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映画「ゴーストランドの惨劇」ネタバレ感想&解説 意表を突いた展開だが、トラウマ描写には注意!新機軸ホラーサスペンス!

「ゴーストランドの惨劇」を観た。

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2009年日本公開「マーターズ」での過剰な残酷描写と、2012年「トールマン」のドンデン返しが強烈だった、フランスの鬼才パスカル・ロジェが6年ぶりに制作したサスペンスホラー。叔母の家に引っ越しをした母親と姉妹が、突然家に侵入してきた2人の犯罪者に襲われ、絶望的な惨劇に巻き込まれる様を描く。映画の構造上で”意外なドンデン返し”を用意している作風は、いかにもパスカル・ロジェ監督らしい。今回もネタバレありで、感想を書いていきたい。


監督:パスカル・ロジェ

出演:クリスタル・リード、エミリア・ジョーンズ、アナスタシア・フィリップス、テイラー・ヒックソン

日本公開:2019年

 

あらすじ

人里離れた叔母の家を相続し、そこへ移り住むことになったシングルマザーのポリーンと双子の娘。奔放で現代的な姉ベラとラブクラフトを崇拝する内向的な妹ベスは、双子でありながら正反対の性格だった。新居へ越してきた日の夜、2人の暴漢が家に押し入ってくる。母は娘たちを守るため必死に反撃し、姉妹の目の前で暴漢たちをメッタ刺しにしてしまう。事件から16年後、ベスは小説家として成功したが、ベラは精神を病んで現在もあの家で母と暮らしていた。久々に実家に帰って来たベスに対し、地下室に閉じこもるベラは衝撃の言葉をつぶやく。

 

感想&解説

パスカル・ロジェ監督の前作である2012年「トールマン」を観たときにも感じたが、この監督は「普通に良くできた脚本」などには興味がないのだろうと感じる。「どうやって人の記憶に作品を残せるか?」をいつも考えているようで、「トールマン」を鑑賞したときも予想外の展開に、「そう来るのか」と思わず唸ってしまった。いわゆる鑑賞者の「定石」を外してくるようなストーリーテリングで、冒頭から数々のミスリードを仕掛けてくるので油断が出来ない。また全作品を通して、いわゆる「上手い脚本」か?と言われると、ハリウッドの脚本チームが作るような針の穴を通すような”精巧な本”とはまた違い、脚本も担当しているパスカル・ロジェの作家性が全面に出た、やや”いびつな作品”が多いと思う。残酷描写や鬱展開も含めて、エンターテイメント性に溢れた万人受けするような映画では決してないのだ。

そして、そのパスカル・ロジェ監督の最新作であり集大成が、この「ゴーストランドの惨劇」だろう。今回、ブルーレイで購入し観始めたのだが、あまりに救いのない展開の数々に、思わず「一時停止」して休憩を入れたくらいだ。ただ、いわゆる「残酷描写」そのものがキツイということではなくもっと精神的に追い詰められる感じで、上映時間91分というタイトさの割には鑑賞後の疲労はえげつない。若い女性が直接的な暴力にさらされる作品なので強い不快感を覚えるし、主人公の姉妹に襲い掛かるのは理屈の通じない理不尽な相手なので、映画全体に張り付いている強烈な「絶望感」に気分が滅入ってくるのだ。ただ、人形と屋敷がテーマの舞台設定ということもあり、ホラー映画としての不気味さはしっかりと表現されているし、役者の演技も含めて画面全体のクオリティも高い。「ジャンプスケア」と呼ばれるいわゆる大きな音による「ビックリ演出」は多いが、それだけに頼っていない正統派の恐怖演出にも好感が持てる。


冒頭の展開としては、10代の双子の姉妹ヴェラとベスが母親と共に、叔母の住んでいた古い屋敷に引っ越す場面から始まる。姉のヴェラは社交的で今風の女子だが、対する妹のベラは小説家の「ハワード・フィリップス・ラヴクラフト」に憧れているような内気な文学少女で、自分でも小説を書いており姉からはいつも馬鹿にされている。だがその引っ越し日の夜、昼間に車ですれ違ったキャンディー販売のトラックが彼女たちの後をつけてきており、女性だけの3人家族はいきなり頭のおかしい巨漢の男と、背の高い女装した男たちに襲われる。彼らは近辺で凶悪な殺人を繰り返す犯罪者たちだった。ベスとヴェラは髪の毛を掴まれ地下室で拷問されそうになるが、母親が身を呈して男たちを殺すことにより、窮地を免れる。それから16年後、ベスは家を出て念願の小説家となり「ゴーストランドの惨劇」というホラー小説を大ヒットさせていた。家庭にも恵まれ幸せな人生を歩んでいたベスだったが、ある日いまだに実家にいる姉のヴェラから「戻ってきて」という叫びのような電話を受け取り、急遽母と姉の住む”あの屋敷”に戻ることになる。


そこには過去の事件のトラウマから精神を患い変わり果てたヴェラの姿と、彼女を看病する母親がいた。二人と再会し家に留まるべスだったが、この家では鏡に「HELP ME!!」と文字が書かれたり、人形が動いたりと不穏な出来事が頻発していた。そんなある夜、ヴェラが人形のような白化粧をされ、手錠で壁に繋がれているのを発見する。そのままその部屋の扉が閉まってしまうが、ヴェラはいきなり暴言を吐きながら暴れだし、なぜか見えない誰かに殴られたり指を折られたりする。救急車を呼ぶという母親は家の外に出てしまい、安静に寝かせたはずのヴェラも姿が見えなくなったところで、突然場面が変わりベスはいきなり傷だらけで目を覚ます。ここからネタバレだが、実はベスとヴェラは今でも男たちに監禁されており、「小説家として成功したベスの姿」は辛すぎる現実を逃避するための彼女の妄想だったのだ。16年前のあの日、母親が男たちを殺したと思っていたのは実は逆で、母はすでに殺されていたのである。


ここからは10代の「現実の世界」で、ベスとヴェラが男たちから逃げまどい、そして戦う姿が描かれていく。終盤の場面で、人形のようにいたぶられたベスが一瞬のスキをついてタイプライターで大男を殴り倒し、ヴェラを連れて逃げ出した後、ついに警官に保護されたシーンでの安堵感はかなりのものだ。ここまでの緊張感もあり「やっと助かった」と多くの観客が思いきや、直後に女装男にあっけなく銃殺される警察官たちを観て、まだこの地獄は続くのかと監督の悪意には(良い意味で)辟易とさせられる。このあたりの緩急の付け方は演出として上手い。そしてまた屋敷に連れ戻される姉妹だったが、あまりの絶望感からベスは再度「小説家として成功した空想の世界」に現実逃避する。豪華な祝賀会で、憧れのラヴクラフトに自らの作品「ゴーストランドの惨劇」を褒められ有頂天ながらも、やはり姉であるヴェラを救うために”現実”に戻ることを決意するベス。そして男たちと傷だらけになりながら戦い、遂には踏み込んだ他の警察官が男たちを銃殺することで、彼女たち姉妹の命は助かる。


本作は多くの伏線が張られているため、二回目の鑑賞が楽しいタイプの作品だと思う。特にベスが空想に浸っているシーンでの描写は、現実とリンクするような伏線が多い。なぜかベスの部屋にある骸骨のオブジェから始まり、16年後も使い続けている古いタイプライター、ピエロの恰好をして寝ている息子、再会した時に容姿のほとんど変わっていない母親、屋敷に散乱する人形たち、朝に鳴るアラーム時計、鏡に書かれた「HELP ME!!」と文字などは、すべて監禁場所から影響された人物や品物ばかりだ。空想の中の夫&息子や女性インタビュワーらは全て監禁場所にあった絵やポスターなどの人物だし、そもそも自宅にかかってきたヴェラからの「帰ってきて!私を置いていかないで!」の電話は、現実から逃げて妄想に入り込んでいるベスに対してのセリフだ。威嚇してくる黒い犬は、男たちの悪意の象徴なのかもしれない。こういった要素が映画の至るところに仕掛けられていて、二回目の鑑賞はそれらを発見する楽しみがある。「2度と観たくないけど、2度観たくなる」が本作のキャッチコピーだが、映画の魅力をよく言い表しているコピーだと思う。


本作を観て思い出したのは、ザック・スナイダー監督の2011年公開作「エンジェルウォーズ」だ。精神病棟に閉じ込められた少女が、辛い現実から逃避するために想像で作り出した世界で戦うというプロットは、本作と非常に近いだろう。また本作の主人公ベスは”作家志望”の少女だ。だからこそ彼女が大男と戦う武器は「タイプライター」で、これを彼の頭に叩きつけることで彼女は逃走する。そして、病院に運ばれる救急車の中で隊員から「君は強い。勇気もある。なにかスポーツしてるの?」と聞かれ、「いえ、私は書くのが好き」と答えるラストシーンなどは顕著で、彼女にとって”物語を書くこと”が生きていくために必要な行動なのだと描かれる。そしてこの後、ベスはこの恐ろしい体験から「ゴーストランドの惨劇」という作品を執筆して、妄想に描いていたような成功を現実でも掴むのだろう、そう思わせられる多重構造の映画にもなっているのが面白い。そして何よりこの「書くことが人生の原動力」というのは、この特異な映画作家であるパスカル・ロジェ監督自身の考えでもある気がするのだ。


基本的には暴力的な映画だし、残虐シーン自体は少ないがホラー映画としての恐怖演出も多々あり人を選ぶ作品ではあると思う。ただ脚本の面白さと演出の確かさは過去のパスカル・ロジェ作品と比べてもダントツだろうし、フランス人監督らしい美意識が貫かれた個性的な映画だ。またベスを演じたクリスタル・リードとエミリア・ジョーンズの美しさも、本作の完成度に大きく寄与していると思う。まだパスカル・ロジェの次回作のウワサは聞こえてこないが、スリラーとラブストーリーとメロドラマの要素がある渾身の脚本が書きあがっているらしいので、この映画化を気長に待ちたい。

7.0点(10点満点)

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マーターズ(2007)(字幕版)