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映画「ウエスト・サイド・ストーリー(2022年)」ネタバレ考察&解説 現代アップデートはありつつも、古き良き古典!リメイクとしては完璧な作品!

「ウエスト・サイド・ストーリー(2022年)」を観た。    

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ロバート・ワイズ&ジェローム・ロビンズ監督の1961年公開の名作ミュージカル「ウエスト・サイド物語」を、スティーブン・スピルバーグ監督がリメイクした作品。主演は「ベイビー・ドライバー」のアンセル・エルゴート、またヒロインのマリアをレイチェル・ゼグラーが演じている。第79回ゴールデングローブ賞でも、「最優秀作品賞」「最優秀主演女優賞」「最優秀助演女優賞」「最優秀監督賞」にノミネートされ、アカデミー賞でも受賞も確実視されている作品だ。日本公開は2022年2月11日公開だが、今回は完成試写会にて鑑賞できたので、ネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:スティーブン・スピルバーグ

出演:アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、デビッド・アルバレス、ジョシュ・アンドレ

日本公開:2022年

 

あらすじ

ニューヨークのウエスト・サイドには、夢や自由を求めて世界中から多くの人々が集まっていた。しかし、差別や偏見による社会への不満を 抱えた若者たちは、やがて仲間と集団を作り激しく敵対し合っていく。ある日、“ジェッツ”と呼ばれるチームの元リーダーのトニーは、対立する“シャークス”のリーダーの妹マリアと出会い、瞬く間に恋に落ちる。この禁断の愛は、多くの人々の運命を変える悲劇の始まりだった。

 

 

感想&解説

スティーブン・スピルバーグ監督が手掛ける初のミュージカルであり、60年前に公開されて以来、傑作ミュージカルとして名高い「ウエスト・サイド物語」のリメイクという事で注目の高かった作品が、いよいよ日本公開になった。オリジナルは、「アメリカ映画ベスト100」などの企画では必ずランクインを果たし、62年のアカデミー賞では「作品賞」をはじめ、ノミネートされた11部門中10部門を受賞した傑作だ。ちなみにロバート・ワイズの監督作は「サウンド・オブ・ミュージック」も有名で、この後のアカデミー賞でも二度目の「監督賞」を受賞している。改めてブルーレイで観直してみても、冒頭のジェッツ団登場シーンから見事な編集と音楽で引き込まれるし、なにより役者陣の身体能力の高さによる、圧倒的なダンスシーンに魅了される作品だ。

まずこの2022年版「ウエスト・サイド・ストーリー」は、「ウエスト・サイド物語」のリメイクとして完璧な作品だと思う。スピルバーグ監督らしいダイナミックなカメラワークと編集スピード、それから衣装やセットの色合いまで統御されたダンスシーンは、現代風にアップグレードされていて、特に素晴らしい。各場面や登場人物の変更を加えながらも、ストーリーの骨格はほぼ踏襲しており、正統派のリメイクだと言えるだろう。ただ前作はニューヨークを舞台にしていながらも、やや浮世離れした”ファンタジック”な世界観だったのに対して、今作はもう少し”リアル路線”の演出になっている。冒頭、「ジェッツ」の団員であるベイビー・ジョンが、敵対する「シャークス」のメンバーに暴行されるシーンで、耳に釘が刺さって貫通するという場面がある。これは61年度版にはない描写で、いかにもスピルバーグらしい残酷演出なのだが、生々しい血の描写も相まって、前作とは違う手触りの作品だという作り手の宣言のように感じる。


他のシーンにも変更点は多い。トニーとマリアが初めて出会うシーンでも、61年度版ではいきなり場面が暗くなり、その場にいる全員で”鳥の求愛ダンス”を踊るという幻想的なシーンだったが、リメイク版では二人だけがステージ裏に移動し、ダンスするという変更がなされている。しかもマリアからキスし、それにトニーが驚くという展開はいかにも現代っぽい変更だ。さらに61年度版は、ポーランド系白人とプエルトリコ系人種の争いという構図を際立てるためか、アフリカンアメリカン、いわゆる黒人はまったく登場しないが、リメイク版では踊っているギャング団の前を黒人の団体が「横切って止める」というシーンが追加されており、61年当時よりも黒人の地位が上がったという、ポリティカル・コレクトネスを意識した場面だと感じた。他にもオリジナル版で名曲「アメリカ」を歌う場面は、ダンスパーティ直後の夜の屋上という限定された場所だったが、リメイク版は街中の住人たちと一緒に踊りながら、"夢の場所であるアメリカ"での生活を実際に見せるのと同時に、アニータの情熱的な衣装のカラーリングもマッチしていて、場面としてのダイナミックさが数倍にも増している。これは素晴らしい改変だった。

 

 


トニーとマリアが再会する夜の階段シーンでも、リメイク版では階段の途中で鍵のかかった扉があり、簡単にトニーはマリアの元にたどり着けない。扉の格子ごしに視線を交わしたトニーが階段を使わずに、自力でマリアにたどり着くシーンを入れたことにより、彼の強い愛情が表現されていると感じたし、そこで歌われる「トゥナイト」はさらに感動を増している。ジェット団のメンバーが自分たちの育った悪環境を、「社会的病気だ」とコミカルに歌いながら嘆くシーンも、連行された警察署内に変更されていたり、トニーが働く「ドクの店」の主人はバレンティーノというプエルトリカンの未亡人に変更され、トニーの母親代わりのような存在感に格上げされているのも特徴だろう。しかも演じるのは61年版でアニタ役を演じていたリタ・モレノソロで「サムウェア」を歌う場面もあり、女性キャラクターにかなりフォーカスした作りになっている。また同じく終盤にある、バレンティナの店でたむろしているジェッツのメンバーに、アニータがレイプされそうになるシーンも、ジェットガールズとバレンティナという立場を超えた「女性たち」一同が男たちに対抗するというシーンになっており、オリジナル版とはニュアンスが異なっている。このあたりの場面からも、本作の現代アップデートを強く感じるのである。


他にもオリジナル版のシュランク警部の粗暴ぶりがマイルドになったり、チノの外見が弱々しく変更されたりと、キャラクターに関する変更もある。また高速道路の高架下という”赤っぽい照明”による決闘場所が、リメイク版では工場という寒々しい”青い照明”のロケーションに変更されており、これもかなり印象が違う。ただ基本的には、オリジナル版の上映時間は冒頭5分の「オーバーチュア」や「インターミッション」を含めて約153分、今回のリメイクが157分という上映時間からも、大きく重要な場面自体が削られたり追加されたという、リメイク作品ではない。オリジナルの持つ”精神性”に極めて忠実な作品と言える。上空からの俯瞰から始まるオープニングショットなども含めて、スティーブン・スピルバーグのオリジナルへのリスペクトを、強く感じる作品になっているのだ。


ただオリジナルに忠実だからこそ、60年前の古典作品であることによる、若干の”古臭さ”は感じるかもしれない。そもそもシェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」のミュージカル版を目指して、ブロードウェイで舞台化された作品の為、悲劇的な恋愛の結末やギャング同士の抗争といった、いかにも”古典的なお話”という印象は強いだろう。旧作のファンや”往年の名作ミュージカル”に触れている映画ファンには、問題なく受け入れられるだろうが、まったく思い入れのない若い観客が「話題作」ということで鑑賞したときに、どのような感想を持つのか?はやや未知数ではある。またレナード・バーンスタインが手掛けた音楽もかなりアレンジが変えられており、その魅力は維持したまま強度が上がっているとはいえ、(当たり前だが)とてもクラシカルなメロディとリズムの楽曲群だ。同じプエルトリコからの移民を主人公にしたミュージカル作品で、リン=マニュエル・ミランダが手掛けた「イン・ザ・ハイツ」や、「グレイテスト・ショーマン」における「This is Me」などの、R&Bやヒップホップを基調としたリズム感や音像とはまるで違う。ここは年代によって好みが分かれるかもしれない。


また好みといえば、主演のアンセル・エルゴートについても賛否両論ありそうだ。どうしても歌唱力という意味で他のキャストに見劣りしてしまうし、オリジナルキャストのリチャード・ベイマーに比べて、顔立ちが「ボーっと」しており精悍さに欠ける。背の高さは良かったのだが、他のキャストがほぼ完璧だっただけに肝心要のトニー役としては、やや違和感を覚えた。ちなみにリフ役を演じていたマイク・ファイストは、ミュージカル版「ディア・エヴァン・ハンセン」で重要な役を演じていたらしいが、ナイフで刺された時の泣き笑いのような表情が印象深く、ダンスのスキルと共に素晴らしい演技だったと思う。またヒロインであるマリアを演じたレイチェル・ゼグラーも、印象的な顔立ちで素晴らしい歌声を聴かせていたが、実写版の「白雪姫」で主人公を演じることが決定しているらしい。きっと、これから躍進する女優だろう。


エンドクレジットの最後に「for DAD」という一文が表示され、スピルバーグから父親への個人的であろうメッセージが表示される。現在75歳なので、オリジナルが公開された時は15歳。家族旅行の際に父親から8ミリカメラを渡されたことが、映画監督になるきっかけだったらしいので、もしかすると父親と観た作品だったのかもしれない。監督本人が「キャリアの集大成」だと語る動画が公開されており、繰り返しになるが、スピルバーグからの作品への深い愛情を感じるリメイクであった。楽曲やダンスのクオリティ、カット割や編集テンポなどミュージカル映画としての完成度は素晴らしく、特に旧作のファンは絶対に満足できる一作だと思う。最新技術を駆使した”クラシックの名作”としても、スティーブン・スピルバーグの最新作としても、面白い立ち位置の映画だと言える。

 

 

8.0点(10点満点)

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