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映画「グリーンランド 地球最後の2日間」ネタバレ考察&解説 世界観や設定にモヤモヤするディザスタームービー!

グリーンランド 地球最後の2日間」を観た。

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「300 スリーハンドレッド」や「ハンターキラー 潜航せよ」に出演していたジェラルド・バトラーと、「デッドプール」シリーズでヒロインを演じていたモリーナ・バッカリンが夫婦を演じ、「オーバードライヴ」でメガホンを取ったリック・ローマン・ウォーが監督したディザスタームービー。リック監督は2019年公開「エンド・オブ・ステイツ」でもジェラルド・バトラー主演で映画を製作しており、今回は二度目のタッグとなる。本作は28カ国でNo.1ヒットを記録し、ディザスタームービーというジャンルの底力を見せつけた。今回もネタバレありで感想を書きたい。


監督:リック・ローマン・ウォー

出演:ジェラルド・バトラーモリーナ・バッカリン、ロジャー・デイル・フロイド

日本公開:2021年

 

あらすじ

突如現れた彗星の破片が隕石となり地球に衝突した。さらなる巨大隕石による世界崩壊まで残り48時間に迫る中、政府に選ばれた人々の避難が始まる。建築技師の能力を見込まれたジョン・ギャリティ、そして妻のアリソンと息子のネイサンも避難所を目指して輸送機に駆けつけるが、ネイサンの糖尿病という持病により受け入れを拒否され、家族は離れ離れになってしまう。人々がパニックに陥り、無法地帯と化していく中、生き残る道を探すギャリティ一家が目にしたのは、非常事態下での人間の善と悪だった。

 

 

感想

劇場で久しぶりに観た「大型ディザスタームービー」だった気がする。48時間後に地球を滅ぼす巨大隕石が降ってくるという事実を知らされた世界と、その中で葛藤する家族を描く作品という事で、この設定からどうしてもマイケル・ベイ監督「アルマゲドン」や、ミミ・レダー監督「ディープ・インパクト」、ローランド・エメリッヒ監督「2012」あたりの過去作を思い出してしまう。だからこそ、この「グリーンランド 地球最後の2日間」はこれらの過去作とどう差別化をしているのか?は、鑑賞前の大きな期待ポイントだった。結論から言ってしまうと、本作は「アルマゲドン」や「2012」といった、ディザスター自体のVFXの派手さを見せつけるような娯楽作ではなく、もっと人間ドラマを掘り下げるヒューマンドラマ寄りの作風だと思う。そういう意味では「ディープ・インパクト」に近いのだが、多くのキャラクターを並列に描く群像劇ではなく、本作はあくまでも”ある三人家族”だけにフォーカスして物語が進んでいくのが特徴だろう。

本作のジェラルド・バトラー演じるジョン・ギャリティは、いわゆる”スーパーヒーロー”ではない。建築業を営んでおり、家族の命を最優先するただの男だ。彗星が地球に近付いているというニュースが流れるある日。ジョンの浮気が原因で妻アリソンとの夫婦関係は上手くいっていないが、息子ネイサンとは仲がよく、ジョンは近所の家族を呼んでのパーティを予定していた。その時、彼の携帯に政府から「大統領アラート」という電話が入る。内容はジョンが”選ばれた人間”である為、家族と共に彗星の落下を避けてシェルターに避難できるので、軍の飛行場まで最低限の荷物を持って移動しろという内容だ。周りの家族は自分たちには連絡が来ないことからパニックに陥るが、ギャリティ一家は空軍基地に向けて車で移動を開始する。なんとか渋滞を潜り抜けて、空軍基地近くに着いた三人がゲートへ向かうと、そこには”選ばれなかった”多くの人が殺到していた。そして三人は、軍のチェックを受けて飛行機に乗るためのリストバンドを付けられる。


だがそこで、息子ネイサンの持病の為に必要なインスリンを車に置いてきてしまったことが判明し、ジョンは車に取りに戻るが、その間にアリソンとネイサンは病気を持つものは飛行機に搭乗できないと言われ、結果的にジョンとはぐれてしまう。インスリンを持ってゲートに戻ったジョンだったが、妻と息子が飛行機に乗っていないことを知り再び車に戻ると、車にはアリソンの実家で落ち合おうというメモが残っていた。ジョンとアリソンはそれぞれ、祖父の住むレキシントンに向かって移動を始める。その後、このリストバンドを巡ってネイサンが誘拐されたり、ジョンが男たちから襲われたりと、暴徒と化した市民に命を狙われることになるギャリティ一家だったが、なんとか祖父のいるレキシントンにたどり着き一家は再会する。


ここからネタバレになるが、実家に戻ると、明日の朝に過去最大級の隕石が落ちてきて、地球上のほとんどの都市が壊滅する事をニュースが伝えており、更にグリーンランドにシェルターがあることが明らかになる。カナダからグリーンランドに飛ぶ輸送機に望みをかけたジョン達一家は、祖父に別れを告げてカナダに向かい、落下してくる隕石を避けながら、なんとか飛行機に乗り込むことに成功する。飛行機も隕石の爆風に遭い不時着しつつも、命からがらグリーンランドに到着する一同。軍に救助されてシェルターに救助された一家はお互いに愛を告げ合い、巨大隕石からの衝撃に備える。9か月後、世界はほとんど壊滅したがシェルターは無事で、更にまだ生存者が各国にいることが通信により解り、映画は終わる。

 

ヒューマンドラマとしては良いシーンが多く、涙腺を刺激する。特にスコット・グレンが演じるジョンの義父の存在がとても良い。娘と孫を心から愛し、その夫の不貞にも厳しい意見は持ちつつも決して突き放さない。そして最後は「二人を守ってくれ、息子」とライフルを渡すシーンなどは、思わず胸に迫る。いまでも亡き妻を想っており、本作を貫く”家族愛”というテーマを体現するようなキャラクターで、非常に魅力的だ。またこのパニック状態において本当に怖いのは、「人間」だという定型的なテーマに対して、人が持つ醜い部分への描き方も上手い。特にヒッチハイクするアリソンとネイサンを助けてくれる夫婦が、彼女たちのリストバンドを見たとたんに挙動不審になり、アリソンのバンドを奪ってネイサンを誘拐する一連のシーンは非常に不快だし、息子を奪われたアリソンの絶望が伝わってくる。こういう不測の事態だからこそ、”人間の本性”が出るのだろうが、この映画はそこをしっかりと描けている。これは主人公を一つの家族に絞った為に、観客の感情を彼らに集中させることに成功しており、脚本の起伏をうまくコントロールできているからだろう。

 

 


ではこの作品が傑作になっているかと言えば、残念ながらそうではないのが映画の難しいところだ。まず本作のもっとも大きな欠点は、いわゆる「救出する側=アメリカ政府」の設定だ。この「大統領アラート」なる命を助ける市民を選ぶというシステム自体が謎で、このギャリティ一家が選ばれた理由が「建築士だから」という事が中盤で語られるが、アメリカ全土には建築士などゴマンといるだろう。冒頭のジョンが働いている描写からは、彼が「政府にとって、特別に救われるべき人間であること」が全く伝わってこないし、まずこの”命の選択”をストーリーの前提にしているのが不快だ。また国民本人にいきなり電話がかかってくるとか、テレビにこのアラートの結果を表示させるというやり方も民衆のパニックを生むだけだろう。何より、選ばれなかった国民には何の救済もなく見殺しにするだけなど、このあたりはむしろ”ディザスター映画”よりも”ディストピア映画”のような展開になってきて、まずこの世界観に乗り切れない。


またゲートにおける”リストバンド”の扱い方もずさんで、リストバンドがあればノーチェックでゲートを行き来できたり、かと思えばセキュリティが思いついたようにバンドでIDチェックしたりするので、劇中でこのバンドを奪い合うことにどの程度の意味があるのか?がわからない。もし厳格にリストでチェックして管理するのであれば(するべきだが)、むやみにバンドを争って殺し合いをする必要もない訳で、それを政府がオフィシャルに発信しないのも謎だし、とにかくこの救済プロジェクトの国民への情報が少な過ぎる。また逆に巨大隕石が降って来ることを、テレビなどのメディアが伝えることはまだ理解できるが、この隕石によって全人類の75%が死滅するとか、グリーンランドに実はシェルターがあるなどの、市民を無闇にパニックに陥れるだけの情報を、ニュース番組が四六時中ペラペラと報道しているのも不自然だ。さらに世界中で隕石は落ちているはずなのに、いきなり行ったカナダの空港はガラガラで、何故か飛行機に乗れてしまう展開も都合が良すぎるし、あれほどアメリカで飛行機に乗るときにはチェックで混みあっていたはずなのに、グリーンランドのシェルター自体にはノーチェックで入れてしまうとか、この映画のルールや世界観がグラグラでどうにも感情が乗り切れないのだ。


とはいえ、さすがに2021年の作品だけありディザスター描写はリアルで迫力があるし、心底恐ろしい。また上映時間の119分は集中力が途切れないくらいには、展開もスピーディーで面白い。ヒューマンドラマとしての見所もあるし、ヒーローではなく一般人を演じたジェラルド・バトラーモリーナ・バッカリン、スコット・グレンといった役者陣も良い演技を見せていたと思う。ただどうしても納得できない設定やご都合主義の展開がノイズになってしまい、映画の世界に没頭できなかった印象の本作。この状況で政治家や大統領がいっさい登場しない為、アメリカ政府の無能ぶりを描くという"裏コンセプト"が本作にあるのであれば、それは意外と成功しているのかもしれないが。ラストシーンで”職業によって”選ばれ生き残った人たちは、再びどんな世界を作るのだろうかと想像してみたが、そもそも自分は選ばれないなと思い、考えるのを止めてしまった。映画のクオリティとは別に、何か大きなモヤモヤが残る作品であった。

 

 

5.5点(10点満点)