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映画「白頭山(ペクトゥサン)大噴火」ネタバレ考察&解説 娯楽映画のごった煮!韓国製ディザスタームービーの良作!

白頭山(ペクトゥサン)大噴火」を観た。

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甘い人生」「KCIA 南山の部長たち」のほか「マグニフィセント・セブン」などのハリウッド作品でも大活躍のイ・ビョンホンと、「チェイサー」「お嬢さん」のハ・ジョンウ、さらに「新感染 ファイナル・エクスプレス」のマ・ドンソクが共演した、ディザスターサスペンス。監督は「22年目の記憶」のイ・ヘジュンと、「神と共に」シリーズの撮影監督キム・ビョンソ。本国韓国では3週連続第1位で、約820万人を超える動員を果たした大ヒット作品となっている。今回もネタバレありで感想を書きたい。


監督:イ・ヘジュン、キム・ビョンソ

出演:イ・ビョンホン、ハ・ジョンウ、マ・ドンソク、チョン・ヘジン

日本公開:2021年

 

あらすじ

北朝鮮と中国の国境付近に位置する火山・白頭山で、観測史上最大の噴火が発生した。大地震によりソウルでもビルが崩壊し、漢江は荒れ陸橋が崩壊。パニックに陥る中、政府は白頭山の地質分野の権威であるカン教授に協力を要請する。カン教授は朝鮮半島を崩壊させるほどのさらなる大噴火が75時間後に起こると予測し、韓国軍爆発物処理班のチョ・インチャン大尉率いる部隊が、北朝鮮へ潜入し火山の沈静化を図る極秘作戦に乗り出す。さらにインチャンは作戦成功の鍵を握る北朝鮮人民武力部工作員リ・ジュンピョンを探し出すべく奔走する。

 

 

感想&解説

これまた韓国映画に、無条件で楽しめる娯楽作が生まれたという印象だ。ただし、ナ・ホンジン監督の「哭声/コクソン」「哀しき獣」や、ポン・ジュノ監督「パラサイト 半地下の家族」「母なる証明」、パク・チャヌク監督「お嬢さん」「渇き」のような、「今まで観た事のないような映画」ではなく、完全に”ハリウッド映画”の路線を韓国映画として突き詰めたような作品で、冒頭のソウルの繁華街でビルが次々と倒壊してくるシーンや、その倒れてくるビルを縫うように対向車と逆走するカーアクションなど、冒頭15分からまるでローランド・エメリッヒのディザスター映画アップデート版を観ているようだ。これらがアメリカ制作のビッグバジェット作品に引けを取らないクオリティで、次々と現われるので、こういった"ジャンル映画"が好きであれば間違いなく楽しめる作品だろう。


ストーリーは、北朝鮮と中国の国境付近に位置する活火山「白頭山(ペクトゥサン)」が突然噴火したことで、韓国ソウルでさえマグニチュード7.8の大地震が直撃し、朝鮮半島が壊滅的な危機に襲われるところから映画は始まる。そこで韓国政府は、3年前から白頭山の噴火の研究をしてきた地質学教授である、マ・ドンソク演じる「カン・ボンネ」の知恵を借りながら対策会議を開くことになるのだが、白頭山の地下にはマグマ溜まりが4つ連なっていて、これから確実に3回の噴火が起こるという事実が公表される。しかもいちばん深層にあるマグマが巨大であり、これが噴出すると朝鮮半島がほぼ壊滅してしまう程の破壊力らしい。

 

これを防ぐ方法は、カン・ボンネが提唱する白頭山の地下で600キロトンの核爆発を起こし、マグマの圧力を逃してやる方法しかないということで、この緊急事態に対応するため、爆発物処理班所属のハ・ジョンウ演じる「チョ大尉」とその部下たちは極秘命令を受ける。その命令とは、イ・ビョンホン演じる北朝鮮の収容所にいる工作員「リ・ジュンピョン」を救出し、彼が設置場所を知っている「大陸間弾道ミサイル」を解体することで核弾頭を盗み、いまから76時間以内に白頭山のふもとの地下にある坑道のなかで爆発させるという内容だった。


しかも、中国と北朝鮮との国境に韓国が侵入し核爆発を起こすというこの”無謀なミッション”に、韓国の動きを知ったアメリカ政府が介入してきて、政治力と銃撃戦でチョ大尉の作戦を邪魔してくる。朝鮮半島の「非核化」を推進していたアメリカ政府にとって、白頭山の噴火を止める為とはいえ他国が核を使うなどはもっての外なのだ。さらに工作員「リ・ジュンピョン」は中国とも繋がっているダブルスパイでもあり、韓国・アメリカ・北朝鮮・中国の複雑な関係性の中で、まるでスパイ・サスペンスのような臨場感で映画は進んでいく。さらに爆発物処理班所属の「チョ大尉」には妊娠中の奥さんがいて、「彼女のもとに必ず帰りたい」というヒューマンドラマの要素もあるのだ。ディザスターパニック要素あり、戦争アクション要素あり、スパイサスペンスあり、ヒューマンドラマありと、まるで娯楽映画の要素を丸ごと入れて煮込んだような作品になっているのである。


しかもメインキャストはイ・ビョンホン、ハ・ジョンウ、マ・ドンソクといった韓国スターが揃っており、それぞれにしっかり見せ場が用意されている。マ・ドンソクは”地質学の教授”という役柄のため、いつもの「マッチョで戦う男」ではないが眼鏡姿も意外と似合っており、こういう役もこなせるのかと感心した。「悪人伝」とのギャップがすごすぎる。またイ・ビョンホンは「正体が掴めない謎のスパイ」を嬉々として演じており、50歳を越えた今でもカッコいいの一言に尽きる。KCIA 南山の部長たち」のような静かな演技も良かったが、本作のイ・ビョンホンが観客がもっとも観たい彼の姿のような気がする。最後にハ・ジョンウは、本作においてのコメディリリーフ役であり、急遽リーダーとしてチームを指揮するも戦闘経験がなく頼りない主人公を演じている。ただ正義感が強く行動力もあり、愛する奥さんの元に帰りたいという動機があるチョ大尉は、観客がもっとも感情移入できるキャラクターだろう。とてもハマリ役だったと思う。

 

 


本作はタイムリミットのあるシリアスな展開にも関わらず、かなりコメディ的な笑いのあるシーンも多く、これがよい緩急になっている。ここからネタバレになるが、特に後半はイ・ビョンホンとハ・ジョンウの二人によるシーンが多く、「キューティープチ」にまつわるやり取りや二人でコーラを飲むシーンなど、ほっこりと笑わせながらも友情が芽生えていく過程をしっかり描いているため、ラストシーンの感動に繋がっている。チョ大尉の子供の性別を最後まで教えないのは、「生きて帰って自分で確かめろ」というリ・ジュンピョンからのメッセージであり、この場面では思わず胸が熱くなった。この映画では、”夫婦愛”だけでなく”親子愛”や”男同志の友情”といった泣ける要素の全てが詰まっており、ややあざとさを感じる位に脚本とセリフが上手い。「俺は良い父親ではなかった。お前は戻って父親になれ」など今まで何度も観てきたようなシーンなのに、最後はやはり泣かされてしまうのだ。


映画としては「白頭山(ペクトゥサン)」の大噴火を核爆発によってくい止めるという、リアリティの欠片もないストーリーだし、お話全体の”斬新さや目新しさ”という意味では既視感が強い作品だとは思う。ただ役者の魅力や画面のクオリティ、セリフや脚本・演出力のバランスがとても良く、エンターテイメント映画として観やすく満足感の高い一本だろう。ラストシーンの幸福感も含めて、今の暗い世相だからこそ観る価値のある作品だとも感じる。これだけのクオリティの作品を作れる韓国映画界のレベルの高さは、いつも思うが凄まじい。ポン・ジュノ監督が「パラサイト 半地下の家族」で2020年のアカデミー作品賞を獲ったことでも顕著だが、世界規模で勝負できる映画をこれだけ量産できる体制が整っているのは、やはりすごい事だと思う。日本では公開規模がやや小さいが、スルーするにはもったいない作品だ。

 

 

7.0点(10点満点)