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映画「スパイラル:ソウ オールリセット」ネタバレ感想&解説 脚本と演出が残念!「殺人ゲーム」以外は凡庸なスリラー作品!

「スパイラル:ソウ オールリセット」を観た。

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ジェームズ・ワンリー・ワネルというスタークリエイターを生み出した2004年の第1作以降、これまでに8作品の続編が製作された人気ホラースリラーシリーズ「ソウ」。前作にあたる「ジグソウ:ソウ・レガシー」から4年ぶりの完全新作が、本作「スパイラル:ソウ オールリセット」だ。監督は「2」から「5」までシリーズ3作品でメガホンをとったダーレン・リン・バウズマンジェームズ・ワンリー・ワネルは”製作総指揮”に名を連ねている。主演は「ベティ・サイズモア」「ドグマ」のクリス・ロック。共演は「アレクサンドリア」のマックス・ミンゲラや、あのサミュエル・L・ジャクソンが脇を固めている。過去のシリーズを完全に一新し、文字通り”リセット”した「ソウ」シリーズ新作はどうだったか?今回もネタバレありで感想を書きたい。

 

監督:ダーレン・リン・バウズマン

出演:クリス・ロックサミュエル・L・ジャクソンマックス・ミンゲラ

日本公開:2021年

 

あらすじ

地下鉄の線路上で舌を固定され、宙吊りになった男。猛スピードに迫った電車により、男の体は四散する。それが、猟奇犯が警察官をターゲットに仕掛けたゲームのはじまりだった。捜査にあたるジークと相棒のウィリアムを挑発する不気味な渦巻模様と青い箱。やがて、伝説的刑事で、ジークの父であるマーカスまでもが姿を消し、ジークは追い詰められていく。

 

パンフレット

価格880円、表1表4込みで全28p構成。

正方形型オールカラー+2C。ダーレン・リン・バウズマン監督やクリス・ロックのインタビュー、映画評論家の松崎健夫氏によるシリーズ紹介とコラム、尾崎一男氏の解説やプロダクションノートなどが掲載されている。

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感想&解説

「ソウ」シリーズは「5」以降、実は観ていない。監督ジェームズ・ワンと脚本リー・ワネルのコンビが誕生した、2004年の「ソウ」一作目は映画館で観てからファンになり、続く本作の監督であるダーレン・リン・バウズマンが監督/脚本を手掛けた「2」くらいまでは楽しく観たのだが、「3」以降はどんどんと残酷描写だけがウリの退屈な作品になってしまい、ついに「5」でさじを投げてしまったのだ。一作目の「ソウ」は、”ソリッド・シチュエーション・スリラー”という言葉が使われだした”はしり”の映画で、「鎖で繋がれた二人の男」&「閉じ込められた浴室」というワン・シチュエーションの面白さと、”犯人当て”という謎解き要素が絡み合った名作だった。ラストの”ドンデン返し”も意外性があって、興奮しながら劇場を後にしたのを覚えている。むしろ、ラストのノコギリで足首を切るという残酷描写は「おまけ」要素だったのに、シリーズが進むごとにそこだけがフォーカスされた凡作になってしまった気がする。そういう訳で、2017年に公開された「ジグソウ:ソウ・レガシー」も作品評価を見たうえでスルーしてしまったのだが、今作はタイトルも「スパイラル:ソウ オールリセット」という過去シリーズの全てをリセットした新作らしいという事で、「それならば」と劇場に出かけたのである。

結果、確かに劇中では「ジグソウ」という殺人鬼がいたという事くらいは語られるが、過去作のキャラクターに関する知識などは一切必要のない「完全新作」になっていた。そういう意味では、ソウシリーズの「一見さん」もまったく問題がないだろう。ただ逆を言えば、シリーズファンの期待に応えられている作品かといえば厳しいかもしれない。個人的には、想像通り「一作目」の面白さには遠く及ばなかったし、サスペンス作品としても「普通」「及第点」という感じだ。ただ上映時間が93分と短いので展開はスピーディーで、ここは間違いなく本作の良い点だろう。また本作を観ていると、95年のデヴィッド・フィンチャー監督「セブン」がいかに以降の作品に影響を与えたのか、をありありと感じる。画面のトーンからセットや照明、衣装といった映画のルックス部分から、脚本の「犯人から”箱”が届く」という展開まで強い影響を感じるのだ。だがそれがまったく不快ではなかったのは、そのレベルまではしっかり映像のクオリティが担保されていたからだろう。


まず良かった点としては、「ソウ」シリーズらしい殺人ゲームの内容だ。特に冒頭、地下鉄の線路に縛られているので自分で「舌」を引き抜いて列車から逃げろという展開から、「ソウっぽい」と懐かしさを覚えた。ただ画面で起こっていることはもちろん残酷なのだが、良くも悪くも現実離れしすぎていて、それほど不快には感じない。しかも拷問シーンの尺自体はそれほど長くないので、飽きずに観ていられるのである。どうも「ソウ5」あたりの拷問シーンは、尺が長すぎて俳優の痛がる演技にストレスを感じてしまったのだが、本作はそこが割とマイルドになっている気がする。今回の「ゲーム」は全てがその短尺のバランスなうえに、「こんな事を良く考えつくな」と感心してしまうような仕掛けとアイデアが満載で、そこが「スパイラル」の大きな魅力になっていると思う。


特に後半の「砕けたガラスの破片を風で飛ばして処刑する」という方法などは、「自分だったらどうするだろうか?彼を助けるだろうか?」と考えさせられる絶妙なバランスになっていて上手い。ただここからネタバレになるが、さすがに女性警察署長の「ゲーム」だけは、あまりに現実性がなさすぎる。地下室とは言え、警察署の中にあの仕掛けを作って実行するのはいろいろと無理があるし、女性署長の背後で突然扉が閉まったりと、あれでは複数人の犯人がいるように見えてしまう。とはいえ、他の仕掛けについても単独犯での実施は相当に厳しいと思うので、もうそこを突っ込んでも仕方ないかもしれない。


そして本作でもっとも残念な点は、脚本と演出だ。正直、”真犯人”に関してはすぐに解ってしまうだろう。序盤でクリス・ロックから携帯電話を借りるシーンをわざわざ入れていることから、まず「この電話から何かするんだろうな」と思わせてしまうし、赤ちゃんの泣き声がしているシーンで「赤ちゃん本人」をあえて映さず、パソコンに向かって電話しているシーンでは、「このPCから泣き声を流しているのだろうな」と思わせてしまうし、わざとらしくタトゥーの入った皮膚を送りつけてくるシーンでは、一人だけ拉致されゲームの説明をされるシーンがないことから、「この皮膚は別人のもので、という事はヤツが真犯人なのだろうな」と確信させてしまうのだ。要するに、最後にネタバラシするための”伏線”が不自然すぎる為に、逆にネタバレしてしまっているのである。一応、サミュエル・L・ジャクソンを行方不明にしてミスリードしているつもりかもしれないが、そのミスリードもあからさま過ぎて、むしろその可能性を消す効果になっている。ラストの映画的にもっとも驚きたいポイントで驚かせてくれないのだ。そもそもこの連続殺人事件が始まるタイミングが、警察学校を首席で卒業した新人刑事と主人公が組み始めたタイミングというのも非常にわかりやすい。


ラストシーン。銃弾が一発しか入っていない銃を片手に、父親役のサミュエル・L・ジャクソンを拘束している器具を壊すか?目の前の犯人を撃つか?で葛藤するクリス・ロックを観ながら、彼がなにを葛藤しているのかも良く解らない。さっさと父親を助けて、真犯人の身柄を確保してしまえば良いのである。なにせ犯人は細身の若者で、しかも丸腰なのだ。そして、自分たちを追ってきているSWATにそのまま突き出してしまえば、父親が彼らに撃たれることもなかっただろう。結局、なんの活躍もしなかったサミュエル・L・ジャクソンは死に、クリス・ロックの目の前で真犯人が逃げ去るシーンで、アッサリとこの映画は終わる。続編に繋がっていく作りなのだが、正直今の状態では「2」を観たいと思わせるシナリオ的な要素はない。犯人の動機もベタなうえに明確だし、本作で残されている謎もない。逃げた犯人についても、彼のその後が知りたいと思うほど、魅力的なキャラクターでもないのである。この一作だけであれば「普通のスリラー映画」だが、「ソウ」の新シリーズとして続編が観たいほど面白かったか?と聞かれれば、残念ながら「否」である。


「ソウ」シリーズの本質は「ジグソウ」というイカれた存在が、「命の大切さ」を教えるため、フェアとアンフェアのギリギリの線で究極の選択を迫るという展開と、ジグソウの正体を探っていくという”どんでん返し”込みのサスペンス要素なのだと思う。だが本作については、その両方の要素が欠けた凡庸な映画だった。せめてサミュエル・L・ジャクソンがもう少し頑張ってくれれば、もう少し見所のある作品になったかもしれないが、これではただお約束の「マザファッカ」を言う為だけに、キャスティングされたように感じてしまう。やはり人気シリーズのリブート企画というのはよほど難しいのだろう。タイトルの「スパイラル」も、それほど深い意味がないのも期待外れだ。映像のクオリティや殺人ゲームのアイデア自体は良かっただけに、全体的に勿体ない作品であった。

5.5点(10点満点)