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映画「アンテベラム」ネタバレ感想&解説 ドンデン返しのインパクトもあるが、むしろ編集と構成が上手い良作スリラー!

「アンテベラム」を観た。

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ゲット・アウト」「アス」のプロデューサーであるショーン・マッキトリックが製作し、ジェラルド・ブッシュ&クリストファー・レンツという本作が長編デビュー作の監督が手掛けたサスペンススリラー。主演は「ムーンライト」「ドリーム」のジャネール・モネイ、その他の出演者は「ウインド・リバー」エリック・ラング、リメイク版「ベン・ハー」のジャック・ヒューストン、「エンジェルウォーズ」のジェナ・マローンなど。黒人差別という重いテーマを扱った作品ながら、終盤に大きなトリックが用意されたサスペンスでもある。今回もネタバレありで、感想を書いていきたい。

 

監督:ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ
出演:ジャネール・モネイ、エリック・ラング、ジャック・ヒューストン、ジェナ・マローン
日本公開:2021年

 

あらすじ

人気作家でもあるヴェロニカは、博士号を持つ社会学者としての顔も持ち、やさしい夫と幼い娘と幸せな毎日を送っていた。しかし、ある日、ニューオーリンズでの講演会を成功させ、友人たちとのディナーを楽しんだ直後、彼女の輝かしい日常は、矛盾をはらんだ悪夢の世界へと反転する。一方、アメリカ南部の広大なプランテーションの綿花畑で過酷な重労働を強いられている女性エデンは、ある悲劇をきっかけに仲間とともに脱走計画を実行する。

 

パンフレット

価格880円、表1表4込みで全32p構成。
A4オールカラー。表1からと表4からだと逆さで読む構成になっており面白い。ジャネール・モネイやジェラルド・ブッシュ&クリストファー・レンツ監督のインタビュー、大学教授の坂下史子氏、映画ジャーナリストの猿渡由紀氏、小説家の平山夢明氏、映画評論家の大場正明氏によるレビュー、プロダクションノートなどが掲載されている。

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感想&解説

冒頭からウィリアム・フォークナーの「過去は決して死なない。過ぎ去りさえしないのだ。」という言葉に続き、「白い馬と黒い馬」が対象的に配置された画面の中央を、「黄色い洋服」を着た少女が駆けていくショットから、これは”人種差別”について語る作品だと作り手が雄弁に語ってくる。そこから約4分に亘る長回しで、南北戦争時におけるプランテーション(大規模農園)の内情をじっくりと描いていき、”黒人奴隷”が白人たちに迫害され理不尽に殺されていくまでの様子を描いた、このオープニングシークエンスは見事だ。ここからジャネール・モネイが演じるエデンという黒人女性が白人領主に焼き印を押され、言葉を口にすることすら禁じられた環境の中で、暴力と性的搾取という屈辱の中で生きていることが描かれていく。スティーブ・マックイーン監督の「それでも夜は明ける」などでも描かれたが、観ているのが辛くなってくるほどの描写だ。そして、この”過去”がどのように進行していくのかと思いスクリーンを観ていると、急に舞台が現代に変わる。

同じジャネール・モネイ演じる黒人女性ヴェロニカは、博士号を持つリベラルな社会学者でありベストセラー作家だ。優しい夫と娘を持ち、黒人女性たちを鼓舞するようなスピーチをしている彼女は社会的に成功している。だがそんな環境の彼女でさえ、”黒人女性”というだけでホテルのフロントでは順番を後回しにされ、レストランでは狭い席に通され、ウエイターからは安いワインを勧められる。それらのひとつひとつは小さな事かもしれないが、この現代でも黒人差別は歴然とあるのだと訴えかけてくる。そして観客の興味は、この冒頭で描かれたプランテーションで奴隷として生活しているジャネール・モネイと、現代社会の中で暮らすジャネール・モネイがどのようにリンクしてくるのか?という点となるのだが、正直まったく予想していなかった「ある瞬間」に起こる、この2つの場面がリンクする驚きだけでも、本作は見る価値があると思う。本作はまったく事前情報がないままで鑑賞した方が楽しい作品なので、観る予定のある方はご注意を。

 

ここからネタバレになるが、この映画のオチに近いのはM・ナイト・シャマラン監督の2004年日本公開作「ヴィレッジ」だろう。もちろん「ヴィレッジ」自体も、ロジャー・コーマン監督「恐怖の獣人」などに影響された作品なのだろうが、本作「アンテベラム」もその流れにある映画だと思う。実は南北戦争時におけるプランテーションだと思っていたのは、「現代」の隔離された施設だったという展開で、エデンの横で寝ていたエリック・ラング演じる白人領主がいきなり鳴ったスマートフォンに出るシーンでは、すぐには頭の整理が追いつかなかったほどだ。ただ「ヴィレッジ」とは違い本作が優れているのは、このオチ自体のインパクトよりも編集と構成の上手さだ。冒頭のロングショットから始まる南部の奴隷虐待のシーンで、観客に「これは過去の場面である」という刷り込みをしっかりとしておいてから、次に「現代」の場面で、ジャネール・モネイが幸せな生活を送っているシーンからレストランで誘拐される流れを一気に見せ、再度それらを「スマホ」というアイテムで改めて繋げることで、実は時系列を反転してみせていたという演出は非常に”映画的”でスリリングだ。このミスリードの巧みさがこの作品の肝なのである。

 

また過去の黒人奴隷映画であまりなかった設定である、「奴隷同士の会話を禁じている」というのも、実は伏線として非常に有効だ。プランテーションにいる奴隷は全員”現代に生きている”黒人なので、お互いの会話が成立してしまうと「警察」や「救助」といったキーワードが当然口に出てしまう。それらを映画として自然に回避するための設定なのだろうが、これがまったく不自然ではなく演出されていたのも上手い。もちろん、あれだけの人数の黒人を誘拐してきて、白人至上主義の上院議員の行動がまったくおおやけにならないというのは、このネット社会ではやや苦しいだろうが、これでも寓話として納得できる範囲の設定だと感じた。どうしても比較してしまうが、「ヴィレッジ」では1897年のアメリカが舞台だとされており、小さな村に暮らす住人が森に住むという「怪物」を恐れ、境界線を守って村から出ないように暮らしていたが、実は2000年代が舞台であり、ここは年長者たちが争いのない理想郷を作ろうと計画した集落で、怪物は嘘だったというオチだった。この設定だと「村人が騙されていた」ということなので、「上空を飛行機が飛んだら?」「ふと旅行者が立ち寄ったら?」など設定に無理を感じてしまうが、本作はあくまで騙されていたのは観客の方なので、都合が悪い部分は描かれなかったと考えればフェアなのである。(実際にラストで飛行機が飛んでいるシーンも描かれていた)

 

クエンティン・タランティーノ監督「ジャンゴ 繋がれざる者」ばりに、しっかりと白人至上主義の悪役には、火あぶりと首にロープという黒人奴隷がやられていた方法で鉄槌が下り、さらに「黒人奴隷解放」を巡る争いであった「南北戦争」の戦場を、黒人女性であるジャネール・モネイが斧を片手に颯爽と馬で走り抜けるラストシーンは、観客の溜飲が下がる場面になっている。だがエリック・ラング演じる白人領主が死に際に残す、「見えないだけで、私を同じ考えの人間はたくさんいる」というセリフは、冒頭のウィリアム・フォークナー「過去は決して死なない。過ぎ去りさえしないのだ。」という言葉と呼応しており、激しくこちらの思考を促してくる。それは本作が優れたエンターテイメント作品だからだろう。

 

本作はいわゆる「ホラー映画」とは違う気がする。恐怖演出や残虐描写は少ないし、「ジャンプスケア」と呼ばれる音と映像によるビックリ演出もほとんどもない。ただ白人たちによるおぞましい黒人差別と迫害行為の数々は、頭にこびりつく。そういう意味では、ジャスパー司令官を演じたジャック・ヒューストンやエリック・ラング、ジェナ・マローンは素晴らしい演技を見せていたと思う。また周囲の過度なマチズモに支配され、本当の資質とは違うのにジュリアに暴力を振ってしまう男を演じた俳優の演技も心に残った。長編デビュー作から、こんなメッセージ性の強い良作を撮ってしまったジェラルド・ブッシュ&クリストファー・レンツ監督。オスカー受賞作である「風と共に去りぬ」を、黒人奴隷が幸せに農園で過ごしていたかのように描いたという意味で、「あの作品はホラー映画」だと言い切ったらしいが、この気骨から生み出される次回作が今から楽しみだ。

7.5点(10点満点)

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