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映画「クルエラ」ネタバレ考察&解説 あまりに良い子過ぎるクルエラが残念!だが映画としては十分に楽しい作品!

「クルエラ」を観た。

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前作「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」でマーゴット・ロビーと組み、類い稀なる傑作を撮ったクレイグ・ギレスピーの最新作であり、ディズニーアニメ「101匹わんちゃん」で有名な悪役クルエラの誕生秘話を描いた実写作品だ。主演は「ラ・ラ・ランド」や「女王陛下のお気に入り」のエマ・ストーン。共演としては、強烈な悪役カリスマデザイナーのバロネス役を「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」や「美女と野獣」のエマ・トンプソンが演じているのを始め、「キングスマン」シリーズのマーク・ストロング、「リチャード・ジュエル」のポール・ウォルター・ハウザーらが脇を固める。本作の高評価を受けてすでに続編の制作が決定しているらしいが、この「クルエラ」の出来はどうだったか?今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:クレイグ・ギレスピー

出演:エマ・ストーンエマ・トンプソンマーク・ストロング、ポール・ウォルター・ハウザー

日本公開:2021年

 

あらすじ

パンクムーブメント吹き荒れる70年代のロンドンに、母を失ったという悲劇を乗り越え、デザイナーを志す少女エステラがやってくる。情熱と野心に燃える彼女は、裁縫やデザイン画の制作に打ち込み、デザイナーへの道を駆けあがるため努力するが、なかなか報われない。だが、あるきっかけで出会ったカリスマ的ファッションデザイナーのバロネスが、エステラの運命を大きく変えることとなる。夢と希望にあふれた若きエステラが、なぜ狂気に満ちたクルエラとなったのか。その秘密がいま明らかにされる。

 

 

パンフレット

価格880円、表1表4込みで全56p構成

縦型小型サイズ。表紙もPPマット仕様で、全体的に紙質が良くクオリティが高い。エマ・ストーンエマ・トンプソンクレイグ・ギレスピー監督を始め、各スタッフのインタビューが掲載されている。また劇中の衣装デザインがイラストで掲載されており、デザイン性も高く、ページ数も多いため全体的に読み応えがある。

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感想&解説

ディズニーアニメ「101匹わんちゃん」に登場する、あの有名なヴィラン(悪役)を描く作品として、本作を2019年公開のトッド・フィリップス監督「ジョーカー」と比較する声が多く聞かれたが、実際に観てみるとコンセプト自体が全く違う作品であった。まず第一に痛感するのはこの「クルエラ」は、やはり”ディズニー映画”であるという事だ。それは、いくら主人公クルエラをヴィランのように描いていても、彼女は他人や動物を暴力で傷付けるといった、一線を越えるような悪事は絶対にしないことからも感じる。むしろ積極的に彼女自身を悲劇的なキャラクターとして描きこむ事により、観客が感情移入できる"良き主人公"として蘇らせているとすら感じさせる。これにより、従来の”クルエラ”と言うキャラクターの設定自体が危うくなっており、髪の毛が”白と黒”に色分けされた、単なるファッショナブルな女性にすら見えてしまうのだ。

特に変更があるのが、「犬のダルメシアンを捕まえて、その毛皮でコートを作ろうとする」という旧作でのクルエラたる大事な設定が、本作では完全に削除されている点だろう。これは大きい。また本名だったはずの「クルエラ・デ・ビル」は、「パンサー・ド・ビル」という彼女が盗んだ大型車から命名されたという、この映画独自の設定が追加されており、「クルエラはデビル」という名前からくる"悪魔感"もやんわりと薄められている。もともと原作クルエラのモデルは、往年のハリウッド女優タルラー・バンクヘッドで、1日120本のタバコを吸い、数々のスキャンダルやドラッグ騒動など、エキセントリックな行動で有名な女優だが(一瞬、本作でも白黒テレビに姿が映る)エマ・ストーンが主演を演じている効果もあり、今回の「クルエラ」という作品はとにかく"ポップで軽い”のである。その点でホアキン・フェニックスが主演を演じた「ジョーカー」とは、ある意味で真逆の作風だとも言えるだろう。だがこの軽さこそが、本作を観やすく楽しい作品にしているポイントであるのも事実だ。


大まかなストーリーとしてはこうだ。主人公のエステラは母親に愛されながらも、生まれながらに白と黒に分かれた髪色のせいもあり周囲とうまくいかず、学校をリタイアしてロンドンに出発する。だがその途中に立ち寄った屋敷で、母親がその屋敷の女主人と議論している最中に崖から落ちて亡くなってしまうという事故に遭う。その後、単身でロンドンにたどり着いたエステラは、子供でありながらスリをしながら生計を立てている、ジャスパーとホーレスという二人の少年に出会い、彼らに助けられながら大人に成長する。13年後、ファッション・デザイナーに憧れていたエステラは髪を赤く染めたこともあり、ついに高級デパートで働くことになるが、掃除担当としての仕事ばかりでなかなかチャンスを掴めない。だが、ある夜にショーウィンドウに置かれたマネキンの飾りつけを勝手に行ったことにより、それがカリスマ・ファッションデザイナーのバロネスの目に留まり、彼女の元で働くことになる。

 

 


ようやくデザイナーとしての一歩を歩みだしたエステラだったが、ある日バロネスの首元に母親の付けていたネックレスを見つけてしまう。エステラが幼かった日に母親が訪れた屋敷はバロネスの家だったのだ。そこからネックレスの奪還を計画するエステラは髪色を白黒に戻し、ジャスパーとホーレスの助けも借りながら、もう一人の人格「クルエラ」として、バロネス主催の舞踏会に参加する。派手な衣装と登場でバロネスの目を引き付けることにより、チームワークでネックレスを持ち出すことには成功するが、バロネスの飼い犬であるダルメシアンがそれを飲み込んでしまい、その犬の誘拐を実行する一同。こうして昼間はバロネスのスタッフとして働く一方、夜は「クルエラ」としてバロネスの上を行くパフォーマンスとファッションで、常に世間の注目を集める生活を続けるエステラだったが、バロネスはクルエラの正体を見抜こうと画策していた。


ファッション・デザイナーを目指している少女が、夢を叶えるというサクセスストーリーの側面や、ネックレスを狙うチーム強奪モノの側面、さらにファッション業界での女の闘いという側面など、さまざまな映画的な要素が本作にはあるが、それらが60~70年代のロック&ポップミュージックに乗って軽快に語られていく。特に前半はとにかく矢継ぎ早に楽曲がかかるので、そのテンポで映画がどんどんと加速していく。この感じは、エドガー・ライト監督の2017年公開作「ベイビー・ドライバー」を思い出す。楽曲としては、ビー・ジーズ「Whisper Whisper」、ドアーズ「Five to One」、レッド・ツェッペリン「Whole Lotta Love」のカバーバージョン、ELO「Livin’ Thing」、クイーン「Stone Cold Crazy」、ビートルズ「Come Together」のアイク&ティナ・ターナーのカバー、ザ・クラッシュ「Should I Stay Or Should I Go」、そしてディープ・パープルの「Hush」などで、70年代のロンドンが舞台だけあって、これは監督の意図だろうが見事にUKアーティスト中心の選曲となっている。中でも名曲「Hush」がかかるシーンでは、映像とのシンクロに無条件に気分が昂ってしまった。


ゲリラ的なファッションショーは行うが、特にそれ以上の悪事を働かない”クルエラ”とは対照的に、エマ・トンプソンが演じるバロネスというキャラクターは見事な悪役っぷりで、キャラクターとしてはこちらの方が圧倒的に立っている。人を殺すことを何とも思わず、まさに自己顕示欲の塊で周りの人間のことをゴミのように扱い、さらに簡単に切り捨てる。そしてここからネタバレになるが、本当の自分の娘であるエステラを赤ん坊の時に捨て、さらに成長して再び目の前に現れたクルエラも自らの手で崖から突き落とそうとするという悪魔の所業は、まさに彼女こそ悪役=ヴィランの名に相応しいだろう。彼女に比べると、エマ・ストーンの”クルエラ”はヒールとしては生ぬるい。この比較もあって、今作のクルエラは悪のカリスマには見えないのだ。特に最後の対決シーンくらいは、母親の仇でもあるバロネスを、非情に殺して決め台詞を言うくらいのケレンはあっても良かったのではないだろうか。今作のクルエラは最後まで暴力を振るわないが、このあたりはややディズニー映画としての、監督の苦慮を感じた部分であった。


だが繰り返しにはなるがディズニー映画としては、このくらいのバランスがおそらく丁度良いのだろう。作品としても、コスチュームデザイナーのジェニー・ビーヴァンが手掛けた、本作の80着近い衣装の数々は観ているだけで本当に楽しめるし、プロダクションデザインや小道具も全体的にクオリティが高い。CGによる犬たちも、その動きや表情からさすがにCGであることはすぐに解るが、それでもその違和感がノイズになることはない。「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」からクレイグ・ギレスピー作品に出演しているポール・ウォルター・ハウザーも、コミックリリーフとして本作でも最高の演技を見せている。食べているシーンだけで、これだけ笑わせてくれる俳優も珍しいだろう。


「クルエラ」というタイトルから想像する、ダークな世界観を期待すると肩透かしを食うが、逆にお洒落でポップな作品として、そして実写版ディズニー映画の最新作としてカップルなどで楽しむには最適な作品だと思う。特にエマ・ストーンが着こなす衣装の数々は、女性には特に楽しめるのではないだろうか。個人的にはUKロックの選曲センスには楽しませてもらったし、ストーリーや演出も含めて娯楽性も高く、総じてバランスの良い作品だったと思う。なかなか劇場で観られる洋画が少ない今、こういうクオリティの高い作品に出会えることは単純に嬉しい。クレイグ・ギレスピー監督の次回作も楽しみだ。ちなみに今回は珍しく吹替版も鑑賞したのだが、クルエラ役の柴咲コウの声の演技も、まったく違和感がなくて良かったことも記載しておきたい。

 

 

7.0点(10点満点)