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映画「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」ネタバレ考察&解説 クレイグ・ボンドの集大成!今後のシリーズにおける分岐点になり得る作品! 

「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」を観た。

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コロナ禍で公開が延期になっていた「007」シリーズの通算25作目。監督は「ジェーン・エア」の日系アメリカ人キャリー・ジョージ・フクナガ。ダニエル・クレイグが5回目のジェームズ・ボンドを演じており、今作が遂に彼の最後のボンド映画となる。共演は「007 スカイフォール」から続投のレア・セドゥーベン・ウィショーナオミ・ハリスレイフ・ファインズなど。さらに新キャストとして「ボヘミアン・ラプソディ」のラミ・マレックや、「ブレードランナー 2049」のアナ・デ・アルマス、「キャプテン・マーベル」のラシャーナ・リンチらが出演し、脇を固めている。上映時間はシリーズ最長の163分と長いが、さて内容はどうであったか?今回もネタバレありで、感想を書いていきたい。


監督:キャリー・ジョージ・フクナガ

出演:ダニエル・クレイグ、レア・セドゥ、ベン・ウィショー、アナ・デ・アルマス、ラミ・マレック

日本公開:2021年

 

あらすじ

諜報員の仕事から離れてリタイアしていたボンドとマドレーヌは、イタリア・マテーラにて平穏な生活を送っていたが、ボンドは過去と決別するため、かつて愛したヴェスパー・リンドの墓を訪れる。だが、そこにスペクターの紋章が描かれた一枚の紙を見つけると直後に墓が爆発し、スペクターの傭兵たちから襲われてしまう。居場所を知られたことでマドレーヌの裏切りを疑うボンド。なんとか追跡者たちを振り切るが、ボンドは彼女への疑いを拭いきれず、到着した駅でマドレーヌと決別する道を選ぶ。

 

 

感想&解説

これ以上ないくらい、”ダニエル・クレイグ版”のジェームズ・ボンドシリーズを完全に終わらせた作品だ。過去の「007」シリーズから考えてみても、本作はある意味で"歴史に残るボンド映画"になるのではないだろうか。まさにショーン・コネリーロジャー・ムーアが演じてきた、毎回違うボンドガールと一夜を共にしながら、軽妙洒脱に世界を股にかけた任務をこなすという、過去の”ジェームズ・ボンド像”とは完全に決別した映画になっている。また同時に「カジノ・ロワイヤル」から続く、クレイグ・ボンド集大成の作品にもなっているが、ともすると本作のラストの展開には従来のコアな”ボンドファン”ほど怒りを感じるかもしれない。それくらい今回は特に”型破り”の「007」になっていると思う。

ダニエル・クレイグ版ボンドは、2006年公開「カジノ・ロワイヤル」のエヴァ・グリーン演じるヴェスパー・リンドと熱烈な恋に落ちる展開をはじめ、「慰めの報酬」「スカイフォール」「スペクター」と諜報部員として世界平和を守りながらも、基本的には自身の恋人や過去の因縁にまつわる、ボンドの”身の回りの世界”を描いてきたシリーズだと思う。そして敵役であるシルヴァや犯罪組織スペクターのボスであるブロフェルドらが、ボンドとの因縁が原因で襲ってくることで、ジュディ・デンチ演じる「M」や最愛の人だったヴェスパー、ミスター・ホワイトなど周りのあらゆる人間が死んでいく。そういう意味で、一貫して”小さな世界”を描き続けたシリーズだと思うが、それが究極の形で描かれるのが本作「ノー・タイム・トゥ・ダイ」だろう。ここからネタバレになるが、今回はボンドが「自分の家族」の存在を知り、ほぼ彼女たちを守る動機だけで行動する作品だからだ。もちろん物語のカタチ上は、細菌兵器テロを阻止するという目的はあるが、それはあくまで妻と娘を守ることの延長線上にあるだけだ。


今までMI-6や恋人にも裏切られ命を狙われ続けたジェームズ・ボンドは、未来に希望が持てず疑心暗鬼で孤独な人生を過ごしている。本作の冒頭では、レア・セドゥ演じる恋人のマドレーヌに「後ろばかりを気にする」ことを指摘されるシーンがあるが、もうスパイをリタイアして余生を生きているはずなのに、彼には気が休まる時がない。だからこそヴェスパーの墓で爆発に巻き込まれ、スペクターに襲われた後では、もう恋人であるはずのマドレーヌですら信用ができなくなる。だがこの孤独な男が、遂に守るべき家族に出会ったことで”なりふり構わず”戦うという話のため、本作は今まで以上に「ボンドの個人的な戦い」に見える。凶悪な世界の敵と戦う諜報員という立ち位置ではなく、家族のために戦う「お父さん」の映画になっているのだ。娘の命のために土下座するボンドの姿など、(その後に銃を抜く為とはいえ)初めて見た。それにしても序盤にある「駅でマドレーヌと別れるシーン」で、彼女が別れ際にお腹をさする仕草をするのが気になったのだが、これも伏線だったとは芸が細かい。

 

 


そして今作の悪役であるラミ・マレック演じるサフィンというキャラクターも、細菌兵器で世界を殲滅しようとしているテロリストという設定なのだが、なぜ彼が「それを実行したいのか?」というそもそもの動機が描かれないので、サフィンは悪役として非常に魅力が薄い。家族をミスターホワイトに殺されたということしか、彼の背景は描かれないのだ。だが、これも本作で描きたいのは「ボンドの内面の変化」で、本作におけるサフィンはただの「悪役」という役割だけなので仕方ない。予告編で描かれていた「能面」を被った姿と、冒頭でのホラー的な演出でなんとか存在感をアピールしていたが、それ以降は終盤まで出番も少なくなり、ラストシーンでの倒され方などあまりに華がない。ぼそぼそと喋るだけであまりヒールとしての狂気も感じられず、ラミ・マレックという役者の良さもあまり活きていない残念な敵役だったと思う。


冒頭のイタリアのシーンで、「過去を燃やして未来へ進む」という儀式が描かれるのだが、本作を最後まで観た後だとこれは重要な伏線として感じられる。文字通り「自分」という過去を燃やして、彼は「娘」という未来を残したという訳だが、最後にボンドが死ぬという展開は過去シリーズではあり得なかっただろう。ただ、ダニエル・クレイグ版ボンドには愛着があったためこのラストは残念ではあるが、個人的にはこの展開には納得感がある。Amazonプライムで配信中の「ジェームズ・ボンドとして」というドキュメンタリーでも描かれていたが、ダニエル・クレイグが新ボンドに決定したときの世界的なバッシングは凄かった。「金髪で青い目のボンドなんて邪道だ」とメディアやファンから叩かれ、「彼はボンドに相応しくない」とまで言われたダニエル・クレイグの「青い目」自体が、本作では物語的に重要な意味を持つという展開が泣けるのだ。その「青い目」によってボンドはマチルドが自分の娘だと確信し、ボンドが死んだ後にも「青い目」は継承されるのである。だからこそ、ラストシーンにおいてマドレーヌはまるで「おとぎ話」の主人公のように、ボンドの名前をマチルドに語るのだが、命を賭けて愛する家族を守ったという、「新しいボンド像」の為に彼は死ぬ必要があったのだと思う。


あとは、若い黒人女性の「ノーミ」というキャラが、MI-6エージェントとしてボンドと一緒に戦ったり、アナ・デ・アルマス演じる「パロマ」という女性CIAキャラが今までの作品とは違い、まったくボンドとセクシャルな関係にならないなど、かなり現代的なバランスで作られた作品だったと思う。特にパロマは「訓練してまだ3か月」と語りながらも、屈托なく陽気な上に格闘も強く、ルックスも含めて非常に魅力的なキャラクターではあるのだが、実はストーリー上それほど意味がなく出番も少ない。だが、彼女の存在がボンドの「老兵感」「時代遅れ感」をいっそう際立たせていて、ボンドが頼んだカクテルをロマンチックなムードもなく「一気飲み」するシーンなどは、明らかに意図的な演出だろう。そういう意味で本作は、キャリー・ジョージ・フクナガ監督が今までの「ボンド映画」という定石を壊して、新たに「JAMES BOND WILL RETURN」するための礎を築いた作品だと思う。


さすがに163分という上映時間は長すぎるかと思ったが、正直あっというだった本作。もちろん過去最高傑作という訳ではないが、特に序盤のカーチェイスや終盤の長回しアクションは見応えがあるし、ボンド映画を映画館で観ているという充実感は十分に満喫できる。コロナ禍を経ての約6年ぶりの「007」新作としても、クレイグ・ボンドの最終作としても満足度の高い一作だった。ただ「007」シリーズとしてはポリコレに目配せし過ぎている感じもあり、やや"ボンド映画らしさ"が薄くなっているのは気にかかる。本作のおかげで次のボンド映画は、かなりハードルが上がるのではないだろうか。60年代から続くポップアイコンである、「ジェームズ・ボンド」の次回作は果たして何年後になるのか。気長に待ちたい。

 

 

7.0点(10点満点)

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