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映画「ただ悪より救いたまえ」ネタバレ感想&解説 韓国アクション映画として、かなりの高レベル作品!ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェの共演も見応えあり!

「ただ悪より救いたまえ」を観た。

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ナ・ホンジン監督の「チェイサー」「哀しき獣」で脚本を担当し、韓国産ノワールの傑作を送り出してきたホン・ウォンチャンが監督を務め、第92回アカデミー作品賞受賞作「パラサイト 半地下の家族」のホン・ギョンピョが撮影監督を担当した、バイオレンス・アクション。ホン・ウォンチャン監督にとっては、「オフィス 檻の中の群狼」に続く長編第二作目だ。出演は「哭声 コクソン」「アシュラ」の熱演で記憶に残るファン・ジョンミンと、「神と共に」のイ・ジョンジェ。2014年には、パク・フンジョン監督の「新しき世界」で二人は共演している。今回もネタバレありで、感想を書いていきたい。

 

監督:ホン・ウォンチャン
出演:ファン・ジョンミン、イ・ジョンジェパク・ジョンミン
日本公開:2021年

 

あらすじ

凄腕の暗殺者インナムは引退前の最後の仕事として、日本のヤクザ”コレエダ”を殺害する。コレエダの義兄弟だった冷酷な殺し屋レイは復讐のためインナムを追い、関わった者たちを次々と手にかけていく。一方、インナムの元恋人は彼と別れた後にひそかに娘を産みタイで暮らしていたが、娘が誘拐され元恋人も殺されてしまう。初めて娘の存在を知ったインナムは、彼女を救うためタイへ急行。そしてレイもまた、インナムを追ってタイへとやって来る。2人の戦いは、タイの犯罪組織や警察も巻き込んだ壮大な抗争へと発展していく。

 

感想&解説

韓国ノワールであり、バイオレンス・アクションであり、ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェの共演作というキーワードで興味を惹かれた方なら、観ておいて絶対に損は無い作品だと思う。とにかく本作はアクションシーンが素晴らしい。刃物、肉弾戦、銃撃戦と戦闘シーンのフルコースな上に、手榴弾を使った斬新な爆破シーンなど、今までに観た事のないような場面があるだけで、このジャンルの作品としては十分に価値が高い。韓国制作の映画だが、冒頭は豊原功補が登場する日本の場面から始まり、中盤からはタイのバンコクに舞台を移すためか、全体的に韓国映画特有のいつも雨が降っているような暗くてジメジメした雰囲気ではなく、画面からも暑さが伝わってきそうな明るめの画作りで、ここも今までの韓国ノワールとは一線を画す作品になっていると思う。

またレーティングは「PG12」なので、そこまで直接的な残酷描写はないが、こちらの想像を掻き立てるような演出が随所にあって上手い。イ・ジョンジェが演じる殺し屋のレイは、人を吊るし上げて腹を裂くという拷問を好む偏執症で狂暴なキャラクターだが、実際に彼が腹を裂く描写などはない。吊るされた男が恐怖に歪む顔を描写するだけで、カットが変わるのだ。このあたりはブライアン・デ・パルマ監督の「スカーフェイス」における”チェーンソーシーン”などを思い出させる。本作ではこのレイというキャラクターが最高で、最近だとNetflixドラマ「イカゲーム」で人気を博しているイ・ジョンジェが、完全に狂ったサイコパスを嬉々として演じているのだが、首回りのタトゥーにチンピラ風のファッション、ギラギラした目と獣のような振る舞いで、観客が一目見ただけで”ヤバイ男”だと感じさせる役作りに成功している。

 

おおよそのストーリーとしては以下だ。東京で”暗殺者”として暮らすインナムは、依頼により「コレエダ」というヤクザを殺したことを最後に引退を決意していた。かつてインナムは韓国の工作員だったが、政府により口封じのために命を狙われた為、愛する恋人と離れ国から逃れたという過去を持っていた。暗殺者としての報奨金でパナマに移住し余生を暮らすはずのインナムだったが、ある日タイのバンコクで暮らす恋人が何者かにより殺害され、しかもインナムと別れた後に生まれた娘が誘拐されたことを知り、行方を捜すためバンコクへと向かう。だが、インナムが殺したコレエダにはレイという弟がいた。レイは極悪非道な殺し屋であり、兄の復讐のためインナムに繋がる人物を探し出しては拷問し、彼がバンコクにいることを突き止める。そして暴力によってタイの裏組織をも味方につけたレイは、執拗にインナムを追いかけ続ける。

 

ここからネタバレになるが、本作はテーマとして誘拐した子供の臓器売買といった題材を取り上げており、その売買組織がタイ警察を買収しているという救いのない展開で、タイ政府はこの脚本に抗議しなかったのか?と疑問に思ってしまうほど、ダークな内容になっていく。インナムの娘は臓器売買のために誘拐され、彼女を追跡するインナムと兄の復讐のためにインナムを追うレイという構図になるのである。そして、とにかくこの主演の二人が動くたびに人がバンバン死んでいき、常に血が流れる。ファン・ジョンミンが演じるインナムも”暗殺者”という設定のため、主人公でありながらも娘の情報を聞き出すためには拷問もするし、躊躇なく人を殺す。このインナムとレイという二人の殺し屋の対決が、本作で最も魅力的なポイントなのである。殺し屋を引退して過去と決別しようとする男と、そうはさせまいと執拗に追いかけてくる狂人とのバトルは、古典的だがやはり面白い。レイが「なぜそこまで殺し合うんだ?」と問われた際に、「理由は忘れた」と答えるシーンにも彼の狂気が垣間見える。もう兄が殺された事など、彼にとってはどうでも良い事なのだ。中盤のトゥクトゥクに乗ったレイが、マシンガンを乱射しながら突っ込んでくる場面には、良い意味で思わず笑みがこぼれてしまった。

 

またもう一人、性転換手術を受けるためバンコクに滞在する、韓国人のユイというキャラクターが登場する。インナムの娘を一緒に探すという役割なのだが、彼女(?)がこのダークな物語に、適度なユーモアと息抜きを提供していてコメディリリーフとして活躍しているうえに、物語上も大きな役割を果たしており、しっかりキャラが立っているのも良い。またバンコクのホテル廊下での長回しのバトルシーンは、まるで「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」のような迫力だったし、後半の白眉だった市街地の爆発シーンや、カーチェイスも見せ方が工夫されていて、今まで何度も観てきたようなシチュエーションなのに斬新で楽しめる場面になっている。これはアクションコーディネートが抜群に上手いのだろう。基本的には俳優たち本人がすべてのスタントをこなしたという事で、その効果も画面に表れていると思う。

 

正直、ストーリーとしてはシンプル過ぎて捻りはない。父と娘の「親子愛」の要素を入れながら、極悪で最凶の殺し屋と戦うという展開から、ある程度オチも読めてしまう。正直言えば、リュック・ベッソン監督の「レオン」の結末から大きな進化はないのである。ただ、本作にはそのストーリーの弱さ以上に、魅力的なアクションシーンとファン・ジョンミン&イ・ジョンジェによるキャラクターの魅力によって、グイグイとスクリーンに惹き込まれる。上映時間108分の間で退屈する時間が無いのだ。「ジョン・ウィック」や「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のようなハリウッド超大作を観た後でもこれだけ感動でき、決して引けを取らないアクション映画が撮れるというだけで、やはり改めて韓国映画のレベルの高さを感じずにはいられない。この年の瀬に観に行こうか迷ったが、これは観ておいて良かった。特にアクション映画ファンには強くオススメである。

7.0点(10点満点)

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