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映画「シャン・チー/テン・リングスの伝説」ネタバレ感想&解説 カンフー映画とドラゴンボールが好きなら必見のMCU最新作!

「シャン・チー/テン・リングスの伝説」を観た。

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マーベル・シネマティック・ユニバースMCU)を展開するマーベル・スタジオの最新作で、初めてアジア系主人公をタイトルロールにしたアクション大作。主人公のシャン・チー役には中国系カナダ俳優のシム・リウが抜てきされているが、その脇にはトニー・レオン、オークワフィナ、ミシェル・ヨーらの実力派俳優が固めている。監督はマイケル・B・ジョーダンが主演した前作「黒い司法 0%からの奇跡」が見事な完成度だった、デスティン・ダニエル・クレットン。本作のような超大作に対して、この意外な人選もマーベル・スタジオらしいと言えるかもしれない。今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:デスティン・ダニエル・クレットン
出演:シム・リウ、トニー・レオン、オークワフィナ、ミシェル・ヨー
日本公開:2021年

 

あらすじ

犯罪組織を率いる父に幼いころから厳しく鍛えられ、最強の存在に仕立て上げられたシャン・チー。しかし心根の優しい彼は自ら戦うことを禁じ、父の後継者となる運命から逃げ出した。過去と決別し、サンフランシスコで平凡なホテルマンとして暮らしていたシャン・チーだったが、伝説の腕輪を操って世界を脅かそうとする父の陰謀に巻き込まれたことから、封印していた力を解き放ち戦いに身を投じる。

 

感想&解説

正直、個人的にはMCUへの熱は「アベンジャーズ/エンドゲーム」以降、かなり醒めてしまっている。もちろん「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」は素晴らしい作品だったが、「ブラック・ウィドウ」は”不もなく可もなく”といった感じで、以前のようにMCU作品の公開日を楽しみに待つというテンションではなくなっているのだ。ただ、本作「シャン・チー/テン・リングスの伝説」に関しては予告編を観たときから、何故か妙に気になっていた。それはマーベル作品でありながらも、スクリーンから「古き良きカンフー映画」の雰囲気を感じたからかもしれない。これは主人公を演じるシム・リウの存在が大きい気がする。失礼ながらいわゆる「整ったルックス」とはかけ離れた、良い意味でいかにもアジア人といった顔立ちが、往年の香港映画を思い出させるのである。一部のファンの間では彼の起用は不評だったらしいが、主演がシム・リウだからこそ良かった点もかなりあると感じる。

また前半のオークワフィナとの共演シーンも最高だ。オールナイトのカラオケ友情シーンからバスの中でのカンフーアクションシーンまで、矢継ぎ早に目が離せないシーンが続き、映画のテンポがとても良い。オークワフィナがバスを運転しながら、主人公とコンビネーションで難関をくぐり抜けるところなど、さながらヤン・デ・ボン監督の「スピード」のようだ。またバスの中の格闘シーンは、本格カンフー映画のようなシーンになっているのも嬉しい。またトニー・レオンが出演していることもあり、あきらかにチャン・イーモウ監督「英雄(HERO)」オマージュである「空から大量の弓矢シーン」や、まるでジャッキー・チェン作品のような高所での細い足場(しかも竹!)を駆使したアクションシーン、カンフー映画には定番の”修行シーン”などももちろんあり、過去のアジアンムービーからの影響を随所に感じさせる作品なのである。

 

もうひとつ大きな影響を感じる作品は「ドラゴンボール」だと思う。特にトニー・レオンが”テン・リングス”という10個の輪っかを使って相手を攻撃するシーンや、こちらはセリフでも表現されているが、終盤のリングを集めて放出するシーンなどは「かめはめ波」そのもので、なんとも微笑ましい。監督のデスティン・ダニエル・クレットンは78年生まれの42歳らしいので、世代としては「ドラゴンボールZ」世代ドンピシャだと思うが、日本のアニメーションがハリウッドの超大作にこれだけの影響を与えているのは、日本人としては誇らしい気持ちになる。しかも終盤には特撮ではないものの、中国の神話をモチーフにした「巨大怪獣」も登場するし、「ロード・オブ・ザ・リング」のような架空の生物も登場する「ファンタジー映画」の側面もあり、娯楽大作として”全部盛り”で楽しませてくれるのである。

 

ストーリーにしても、「親子の確執」と「亡くした妻への妄念」をベースにした割と古典的な物語に、最強の使い手になるために父に育て上げられた主人公というカンフー映画の要素を足して、さらに「魔物」や「伝説の村」といったファンタジー要素を追加した、およそマーベル映画らしからぬ内容だと言えるだろう。そういう意味で今作は正直、あまり過度に過去の「マーベル映画」を意識しなくても良い作品だと思う。もちろん、そもそも「テン・リングス」自体がMCU1作目である「アイアンマン」から登場していた組織の名前だし、「ドクター・ストレンジ」で登場するウォンは本作においてかなりの頻度で登場する。MCUお約束のエンドクレジットシーンでも妹のシャーリンが、再度「テン・リングス」を再建するシーンが描かれていたため、今後のMCUシリーズでも絡んでくるのだろう。またキャプテンマーベルやブルースの登場もある。だが、過去MCU作品をまったく観ていないという方でも、この「シャン・チー」という作品単体で十分楽しめる映画になっていると思う。本作はそこが素晴らしい。

 

ルル・ワン監督の傑作「フェアウェル」でも印象的な演技を見せていた、女優オークワフィナの見事なコミックリリーフぶりや、ウォン・カーウァイ監督の「花様年華」「ブエノスアイレス」などの作品に出演していた頃とほとんど変化のないトニー・レオンの雄姿、ジョン・M・チュウ監督の「クレイジー・リッチ!」でも敵対する母親役を憎々しげに演じていたミシェル・ヨーの衰えない”現役感”など、アジア勢の役者が全員しっかりと魅力的なのも本作の特徴だ。特にトニー・レオンは、「モンスター・ハント 王の末裔」など最近パッとしない作品が続いていた為、2013年の「グランド・マスター」ぶりに映画館の大スクリーンで観られて感動した。現在59歳らしいがカンフーの型も美しいし、今でもスターとしての華があり驚異的なカッコ良さだと改めて感じる。

 

最後に本作は使われている音楽もかなり良い。リッチ・ブライアンやNIKI、アンダーソン・パークやスウェイ・リーといったミュージシャンが提供した楽曲は、現代的なR&BからHipHopソウルミュージックを主体としており耳に残る。このあたりの音楽の完成度はMCU「ブラック・パンサー」直系なのかもしれない。本作のサントラにはインスパイアソングの提供で、日本から星野源も参加しているらしいが、このサントラ盤は必聴だ。ちなみにエンドクレジットでのイーグルスホテル・カリフォルニア」の最高の使い方など、全体的に音楽の使い方と編集にセンスを感じるし、楽曲群のクオリティがこの作品全体の魅力を引き上げるのにかなり貢献していると思う。

 

MCU作品全体から観ても、かなり上位に入るくらい好きな作品になった本作。正直、終盤の「モンスター映画展開」よりも、カンフーアクションがもっと観たかったというのもあったが、それでも上映時間の132分があっという間だった。なにより主人公のシャン・チーとオークワフィナ演じるケイティのコンビが、とても気に入ってしまった。こういうアジア人俳優が活躍するヒーロー作品がもっと増えてほしいし、確実にMCUに新しい風を吹き込んでくれた快作だろう。なによりカンフー映画ファンとしては嬉しい場面が多く、久しぶりにトニー・レオンがスクリーンで観れたのも大きい。前作「黒い司法 0%からの奇跡」に続いて、実力を証明したデスティン・ダニエル・クレットン監督。主演のシム・リウと共に次のステップが楽しみだ。

7.5点(10点満点)