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映画「ワイルド・スピード ジェットブレイク」ネタバレ考察&解説 期待していただけに残念!個人的にはシリーズ最低評価作品!

ワイルド・スピード ジェットブレイク」を観た。

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2001年の第一作目から続く、メガヒットカーアクションシリーズ「ワイルド・スピード」の第9作「ジェットブレイク」が、コロナによる公開延期を経てようやく公開となった。監督は3作目「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」から、6作目「ワイルド・スピード EURO MISSION」までを担当した、シリーズの立役者と言って良いジャスティン・リン。出演はヴィン・ディーゼルミシェル・ロドリゲス、タイリース・ギブソンといいたいつものメンバーに加え、6作目のラストでジェイソン・ステイサム演じるデッカードに殺されたはずのサン・カンが演じる「ハン」が再登場することでも、話題になっている。さらに前作に引き続きシャーリーズ・セロン扮する悪役サイファーやドミニクの弟ジェイコブ役でジョン・シナが参戦したりと、ますます本シリーズは広がりを見せている。今回もネタバレありで感想を書きたい。


監督:ジャスティン・リン

出演:ヴィン・ディーゼルミシェル・ロドリゲスシャーリーズ・セロン

日本公開:2021年

 

あらすじ

パートナーのレティや幼い息子ブライアンと3人で平穏な日々を過ごしていたドミニクだったが、ミスター・ノーバディに助けを求められたことで、否応なくサイファーたちとの戦いに巻き込まれていく。さらにドミニクの実の弟ジェイコブの存在が初めて明かされ、彼の悪意はドミニクたちファミリーを窮地に追い込んでいく。世界を揺るがす陰謀を阻止するため、そして凄腕の殺し屋で超一流の運転技術を持つジェイコブとの戦いのため、ドミニクは再びハンドルを握ることになる。

 

 

感想&解説

初めて「ワイルド・スピード」シリーズを映画館で観ながら、あくびが止まらなかった。もちろんスクリーンの中では、これ以上ないくらいのド派手な爆発やカーアクションシーンが繰り広げられているのだが、全く緊張感がないシーンが続き、観ながら興味が持続できない。今から40年以上前の1978年日本公開のウィリアム・フリードキン監督「恐怖の報酬」における、ぼろぼろの吊橋をトラックで渡るシーンのあの緊迫感に、なぜ本作は遠く及ばないのか?は、”カーアクション映画”というジャンルを考える良いきっかけになる気がする。とはいえ、まったくリアリティラインの違う二作なので単純に比較しても仕方ないし、「ワイルドスピード」シリーズにとって「荒唐無稽さ」は良い点でもあるのは重々承知ではあるのだが、それにしても肝心のアクションシーンがこれほど盛り上がらないのは問題だと思う。


序盤のドミニクの実弟ジェイコブとのカーチェイスシーンで、崖から飛び出した途端、磁力付きの戦闘機に収納され逃げられてしまうシーンはまだ良いとしても、ドミニクが崩れた橋からジャンプした際にロープの遠心力で向こう側に渡るシーンなど、どういう理屈でああなるのだろう?そしてなぜドムはルートを変えることをせずに、あの危険なジャンプを実行すると判断できたのか?また中盤から登場する本作のメインギミック「強力マグネット装置」も、車に取り付けてボタンひとつで「吸着と放出」ができる仕様だったが、そもそも鉄の塊である車にあんな強力な磁力を積んで、車自体がまともに走れるはずがない。なぜ自分の車はまったく影響を受けずに、周りの車やモノだけが吸い寄せられるのか?の理屈も特にない。もちろん(繰り返しになるが)、ある程度の”無茶な展開”はこのシリーズでは仕方ないのだが、それにしてもこのレベルまで荒唐無稽が達してしまうと観ていてスリルも感じないし、どうでも良いと感じてしまう。


そしてもっとも唖然としたのは、人工衛星を止めるために車にロケットエンジンを積んで宇宙に飛ばすという終盤の衝撃シーンだ。これが成立してしまうのであれば、もはやこのシリーズは文字通り「なんでもあり」という事なのだろう。いつもドミニクたちはどんなに危険な状況に立たされても絶対にケガすることすらなく、超人的な戦闘能力と運転技術とITスキルで、「世界規模の危機」を解決していくだが、そこに”感情の盛り上がり”がなければ、ただ羅列するお金のかかったVFXシーンの寄せ集めを、ボンヤリと眺めるだけの作品になってしまう。お手製の宇宙服もどきで宇宙空間を彷徨っていると、他の有人宇宙機に救助されるシーンなどはさすがに開いた口が塞がらない。劇中で彼らが自分たちを「無敵なのかも」と表現する場面があったが、むしろそれくらいの設定にしてくれた方が、腑に落ちるくらいの場面だ。今後のワイスピでは車からレーザー光線が出ようが自力で空を浮こうが、もはや驚きはしないだろう。

 

 


これは登場人物の気持ちに観客を感情移入させて、「これが失敗したら大変なことになる」とか「成功して良かった」と思わせる脚本や演出の力よりも、作り手が"頭の中で描いた派手なシーンを観せる”ことに優先度が置かれているからだと思う。もちろん他のアクション映画にもそういう側面はある。例えば「ミッション・インポッシブル」シリーズなどは、やはり荒唐無稽なアクション映画だと思うが、トム・クルーズという役者本人による異常なこだわりと運動神経そのものによって手に汗握るシークエンスの数々が成立していると思う。だが本作にはアクション自体の生々しさもなければ、主人公たちが感じる緊張感や緊迫感などが決定的に欠けている。7作目「SKY MISSION」は俳優ポール・ウォーカーの実際の事故死を、ブライアンが「家族と過ごす人生」を選ぶことによりドミニクたちと別れるという、感動的なシーンとして演出し名作となったが、正直5作目「ワイルド・スピード MEGA MAX」あたりが、純粋なカーアクション映画としては臨界点だったと思う。


また本作は”ファンムービー”としても納得感に欠ける展開が続出する。例えば久しぶりにミアが登場するのだが、前述のとおりブライアンと幸せな家庭を築いているはずだろうに、ドミニクの弟が絡んでいるとはいえ、妻であり母親のミアだけを危険な場所に向かわせるか?といえば、どうにもあのブライアンのキャラクターにはそぐわない気がするし、また3作目の主人公ショーンとその仲間たちもただの「ドリフト高校生」だったのに、なんの前触れもなくロケットエンジンの開発をしているという展開はご都合主義過ぎる。さらにハンの復活に関しても、ミスター・ノーバディの計画により事故死を偽装していたということらしいが、「3」のハン事故死シーンを強引にもう一回ツイストさせてしまったことにより、ハンパない「後付け感」が生まれてしまい、本来はもっと嬉しいはずのハン再登場のインパクトよりも、正直違和感の方が立ってしまっている。


またストーリーの解りにくさも特筆もので、ドミニク兄弟の過去も含めてブツ切れの映像の連続のため、いま何を目的に彼らは何をしているのか?が頻繁に解らなくなるのも問題だ。今思い返してみても本作がどんなストーリー展開だったのか?が思い出せない。本作で突然登場しながらも、相当ドミニクを憎んでいたという設定の実弟ジェイコブもまんまと最後には仲間になり、「昨日の強敵は今日の親友」という少年週刊ジャンプ的なワイスピシリーズのお約束も健在だ。冒頭のジェイコブ登場シーンから想像が出来る、この既視感あるある展開も良い意味で裏切って欲しかっただけに残念である。またいつまで経ってもハリウッド大作ではアップデートされない、相変わらずのヘンテコ日本描写にはもはや何も言う気すら起きない。

 

本作のエンドクレジットでは、ハンとデッカードの対面が描かれ次回作への伏線となっていたが、完結2部作となる10作目と11作目は2023年と2024年に連続で公開されるらしい。ホブス演じるドウェイン・ジョンソンヴィン・ディーゼルと仲が悪いらしく、ナンバリング作品には出演しないと公言しているが、最後くらいは登場してほしいものだ。さらにラストでは「青いGT-R」が登場することから、どこかでブライアンが登場するのだろうと予想する。俳優ポール・ウォーカーはすでに他界しているが、今の技術であればCGと代役で十分にそれも可能だからだ。次回作は「ワイルド・スピード」らしい、ストリートレースに原点回帰した、もう少し地に足の着いたカーアクションが楽しめるシリーズ完結編を期待したいし、初期作のファンとしてはもう車で宇宙にいくような、メチャクチャな展開から少しでも戻ってきてほしいと思う。

 

 

5.0点(10点満点)