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映画「キャッシュトラック」ネタバレ考察&解説 古き良きアクションノワールの風格!ガイ・リッチー監督初のダーク&シリアスな犯罪映画!

「キャッシュトラック」を観た。

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ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」&「スナッチ」という、ガイ・リッチー監督の代表作でコンビを組んだジェイソン・ステイサムが、「リボルバー」以来16年ぶりに再びタッグを組んだクライムスリラー。2003年製作のフランス映画「ブルー・レクイエム」のリメイク作品だ。他の出演者は「スノーデン」のスコット・イーストウッド、「ファイト・クラブ」のホルト・マッキャラニー、「ボーダーライン」のジェフリー・ドノヴァン、「ブラック・ホーク・ダウン」のジョシュ・ハートネットら。そしてFBIエージェント役として、アンディ・ガルシアカメオ出演している。ガイ・リッチー監督の日本公開作としては、前作「ジェントルメン」から約半年しか時間が空いていないが、今作の出来はどうだったのか?今回もネタバレありで、感想を書いていきたい。

 

監督:ガイ・リッチー

出演:ジェイソン・ステイサムホルト・マッキャラニースコット・イーストウッドジョシュ・ハートネット

日本公開:2021年

 

あらすじ

ロスにある現金輸送専門の警備会社フォルティコ・セキュリティ社では、特殊な訓練を受け、厳しい試験をくぐり抜けた警備員たちが現金輸送車(キャッシュトラック)を運転していた。そこに新人のパトリック・ヒル、通称“H”が警備員として採用される。採用試験の成績はギリギリ合格というレべルだったHだが、ある時、トラックを襲った強盗を驚くほど高い戦闘スキルで阻止し、周囲を驚かせる。そして彼の乗るトラックがふたたび強盗に襲われると、Hの顔を見た犯人たちはなぜか金も奪わずに逃げてしまう。周囲がHの正体に疑惑を抱く中、全米で最も現金が動くブラック・フライデーに1億8000万ドルの大金を狙う強奪計画が進行していた。

 

 

パンフレット

価格880円、表1表4込みで全36p構成。

横型オールカラー。ジェイソン・ステイサムガイ・リッチー監督のインタビューの他、映画評論家の大森さわこ氏、ギンティ小林氏、添野知生氏、門間雄介氏によるコラムやガイ・リッチー監督のフィルモグラフィー、プロダクションノートなどが掲載されている。

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感想&解説

ガイ・リッチー監督といえば、デビュー作の「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」、二作目の「スナッチ」で華々しく登場し、続く「スウェプト・アウェイ」「リボルバー」「ロックンローラ」で大きく停滞したが、続く2009年の「シャーロック・ホームズ」「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」というブロックバスターで大復活。その後も「コードネーム U.N.C.L.E.」というスパイアクションの佳作や「キング・アーサー」といった時代物アクションを経て、なんと2019年には「アラジン」というディズニー・アニメの名作を実写リメイクに抜擢され大ヒットに導いたという、波乱に富んだキャリアを築いている監督だと思う。そして2021年5月に、マシュー・マコノヒー主演で「ジェントルメン」というデビュー時に近い作風の良作を発表したばかりの中、日本では今年もう一本の新作である「キャッシュトラック」が公開されたという訳だ。

本作は、完全に今までのガイ・リッチー作品を構成していた、”ポップで軽くてお洒落”というキャッチーな特徴を抑えて、骨太のダーククライムスリラーになっているのは驚いた。いわゆる”復讐アクションモノ”の系譜に当てはまるのだろうが、これがかなりシリアスな作品で、マイケル・ウィナー監督の1974年「狼よさらば」や、ジェームズ・ワン監督の2007年「狼の死刑宣告」、チャド・スタエルスキ監督の2014年「ジョン・ウィック」あたりを思い出す作風だ。これが個人的にはかなり好みで、もしかするとガイ・リッチー監督作品ではもっとも好きな映画になったかもしれない。とことん悪役が極悪に描かれ、しかも登場人物のほとんどに救いがなく絶望的な展開が待っていたりと、主人公が単純なヒーローではないという意味でも、70年代のリベンジアクションやノワール作品からの影響が強いと感じる


パンフレットにもギンティ小林氏が寄稿しているが、本作は2004年フランス産のバイオレンス・ノワール映画「ブルー・レクイエム」という映画のリメイクらしく、オリジナル作品は現金輸送会社にある男が就職してくるという流れこそ同じだが、主人公の設定は元銀行員とのことで、本作「キャッシュトラック」とはそこがまるで違うらしい。ただ息子の命を奪われた事への復讐が行動の動機という部分は同じようなので、この主人公設定の違いが、本作で最もガイ・リッチーが描きたかった部分なのかもしれない。なにより「キャッシュトラック」の主演は、あのジェイソン・ステイサムなのだ。ただの銀行員には全く見えない。この変更により、主人公”H”は犯罪シンジゲートのボスという設定になり、彼の息子が犯罪に巻き込まれたばかりに、「怒らせてはいけない男を怒らせる」という「ジョン・ウィック」的な展開になっていくのである。

 

 


映画の冒頭では、ある現金輸送車が強盗に襲われる様子を車内の固定カメラだけで観せられることで、犯人らが交わすセリフから民間人や輸送車のセキュリティが殺されたらしい事は分かるが、強盗たちの犯罪がどうなっているのか?の全貌は全くわからない。しかも次のシーンでは、ジェイソン・ステイサム演じる無骨な男が、この現金輸送車のセキュリティ会社の面接を受けているシーンになるため、さっきの強盗シーンはただの前振りであり、これからがこの映画の本番になるのかと思いきや、この冒頭の強盗シーンが非常に重要な意味を持っていたことが、段々と明かされていく構成になっている。本作は大きく4部構成になっており、それぞれが第一部「悪霊」、第二部「しらみつぶし」、第三部「野獣ども」、第四部「肝臓、肺、脾臓、心臓」と名前が付いているが、これは各チャプターでキャラクターたちが口にするセリフから取られており、新しい手法ではないがセンスがいい。


本作の中では、この冒頭の強盗シーンをまずは視界が限定された車内カメラだけで描きつつ、次に巻き込まれたジェイソン・ステイサム演じる主人公と息子の視点から、最後に実際の犯行を計画した犯人側の視点の3方向から描くことで、物語の全貌が理解できる構造になっている。さらに、この主人公の男が本当はどういう人間なのか?なぜ本来は犯罪シンジゲートのボスなのに、現金輸送のセキュリティ会社で働いているのか?などが平行して語られるのだが、このあたりの編集を含めたストーリーテリングの巧みさも、本作の魅力だと思う。また本作の敵役はアフガニスタン帰りの軍人で、家庭を持ちながらも日常の生活に飽きており、スリルと金を求めて犯罪に走っているという設定が意外とフレッシュで良い。特にリーダー格のジェフリー・ドノヴァン演じるジャクソン軍曹は、娘から誕生日ケーキをプレゼントされるような幸せな毎日を享受しながらも、圧倒的な頭脳と統率力で強盗を行っているという面白いキャラクターだった。


ここからネタバレになるが、さらにクリント・イーストウッドの息子であるスコット・イーストウッドが演じる、ジャンというキャラクターの非道ぶりや、ホルト・マッキャラニー演じるブレットの見事なヒールっぷりは特に印象深い。スクリーンで久しぶりに観たジョシュ・ハートネットが演じるキャラクターのヘタレっぷりも楽しく、せっかく勇気を振り絞ったのにあっけなく殺される展開も含めて、なんとも救いがない。普通の映画なら生き残りそうなキャラクターも本作ではまったく無慈悲に死んでいくのだ。金の為に躊躇なく命を奪う、魅力的な悪役が活躍する犯罪映画は観ていて楽しい。またなぜかほとんど宣伝されていないし、パンフレットにも名前すら出ていないのだが、重要なFBIエージェント役として「アンタッチャブル」のアンディ・ガルシアが出演しているのも、映画ファンとしては嬉しかった。


最後に音楽だが、今までのガイ・リッチー作品といえば「スナッチ」におけるオアシスの「Fuckin' in the Bushes」や、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」における、ザ・ストーン・ローゼズ「Fool's Gold」、オーシャン・カラー・シーン「Hundred Mile High City」などのUKロック、また「コードネーム U.N.C.L.E.」における、ロバータ・フラック「Compared To What」やニーナ・シモンの「Take Care Of Business」といった60年代ジャズサウンドなど、どちらかといえばモダンで洗練された楽曲のイメージだった。ところが本作ではなんと、アメリカのミュージシャンである"ジョニー・キャッシュ"の「フォルサム・プリズン・ブルース」という、カントリー楽曲が挿入歌として使用されている。しかもこれが、"チョップド&スクリュード"的なエコー深めのドープなREMIXで仕上げられており、とてもカッコいいのである。本作におけるBGMはどれも映画の雰囲気に合わせて、ダークで不穏な曲調に仕上げられており、今までのガイ・リッチー作品とは全く違うプロダクションになっていて、これはこれで魅力的だった。


予告編などの事前情報から過度な期待を持たずに鑑賞したのだが、結果的に大満足であった本作。もちろん前例のないような新しいストーリーでは全くないし、ジェイソン・ステイサムの派手なアクションシーンが見所という作品でもない。ただ映画としての編集と雰囲気が抜群に良く、最後の復讐シーンが終わったらスパッとLAの夜景で終わるラストカットも含めて、本当に”古き良きアクションノワール”の香りを残した作品として、かなり好きな一作だった。フランス映画の「ブルー・レクイエム」もこれを機会にぜひ観てみたいと思う。ガイ・リッチー監督の新作「Five Eyes」も22年公開予定、しかもまたジェイソン・ステイサム主演で制作されているらしいので、こちらも本当に楽しみだ。ガイ・リッチー、もしかすると今が一番脂の乗った黄金期かもしれない。

 

 

7.5点(10点満点)

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