の巨大金庫を狙う強盗計画に加担することに。同じく招集されたクセ者だらけの傭兵たちとともに、大量のゾンビで埋め尽くされた危険エリアに侵入し、屈強で俊敏なゾンビたちと激しい戦いを繰り広げる。

 

 

感想&解説

ザック・スナイダーの”ゾンビもの”と言えば、2004年日本公開のサラ・ポーリー主演ドーン・オブ・ザ・デッド」があるが、ジョージ・A・ロメロ監督「ゾンビ」をリメイクするという高いハードルを、ジェームズ・ガンが手掛けた脚本とザック監督の演出力が融合する事で見事にクリアした傑作だった。いわゆる2002年のダニー・ボイル監督「28日後…」と同じ系譜にある「走るゾンビ」路線だったが、「ドーン〜」は今でもゾンビ映画のマスターピースとして数えられている作品だろう。そんなザック・スナイダーNetflix限定で17年ぶりに公開したのが、本作「アーミー・オブ・ザ・デッド」である。ちなみにアニメシリーズも、2021年内にNetflixで配信が決まっているらしい。

ストーリーとしては、アメリカ軍が極秘に輸送していたゾンビが脱走し、そこからパンデミックが始まりゾンビが大量発生したラスベガスが舞台。政府はラスベガスを隔離地帯として、小型核爆弾を落とすことでゾンビを一掃しようとしていた。だがベガスのカジノにある金庫には膨大な金が眠っているのを知っている真田広之演じる「タナカ」と名乗る男が、ゾンビが溢れるベガスから生き残ったデイブ・バウティスタ演じるスコット・ウォードに、金庫の中身を持ち帰るように依頼してくる。

 

最初は悩むスコットだったが今の人生に限界を感じていたこともあり、昔の仲間たちに声をかけ傭兵軍団を結成することで、彼は強奪計画をスタートさせる。だがベガス周辺の難民キャンプでボランティアをしていたスコットの一人娘ケイトが、人探しのため強引にメンバーとして同行することになりスコットは悩む。金庫破りのプロや銃の達人などくせ者ばかりの傭兵部隊は、荒廃したラスベガスに侵入して金庫へと近づくが、そこには統制されたゾンビの群れが待ち受けていた、というのが冒頭の展開だ。

 

 

これだけたくさんのゾンビ映画が作られる中で、なにを他作品との差別化ポイントにするのか?は作り手にとって大きな課題だと思うが、本作「アーミー・オブ・ザ・デッド」はそのタイトル通りに、軍隊のようにリーダーによって組織化・統率化されたゾンビたちがその筆頭に挙げられると思う。ザック・スナイダー監督は本作のゾンビたちを、互いにコミュニケーションを取りながら一緒に狩りをし、ボスが存在するという意味で「オオカミの群れ」に例えているように、この集団にはヒエラルキーも能力差も存在する。そして、もちろん本作も「走るゾンビ」の系譜であることは言うまでもない。さらに中には格闘するゾンビや仲間を呼ぶゾンビなども現れ、本作のゾンビは過去の肉を喰らうことだけが目的の過去ゾンビとは違い、かなり”知能的”な存在だと言えるだろう。

 

そしてその中で王として君臨し、コミュニティをまとめているのが“ゼウス”というリーダー格のゾンビで、彼に至っては言葉をしゃべることは出来ないようだが、それ以外の要素はほとんど人間と変わらないように見える。しかも感情もかなり豊かで、ゼウスとカップルであったクイーンゾンビが人間によって首を切られて殺されるという展開に対して、彼は慟哭して悲しむのだ。しかもこのクイーンゾンビは妊娠している事が発覚し、個人的に中盤以降はほとんどこのゼウス側に感情移入して映画を観ていたほどだ。逆に今回の人間側である傭兵軍団には、正直あまりにも魅力的なキャラクターが少なく、ここが本作の大きなマイナスポイントな気がする。

 

本作の上映時間は2時間28分もあるのだが、この上映時間の中でもっともアガったのは「準備はいいか?ワン、トゥー、スリー、フォー」とカウントダウンから始まる、オープニングシークエンスだったのは白状しておきたい。この一連の場面は最高でリチャード・チーズ&アリソン・クロウが歌う「Viva Las Vegas」をバックに、ラスベガスがゾンビに襲撃され混乱していく様子をテンポ良く描いていき、スコット・ウォードを筆頭とした傭兵軍団がゾンビと戦っていた過去を描くことを目的に、一面のゾンビを飛行機から空爆したり、落下した白いパラシュートがゾンビによって血に染まっていくシーン、傭兵たちが的確なヘッドショットを決めていくシーン、機関銃でゾンビをハチの巣にするシーンなど、過去のゾンビ映画と比べてもかなりフレッシュな描写が満載で、映画本編の展開に対してかなり期待させるシークエンスとなっている。このシーンだけでも本作は観る価値はあるだろう。

 

だが実際に本編が始まると、突っ込みどころ満載の脚本にイライラさせられる。ここからネタバレになるが、傭兵部隊を集めていく序盤の流れこそワクワクさせるのだが、なぜか主人公のワガママ一人娘が傭兵部隊と共に行動するという展開から雲行きが怪しくなり、仲間であるはずの女性傭兵チェンバーズが人間側の悪役マーティンの策略にハマりゾンビに囲まれるシーンでは、「逃げよう、あれじゃ助からない」の一言で全員があっさり見殺しにしたりと、観ていて違和感が募ってくるのだ。そのうち、たまたまメンバーが観ていたテレビでベガスの爆破が24時間繰り上げられ、あと90分しか時間がないことを知る展開や、さらにもう爆破まであと20分しか時間がなく一分一秒を争うときに、突然「恋バナ」を始める主人公とヒロインなど、どういう気持ちでこの場面を観ればよいのか分からなくなる。イムリミットの緊迫感が大幅に削がれるのだ。

 

さらにタナカの目的は金ではなく、クイーンゾンビの首だったという事がわかる展開では、では何故マーティンは戦力になる女性傭兵を罠にはめる必要があったのか?もよくわからないし、そもそも金庫いっぱいの2億ドルはあんな小さなバックでは入りきらないぞとか、親父が恋バナをしている隙にいきなり無茶な単独行動を取りだす一人娘、さらには金髪の女性兵士が屋上でクイーンの首を持ったまま「食い止めるから、先に行って」という展開は、こちらが有利なのになぜ一緒にヘリに乗らないのか?も頭をひねるし、娘を助け出したあとの「ヘリがいない!?」「いや、やっぱりいました」の展開もあの女性パイロットの性格上、先が読めすぎてまったく必要のない展開になっていると思う。とにかく各キャラクターの行動が無謀だし、盛り上げるための展開に無理がありすぎて集中できなくなるのだ。

 

だが良い所ももちろんある。前述のオープニングシークエンスを筆頭に、ゼウスとクイーンゾンビの造形、バレンタインと呼ばれるゾンビ虎が悪役を殺すときのシーン、金庫の前のトラップシーンでの”ゾンビぺちゃんこ”、格闘ゾンビとのバトル、ラストのヘリアクションなど、さすがザック・スナイダーと呼べるケレン溢れるアクションシーンの数々は見応えがあるし、構図やカメラワークも凝っていて面白い。正直、この作品は”親子愛”や”恋愛要素”を要素を1時間くらい削って、単純明快なゾンビアクションに振り切ってしまった方が良かったと思う。さすがにこのジャンルで2時間28分は長すぎだろう。

 

おそらくラストの展開から続編を考えていると思われる本作。「ドーン・オブ・ザ・デッド」の完成度を期待すると肩透かしを食うが、Netflixのオリジナル作品として家でまったり観るには程よい作品かもしれない。使われている楽曲もエルヴィス・プレスリーからドアーズ「THE END」のカバーやクランベリーズと、音楽担当のジャンキーXLとザック・スナイダーの独特なセンスを感じる選曲でカッコ良かった事は記載しておきたい。もし続編があるなら今回のゾンビの造形は活かして、もっとタイトに刈り込んだ純粋なゾンビアクションを観てみたいものだ。

 

 

6.0点(10点満点)