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映画「パーフェクト・ケア」ネタバレ感想&解説 観客の感情をコントロールしてくる巧みな脚本!これぞ傑作!

「パーフェクト・ケア」を観た。

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ゴーン・ガール」のエイミー役で世界中を驚かせたロザムンド・パイクが主演し、第78回ゴールデングローブ賞で「主演女優賞」を受賞したクライムサスペンス。監督は「アリス・クリードの失踪」「フィフス・ウェイブ」のJ・ブレイクソン。本作では製作/脚本も担当している。共演は「スリー・ビルボード」のピーター・ディンクレイジ、「ベイビー・ドライバー」のエイザ・ゴンザレス
「ブロードウェイと銃弾」のダイアン・ウィーストなど。残念ながら公開規模は小さいが、非常に上質なサスペンスだった本作。今回もネタバレありで、感想を書いていきたい。

 

監督:J・ブレイクソン
出演:ロザムンド・パイクピーター・ディンクレイジエイザ・ゴンザレスダイアン・ウィースト
日本公開:2021年

 

あらすじ

法定後見人のマーラの仕事は判断力の衰えた高齢者を守り、ケアすること。多くの顧客を抱え、裁判所からの信頼も厚いマーラだが、実は裏で医師や介護施設と結託して高齢者たちから資産を搾り取るという、悪徳後見人だった。パートナーのフランとともに順調にビジネスを進めるマーラだったが、新たに資産家の老女ジェニファーに狙いを定めたことから、彼女の歯車が狂い始める。身寄りのない孤独な老人だと思われたジェニファーの背後には、なぜかロシアンマフィアの存在があり、マーラは窮地に立たされていく。

 

感想&解説

脚本の上手さに惹き込まれた作品だった。常にこちらの想像の斜め上を行く展開が待っており、目が離せない。冒頭の伏線もラストでしっかり回収する構成の巧みさもあり、多くの方がエンドクレジットでは素直に「面白い映画だった」と高い満足感が得られる作品だと思う。監督・脚本はJ・ブレイクソンで、前作「フィフス・ウェイブ」はクロエ・グレース・モレッツ主演&トビー・マグワイアがプロデューサーという布陣のSF映画だったが、あまり印象のないピントのボケた作品だった記憶がある。ところが本作は、その汚名を見事に払拭するほどに見応えのあるサスペンスで、主演のロザムンド・パイクが演じる”強くて悪い女”が最高にハマっている。やはりこれは、2014年のデヴィッド・フィンチャー監督による大傑作「ゴーン・ガール」における”エイミー”を意識したキャスティングなのだろう。

本作でロザムンド・パイクが演じるマーラは「法廷後見人」という日本ではあまり馴染みのない職業なのだが、簡単に言えば医師の判断を元に裁判所からの指示で、判断力などが衰え一人暮らしが困難になった高齢者の権利を支援し、老人ホームなどに入居させてケアしたり資産を管理したりする仕事らしい。ところがこのマーラが医師や老人ホームのスタッフらと結託し、裕福な高齢者たちを次々と高級老人ホームに入れて、その費用を作るためだと資産を売り払い、そのお金を搾り取るという”悪徳後見人”だったという設定で、前半の展開はまるで「チーム犯罪もの」のような展開だ。「狩るか狩られるかの世界で自分は狩る方だ」と宣言するマーラは、一切の同情なしで老人を子から引き離してはホームに入れ、私腹を肥やしていることが描かれる。公私ともにパートナーであるフラン女史とのコンビネーションもバッチリで、多くの老人顧客の写真を壁に貼っては新しい獲物を狙うマーラは、ここまでの展開では完全に”悪者”だ。

 

しかもその搾取する対象が大金持ちの悪党でも腐敗した政治家でもなく、なんの罪もない老人たちということで、かなり居心地は悪いのだが、これからどういう展開になるのだろう?と興味津々で観ていると、マーラが資産家の老女ジェニファーに狙いを定め、彼女を老人ホームに入れたまでは良かったが、彼女の息子ローマンがどうやら裏社会の人間らしいという流れから、本作のストーリーは大きく飛躍しだす。しかもジェニファーの家にあった鍵で開いた「貸し金庫」からは高級ダイヤモンドが見つかり、ローマンが雇った弁護士からは「早くジェニファーを施設から出して、この件からは手を引け」とマーラは恐喝を受ける。ところが、それでもマーラはまったくひるまないのである。それどころか、最終的には老人ホームにいるジェニファーを精神病棟に送り込むように圧力をかけるという、徹底した悪人ぶりには笑わされた。この時点で作品の構造は「悪人VS悪人」となり、映画としてまた違った楽しさが生まれてくる。さらにこの老女ジェニファーもどうやら偽名であることがわかり、ローマンの手下であるマフィアが老人ホームにジェニファーを奪いにくるなど、さらに事態は混沌としてくる。

 

この時点でストーリーがどう転がっていくのか?はまったく解らなくなり、冒頭の”犯罪映画”から一級の”サスペンス映画”となっていく。ここからネタバレになるが、本作の白眉はマーラがついにローマンに捕まり、ダイヤモンドの隠し場所を聞かれるシーンだろう。拷問され圧倒的に不利な立場であるにも関わらず、命乞いせずにまだ金の交渉をするマーラの姿を見て、さすがのローマンも「肝の据わった女だ」と感心する場面なのだが、観客もまったく同じ感想を持つと思う。マーラの「金への執着」と「異常性」がはっきりと示される場面だからだ。そして、ここからは怒涛の展開だ。事故に見せかけて車ごと崖下の水中へ落とされたマーラは、命からがら脱出し、同じく殺されそうになったパートナーのフランと共に、ローマンへの復讐を誓う。そして自分を運んできた車のナンバープレートから運転手の住所を割り出し、そこから彼の後を付けることでまんまとローマンを拉致したマーラとフランは、彼を名実ともに”丸裸”にして病院送りにすることで自らが「法定後見人」となり、ローマンの運命を握ってしまうのである。

 

そして更にこの作品は、ここからツイストを用意しているのが驚きだ。ローマンはこの「法定後見人制度」を使った金儲けに出資するので、もっと大きな規模で悪事を実行しようとマーラを誘うのである。そして、もちろんマーラはこの誘いに乗って大金持ちになる。短期間で急成長した会社のCEOとしてテレビでも取材され、「完全なる捕食者」として君臨するのである。このシーンを観て個人的には、2013年公開リドリー・スコット監督の「悪の法則」で、キャメロン・ディアスが演じていた「マルキナ」を思い出した。2匹のチーターを飼っていたのが印象的で、常に男を喰いモノにしながら最後まで生き残る女性だったが、本作のマーラも同じ性質のキャラクターなのだ。この後、冒頭とは比べ物にならない人数の老人たちが、彼女の毒牙にかかったことを壁に貼られた写真の量によって表現する演出も上手いが、このシーンで観客は非常に複雑な気持ちになる。今までどんな時でも信念を突き通し、マフィアにすら屈せずに”自分の生き方”を推し進めたマーラを、終盤は完全に「応援モード」で鑑賞していたのだが、ここでまたふと我に帰らされるのである。また罪もない老人がこれだけ騙されたのだと。

 

そしてなんとこの後、最後のツイスト展開が起こる。”アンチヒロイン”のマーラに対して複雑な感情を抱いた直後、なんと彼女は詐欺被害者の家族によって銃殺されてしまうのだ。この犯人の男は序盤、マーラが裁判所で完膚なきまでに叩き潰した男であり、観客はここで「因果応報」を感じ、大いに溜飲を下げる。「やはり悪は繁栄しないのだ」と。こういった観客の感情をコントロールする演出が本作は傑出していて、本当に上手いのである。まるで監督の手のひらで転がされているような気持ちになるが、これだけ上手く転がされるのはある意味で快感だ。とにかく脚本の巧みさに乗っかりながら、スクリーンを観ていると2時間はあっという間に過ぎる。これぞ映画を観る喜びなのだろう。これだけ優れた映画なのに上映館は少ないし、パンフレットも作られていないのは悲しいが、どうやら劇場公開は3週間限定らしくデジタル配信が同時に始まっているようなので、できれば多くの人に観て欲しい傑作である。

 

どうやら現実でも、アメリカではこの「法定後見人」という制度を巡って、歌手のブリトニー・スピアーズが父親の後見人の資格解除を求めて裁判を起こしたらしい。その様子がドキュメンタリー映像化したりと話題になったらしいが、映画同様に裁判所と後見人には大きな決定権が不当に与えられているのが実情のようだ。父親はブリトニーを「認知症」だと主張しているらしいが、ブリトニー本人は後見人を選べなかったり、外部への電話や面会さえも許可が必要だったりと、本当に本作「パーフェクト・ケア」でも描かれているような事態が実際に行われているというのは驚きだ。日本でもこの制度は存在するため、これから一層高齢化が進んでいくと同じような犯罪が行われる可能性はゼロではないだろう。こういった社会的問題を、しっかりとしたエンターテイメント映画として楽しめるのは、優れたクリエイターのお陰だ。J・ブレイクソン監督は、今作で素晴らしい仕事を成し遂げたと思う。

8.0点(10点満点)


【劇場同時配信】パーフェクト・ケア(字幕版)