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映画「ノイズ(2022年日本映画)」ネタバレ考察&解説 特に後半はネジが緩くなるサスペンス!しかも、オチはかなりの〇〇なのでご注意を!

「ノイズ(2022年日本映画)」を観た。

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「予告犯」や「マンホール」で有名な筒井哲也の同名コミックを、「デスノート」シリーズ以来15年ぶりに共演する藤原竜也松山ケンイチのW主演で、実写映画化したサスペンス。共演は神木隆之介黒木華永瀬正敏伊藤歩余貴美子など豪華キャストだ。監督は「ストロボ・エッジ」「ここは退屈迎えに来て」「彼女」などの廣木隆一。本作が初めて手掛けたサスペンスジャンルの作品らしい。サスペンス映画は大好物なので、「殺す。埋める。バレたら終わり。」というキャッチコピーにつられて、久しぶりに邦画を劇場で鑑賞。最近鑑賞した邦画作品を思い出すと、「鳩の撃退法」や「BLUE ブルー」だったりするので、藤原竜也松山ケンイチは結構好きな役者なのかもしれない。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。


監督:廣木隆一

出演:藤原竜也松山ケンイチ神木隆之介黒木華永瀬正敏余貴美子

日本公開:2022年

 

あらすじ

時代に取り残され過疎化に苦しむ孤島・猪狩島。島の青年・泉圭太が生産を始めた黒イチジクが高く評価されたことで、島には地方創生推進特別交付金5億円の支給がほぼ決まり、島民たちに希望の兆しが見えていた。しかし、小御坂睦雄という男の登場によって、島の平和な日常が一変する。圭太の娘の失踪をきっかけとして、圭太と幼なじみの田辺純、新米警察官の守屋真一郎の3人は小御坂を追い詰めていくが、そのまま誤って小御坂を殺してしまう。3人はこの殺人を隠すことを決意するが、実は小御坂は元受刑者のサイコキラーであり、小御坂の足取りを追って警察がやってきたことで静かな島は騒然し、3人は法の手に追い詰められていく。

 

 

感想&解説

なんだがジャンルが定まらずに、フワフワとした印象の映画だ。そして、その印象は最後まで続く。冒頭はシリアスなサスペンス映画だと思いながら観ていると、突然「余貴美子」が演じる町長がまったくリアリティのないテンションで演技しだすのを観て、「あれ?もしやこれは、ブラックコメディなのか?」と思っていると、別の場面では「神木隆之介」がやたらと長い独白で泣かせの演技をする。作品のトーンが一定じゃないので、観ていてなんだか落ち着かないのである。演出面でも、島に来る”元受刑者”の演技レベルが、「ここまで完全に狂ってるのに、なんで世間に出てこれてるの?まだ精神病院にいなきゃダメでしょ」と思うくらいの狂人ぶりなのもいきなり違和感だし、「そこ、いきなり刑事が一般人に銃を突きつけるか?」とか「さすがに島の駐在がたった一人だけってことはないでしょ。休めないじゃん」とか、「本部の方針を無視して、これだけずっと島に滞在する刑事って?」とか、色々とアラが目立つ。まったく観ていられないという訳ではないが、”要所要所のネジが緩い”という感じで、惜しい作品だと感じるのだ。

とはいえ、漫画が原作だというストーリーの骨格は興味深い。島外からやってきた”元受刑者”を誤って殺してしまった、島で育った3人の男たち。特に藤原竜也が演じる、「圭太」は”黒イチジク”というこの島で獲れる果物で、過疎化した島を復興させるべく頑張っていた矢先だった。島の町民や女性町長はこの圭太の町興しに期待しており、まるでヒーロー扱いだ。そんな圭太と家族をいつも近くで見守る親友の松山ケンイチ演じる「純」と、神木隆之介が演じる新米警察官の「真一郎」の3人が、死体を隠すべく右往左往するのだが、島に渡ったまま行方不明になった”元受刑者”を探すべく愛知県警の刑事二人がやってきて、捜査が始まってしまうのが序盤の展開だ。ここからネタバレになるが、そこから死体を隠すのに四苦八苦していた3人の元に、女町長が乗り込んできて、警官である真一郎がすべての罪を被れば島は安泰だと、完全におかしなテンションで告げたところを、柄本明演じる老人が彼女を襲い、結果的に死体が増えてしまう。ここから他の町民も巻き込みながら、「死体を隠しとおせるか?」という刑事との攻防が描かれるのである。


この過疎化した島民たちの排他的な考え方と刑事との対立や、生まれ育った島を守るためという目的の為にどこまで犠牲を払えるのか?、特に新米警察官の真一郎の”職業的な正義とは?”など、映画的にかなり面白くなりそうなテーマで、特に冒頭はかなり期待が膨らむ。ただ、残念ながら本作はこれらのテーマに中途半端にしか踏み込まない。イノシシを車で轢いた町民を見逃した先輩警官に対して、「報告しなくていいんですか?」と聞いていた真一郎は、冒頭は極めて真っ当な警察官に見える。ところが「警官は町民の”かさぶた”になれ」という先輩の言葉を聞いた途端に、「(殺人を)なかったことにしましょう」と彼が言い出した時は、さすがに劇場で「嘘だろ」と声が出そうになった。他の二人が死体を隠蔽しようとするのを、警察官である彼が止めるが「島のためなんだ」と強引に説得されて、見て見ない振りをするという位の流れでないと”新米警察官”という設定が生きてこないし、彼の気持ちの動きがあまりに唐突に感じる。


その真一郎が銃で自殺するシーンも、"演出"が上手くない。今までの流れを観ている観客にとって、真一郎が圭太と純を裏切るはずがないと解っているので、彼の動画による独白シーンで「この事件の犯人は」でカットを切るのも意味がないし、永瀬正敏演じる刑事が「お前らのことも喋ったぞ」というブラフも嘘だとすぐに解る。その割には真一郎の「独り語」は長々と続き、神木隆之介の演技力は素晴らしいと思うが、残念ながら退屈なシーンになっている。これはラストにも同じことが言えて、あの終盤の段階で”死体の埋まっている場所”を知っているのは、それを提案した”純”しかいない。だから、町長の携帯から「犯人は圭太だ」というメールが送られたときに、おそらくほとんどの観客は純の仕業だと感じると思うのだが、結果的に本当にその通りの展開になる。だから、ビニールハウスで繰り広げられる長尺ワンカットで撮影されている、「俺が自首する」「いや、俺が自首する」のやり取りも、役者が熱演だけに正直言って非常に胸糞が悪い。しかも今まで親友として接してきた男を陥れた理由が、奥さんへの横恋慕と名声への嫉妬とは、これもあまりに理由としてショボすぎる。

 


そもそも”純”がどの段階で、この計画を思いついて実行に移していたのか?も良く解らない。そして死体を隠し通すよりも、圭太に罪を被せることの方が優先順位が高かったということだと思うが、そもそも町長をスコップで殺したのは”純”なのだ。圭太は逮捕されても、島のためにそして妻子の為に絶対に、純の犯罪について口を割らないと思っての行動だと思うが、その考え方も気分が悪い。本作は”友情や善意”をすべて裏切る最低男の犯行なので、近年まれに見る「胸糞映画」になっているのだ。さらに過度にウェットなシーンも多く、最後の留置所で泣きあう夫婦のシーンと泣きながら廊下を歩く藤原竜也のシーンも全て要らないと思う。本作はもっとドライで不謹慎な”サイコサスペンス”的な演出に振り切った方が、むしろこの胸糞オチが活きた気がする。女町長のテンションでブラックジョーク満載な作風なら、逆にもっと面白い映画になった気がするのだ。


この作品からのメッセ―ジは、「どれだけ親しい間柄でも、人間は信用できない」という悪意に満ちたものだ。劇中の島外から来た登場人物の多くが、圭太が育てる「黒イチジク」を割ると、「グロい、気持ち悪い」とコメントする。中を割ってしまえば、グロテスクで気持ち悪い感情を持っている、これは”人間”そのものだという意味だろう。「ミスト」や「セブン」といった、いわゆる「胸糞映画」と言われる作品は多いが、本作は腹が立つ類で、原作は未読でどうやらオチは変更されているらしいが、個人的には非常に後味の悪い作品だった。ただ豪華な役者陣だけは見応えがあって良かった。特に余貴美子は、完全に本作にとっては「異質」な存在感を発揮しており印象に残る。あと、上演時間は128分なのだが冗長なシーンも多い為、特に後半を中心に20分くらいカットできる気がする。全く面白くない訳でもないし見所もあるのだが、全体的にボンヤリした出来の「惜しい」作品だった。

5.5点(10点満点)