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映画「キングスマン ファースト・エージェント」ネタバレ感想&解説 シリーズ中で最もメッセージ性に溢れた、傑作「ファースト・ジェネーション」と並ぶマシュー・ボーン監督の快作!

キングスマン ファースト・エージェント」を観た。

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2015年に日本では第一作目が公開され、全作を通して監督/脚本/製作のすべてを「キック・アス」のマシュー・ボーンが手掛ける、大人気スパイアクションシリーズ「キングスマン」。その前日譚(プリクエル)となる、シリーズ3作目「キングスマン ファースト・エージェント」が2021年のクリスマスに公開となったので、正月休みに鑑賞してきた。主演は「ハリー・ポッター」シリーズやダニエル・クレイヴ版「007」のM役などでお馴染みのレイフ・ファインズ。共演は「マレフィセント2」の新鋭ハリス・ディキンソン、「ブラッド・ダイヤモンドジャイモン・フンスー、「007 慰めの報酬」のボンドガールであるジェマ・アータートンなど。また本作内で強い存在感を残す怪僧ラスプーチンは、「アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅」などのリス・エバンスが演じている。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

監督:マシュー・ボーン
出演:レイフ・ファインズ、ハリス・ディキンソン、ジャイモン・フンスー、リス・エバンス
日本公開:2021年

 

あらすじ

第1次世界大戦を背景に、世界最強のスパイ組織「キングスマン」誕生の秘話を描く。表向きは高級紳士服テーラーだが実は世界最強のスパイ組織という「キングスマン」。国家に属さない秘密結社である彼らの最初の任務は、世界大戦を終わらせることだった。1914年、世界大戦を裏でひそかに操る闇の組織に対し、英国貴族のオックスフォード公と息子のコンラッドが立ち向かう。人類破滅へのカウントダウンが迫るなか、彼らは仲間たちとともに闇の組織を打倒し、戦争を止めるために奔走する。

 

パンフレット

価格880円、表1表4込みで全44p構成。

縦小型オールカラー。表1表4がマット仕様でクオリティが高い。マシュー・ボーン× ハリス・ディキンソンのインタビュー、マシュー・ボーンのインタビュー、映画評論家の宇野維正氏、映画ライターの竹之内円氏、牛津厚信氏などのレビューなどが掲載されていて、読み物として非常に充実している。

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感想&解説

キングスマン」シリーズが個人的に苦手だ。キングスマン」「キングスマン:ゴールデン・サークル」ともに映画館で観ているし、もちろん面白いと感じる部分もある。ただ作品全体に漂うあまりに不謹慎なブラックジョークに、だんだんと辟易としてくるのだ。もちろん「キングスマン」というシリーズの大きな魅力として、それらが評価されていることも理解しているのだが、一作目における名曲「威風堂々」を流しながらの「頭部爆破シーン」や、二作目の「人肉ミンチハンバーガー」に代表される場面が必要以上にポップで楽し気な雰囲気で演出されており、文字通り”悪趣味”さを感じてしまうのだ。もちろん映画は、真面目だから良いという訳ではないし、不謹慎さを通して作り手が訴えたいこともあると思うので一概に否定されるべきではないが、このシリーズにおけるマシュー・ボーン監督の表現にはどうにも居心地の悪さを感じていた。

そういう意味で本作もあまり期待せずに観に行ったのだが、結論、個人的にはシリーズ中でダントツに好きな作品になった。逆を言えば、前作までが好きな方には本作は不評だろう。ほとんど違うシリーズかと思うほどに、本作にはブラックジョークが影を潜めて真面目なテーマが描かれている。いわゆる「戦争映画」であり「反戦映画」になっているのだ。しかもマシュー・ボーン監督が2011年「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」でもやっていた、「史実の裏にはヒーローの存在があった」という手法が本作にも取り入れられており、これが見事な作劇上の効果を生んでいる。ちなみに「ファースト・ジェネレーション」で「プロフェッサーX」率いる「X-MEN」たちが救ったのは、「キューバ危機」と呼ばれる1962年のアメリカとソ連の冷戦を背景としたミサイルを巡った争いであり、両国の判断で史実でも核戦争は回避されたが、作品内でもこの事件の裏ではX-MENたちが活躍していたというストーリーだった。そして本作「ファースト・エージェント」は、「第1次世界大戦」が作品の舞台となっている。

 

史実でも、オーストリアハンガリーの王位後継者であるフランツ・フェルディナンド大公を暗殺した、いわゆる「サラエボ事件」が起こり、それがきっかけで「第1次世界大戦」は始まるのだが、この作品ではこの暗殺を「羊飼い」と名乗る闇の教団が起こしたのだと語り、そのメンバーにはロシアの怪僧”ラスプーチン”や、フランスの女スパイであった”マタ・ハリ”、ソ連十月革命」の”レーニン”などが参加していたのだという大胆な設定が盛り込まれている。特にラスプーチンは、本作では唯一と言っていいほどに”キャラ立ち”した登場人物であり、主人公オーランドの足を舐めながら治すシーンや、毒入りのタルトをイッキ食いした後の嘔吐シーン、コサックダンスを取り入れたような格闘シーンなど彼の見所は特に多い。また覇権争いをしていた上に”いとこ同士”で似ていたと言われる、イギリス国王ジョージ5世/ロシア皇帝ニコライ2世/ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世という三役を、トム・ホランダーが一人で演じていたのも、スタンリー・キューブリック監督の「博士の異常な愛情」で、ピーター・セラーズが一人四役で狂人たちを演じていたのを思い出す。”戦争を引き起こす公人”という意味では、何かインスパイアがあるのかもしれない。

 

そして本作を「反戦映画」たらしめているのは、レイフ・ファインズ演じる父オーランドとハリス・ディキンソン演じる息子コンラッドの関係性が、しっかりと描かれているからだろう。ここからネタバレになるが、冒頭シーンで南アフリカの地で妻エミリーが銃弾によって倒れ、「もう息子に戦争を見せないで」という遺言を聞いたオーランドは、平和主義者となり活動する。だが成長した息子コンラッドは正義感の強さから、兵役を全うして戦場で戦う事こそが”勇敢さ”であると父に訴え、戦地から遠ざけたい父と反発し、彼は入隊してしまう。だが実際に赴いた西部戦線はまさに”地獄のような場所”であり、コンラッドは初めて父の言葉の意味を知る事になる。そしてその直後にコンラッドは「ドイツのスパイだ」と疑われ、味方の銃弾によって死ぬことになるのだ。そして、それを聞いた父オーランドは嘆き悲しむ。酒に溺れ英国紳士であることも忘れて、自分を見失ってしまうのだ。

 

この一連のシーンはレイフ・ファインズの演技が素晴らしく、まるで重厚なヒューマンドラマを観ているような気になる。彼の”息子を失った哀しみ”が非常に伝わってくるのである。またコンラッドが戦うことになる西部戦線の場面も、優れた撮影技術と演出、そしてライティング効果などで、ほとんどサム・メンデス監督「1917 命をかけた伝令」のようなリアルな戦場描写となっている。特に夜の場面で銃声が聞こえると敵味方関係なく撃たれてしまうために、お互いナイフで戦闘するシーンは素晴らしい。マシュー・ボーン監督も「アラビアのロレンス」「ドクトル・ジバゴ」などの壮大な歴史アドベンチャーを作りたかったと応えているが、これらが総合的に組み合わさって観客には戦場の悲惨さが感じられ、反戦メッセージが伝わる作品になっている。だからこそこの後で、オックスフォードが哀しみを乗り越え、髭を剃り身だしなみを整えることにより、「自分のやるべき事」に目覚めるシーンには胸が熱くなる。アメリカを介入される事で戦争を止めさせようと動くのだ。こういうシーンがあるだけで、大幅に主人公への感情移入が大きくなる。

 

とはいえ終盤は、いつものキングスマンらしいアクションシーンも用意されていて楽しい。さすがに59歳のレイフ・ファインズがあれほどのアクションしているのは無理があるので、かなりの割合でスタントマンが担当しているのだとは解りつつも、断崖絶壁のアジトで繰り広げられる一連のシークエンスは流石のクオリティだ。いつもの破天荒なスパイガジェットの数々も本作では抑えがちだが、これくらいの方が逆に本作のトーンには合っていると思う。さすがに頭に銃弾を撃ち込まれても”特殊キット”で処置すれば生き返れるという、前作のようなトーンでは本作の渋い演出の数々が台無しになってしまうからだ。とは言いつつ、冒頭で「動物は俺を裏切らない」と豪語し動物虐待していた大ボス「羊飼い」が、突進してきたヤギにトドメを刺されるという展開などは、なかなか気が利いていて面白い。

 

それにしても前作「ゴールデン・サークル」では、悪役であるジュリアン・ムーア演じる麻薬王ポピーが入れた、”毒入りドラッグ”で死にかけている国民を檻に入れて、「これでアメリカ内のドラッグ中毒者を一掃出来る」と見殺しにする、最悪のアメリカ大統領を描いていたが、「ファースト・エージェント」でのウィルソン大統領の扱いも本当に酷い。会議中にはいつも「ステイツマンを持ってこい」とウィスキーを飲みながら、マタ・ハリという悪女のハニートラップに引っかかり、その様子を撮影された為に世界大戦に介入することが出来ないという最低なアメリカ大統領を描いており、これはもはやイギリス生まれのマシュー・ボーンならではの悪意なのだろうかと勘ぐってしまうほどで、このあたりの毒っ気は健在だ。

 

エグジーとハリーが主人公を演じる第4作目の「キングスマン」もすでに製作が決定しており、シリーズはますます拡大していくようだが、この「ファースト・エージェント」時系列の物語もぜひ続けてほしいと思う。ラストにはオックスフォードやリード伍長、ポリーやショーラ、ジョージ5世らが初代キングスマンとして結成されたと同時に、ドイツのエリック・ヤン・ハヌッセンの元にレーニンアドルフ・ヒトラーが参加して、新たなる「闇の教団」が出来たことが示され、なんとも面白そうな展開で本作は幕を閉じる。この設定を続けないのはもったいない。とにかく今作は、前作までの「007」オマージュ満載の楽しいだけのスパイ映画とはまったく違うコンセプトで作られた、優れたメッセージを持ったアクション映画になっていたと思う。新年一発目の映画として、幸先の良いスタートである。

7.5点(10点満点)

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