「ゴーストバスターズ アフターライフ」を観た。
アイバン・ライトマンが監督し、ビル・マーレイやダン・エイクロイド、ハロルド・ライミスといった大スターを生んだ1984年のSFコメディ「ゴーストバスターズ1~2」の続編であり、アイバン・ライトマンの息子であるジェイソン・ライトマンがメガホンを取ったことでも大きな話題となった、「ゴーストバスターズ アフターライフ」が公開となった。ちなみに2016年にはポール・フェイグが監督し、メリッサ・マッカーシーやクリステン・ウィグが出演した「女性版ゴーストバスターズ」も公開されたのだが、なぜか今では無かったことにされている。出演は「gifted ギフテッド」のマッケンナ・グレイス、「IT イット“それ”が見えたら、終わり。」のフィン・ウルフハード、「アントマン」のポール・ラッドなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。
監督:ジェイソン・ライトマン
出演:マッケンナ・グレイス、フィン・ウルフハード、ポール・ラッド、キャリー・クーン
日本公開:2022年
あらすじ
少女フィービーは母や兄とともに、祖父が遺した田舎の古い屋敷に引っ越して来る。この街では30年間にわたり、原因不明の地震が頻発していた。ある日フィービーは地下研究室でハイテク装備の数々を発見し、祖父がかつてニューヨークを救ったゴーストバスターズの一員だったことを知る。そんな中、フィービーは床下にあった装置「ゴーストトラップ」を誤って開封してしまう。すると不気味な緑色の光が解き放たれ、さらなる異変が街を襲いはじめる。
パンフレット
価格880円、表1表4込みで全28p構成。
大型オールカラー。パンフレットとしては読み物が多く、読み応えがある。マッケンナ・グレイス、フィン・ウルフハードなどキャスト陣のインタビュー、ジェイソン・ライトマン監督のインタビュー、映画評論家の尾崎一男氏、相馬学氏のレビュー、プロダクションノートなどが掲載されている。
感想&解説
今回の最新作を観る前に、久しぶりに「ゴーストバスターズ1~2」をブルーレイで観たのだが、あえて誤解を恐れずに言うなら、決して欠点のない”完璧な映画”ではないと思う。1984年の一作目はテレビで、1989年に二作目は劇場に観に行ったと思うが、ストーリー自体の弱さは否めないし、当時はそれほど気に入った作品ではなかった。ただ、ビル・マーレイやダン・エイクロイド、ハロルド・ライミス、シガニー・ウィーヴァーといった、キャスト陣のケミストリーは素晴らしく、さらに”マシュマロマン”という映画史に残る偉大なキャラクターを生んだことで、今でも”ポップアイコン”として愛されているのは十分に理解できるし、アイバン・ライトマン監督のコメディセンスも光っていた。特に本国アメリカでは今でも熱狂的なファンが多いらしい。そういう意味では”80年代”だからこそ、あれだけ評価された作品なのだと思う。
2016年には「ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン」のポール・フェイグが監督し、メリッサ・マッカーシーやクリステン・ウィグが出演した、「女性リブート版ゴーストバスターズ」が公開されたが、残念ながらあまり評判が良くなく、しかも興行収益も期待したよりは振るわない結果で、本国の「ゴーストバスターズ アルティメットコレクション」というパッケージ商品には、2016年の本作だけが含まれていないことが発覚するなど物議を醸している作品だ。ただ個人的にはかなり好きな映画で、特にコメディ映画としてとても楽しく、劇場で声をあげて笑った記憶のある作品なのだが、やはり科学者が街に徘徊するゴーストを捕獲し、退治するという”テーマ”自体がもう古いと感じられたのかもしれない。このリブートもストーリーの展開としては、「負け犬科学者たちが一念発起して、幽霊を退治することにより街を救う」という、アイバン・ライトマン版を踏襲した作りだった為だ。
そこで本作「アフターライフ」がいよいよ公開となったのだが、一番の話題はやはりアイバン・ライトマンの息子であるジェイソン・ライトマンが監督したということだろう。ジェイソン・ライトマンと言えば、エレン・ペイジ主演の「JUNO/ジュノ」、ジョージ・クルーニー主演の「マイレージ、マイライフ」、シャーリーズ・セロン主演の「ヤング≒アダルト」「タリーと私の秘密の時間」、ヒュー・ジャックマン主演の「フロントランナー」と、監督作のどれもが優れたヒューマンドラマに仕上がっており、”人間の弱さと葛藤”がしっかりと描ける名監督だと思う。そのジェイソン・ライトマンが父親の跡を継ぎ、今までのフィルモグラフィにはない「大作フランチャイズ」をどう仕上げるのか?と期待して鑑賞したのだが、これがまさに「ジェイソン・ライトマン版ゴーストバスターズ」としか言いようのない映画になっていて驚かされる。過去シリーズにあった”コメディ色”はかなり控えめで、その分かなり”エモーショナル”なゴーストバスターズになっているのだ。しかも「ストーリーが面白くない」というウイークポイントさえ、しっかりと父親アイバン・ライトマン版譲りなのである。
主人公は12歳の少女フィービー。彼女は科学をこよなく愛しているのだが、トレヴァーという15歳の兄は普通の青年だし、母親は科学アレルギー。さらに離婚した父は「ただのダメ亭主」で、彼女は家族の中では浮いた存在だった。そんなフィービーとトレヴァーと母親の三人が、”サマーヴィル”という郊外にある死んだ祖父の家に引っ越してきたことをきっかけに、兄妹は祖父が”ゴーストバスターズ”の一員であったことを知り、彼が残した研究所からプロトンパックなどのガジェットの数々を発見する。さらにこの郊外の街で頻繁に起こる地震が、ゴーストの仕業だと突き止めたフィービーと少年ポッドキャストらは、なぜ祖父のイゴン・スペングラーはかつての仲間や娘を捨てて、孤独にこの場所にいたのか?を知ることになる。ここからネタバレになるが、イゴンはサマーヴィルにある鉱山で、封印していたゴーザが世界を破壊しようと復活を企んでいることを知り、自分の人生を犠牲にしてゴーザの復活を阻止していたのだった。そして、彼らは”新ゴーストバスターズ”として、ついに蘇ってしまった破壊神ゴーザと対決することになる、というのがおおよそのストーリー概要だ。
旧作でイゴン・スペングラー博士を演じたハロルド・ライミスは、2014年に亡くなっているのだが、本作は作り手からの彼への愛が溢れた作品だと思う。特に後半の20分の展開は「ゴーストバスターズ」のファンであればあるほど、感激するだろう。ビル・マーレイやダン・エイクロイド、アーニー・ハドソンの再登場は想定内だったが、まさかハロルド・ライミスがCGで復活するとは思わなかった。そして、孫たちであるフィービーと共に宿敵ゴーザと戦うという展開になる。このあたりの演出は「アクションとして手に汗握る展開」というよりは、明らかにもう実際には亡くなっているハロルド・ライミスが、年老いたビル・マーレイやダン・エイクロイドと共に、あの”ゴーストバスターズ”として一緒に戦う姿を観ることで泣けるように設計されている。ハロルド・ライミスとキャリー・クーン演じる母親が泣きながら抱き合うシーンは、スタッフやファンから彼への”別れ”を観ているようなシーンになっており、思わず涙腺が緩んだ。「ゴーストバスターズ」の最新作は、まるでハロルド・ライミスと「ゴーストバスターズ」そのものへの告別式のような作品なのである。
本作にはエンドクレジット中に、二種類の映像が用意されている。なんと前作のヒロインだったシガニー・ウィーヴァーが登場し、「1」で行っていたカード当ての実験をビル・マーレイとやるというファンサービスのシーンと、アーニー・ハドソン演じるウィンストンと、アニー・ポッツ演じるジャニーンの会話シーンだ。特に後者には、作り手の強いメッセージが込められていると感じた。ビジネスマンとして大成功したウィンストンは、こういうセリフを語る。「私はビジネスマンだが、同時に永遠にゴーストバスターズなんだ。」これは世界中に存在するファンの気持ちを代弁したセリフだと思う。「ゴーストバスターズ」のファンは、「自分もあの仲間に入りたい」という気持ちを持っている。彼ら観客は皆サラリーマンだったりサービス業だったり、あるいは学生だったりするのだろうが、心の中に存在する”自分もゴーストバスターズの一員なんだ”という気持ちを、上手に表現してくれた名セリフだった。こういう場面からも、本当に最後までファンのためにある作品だと感じる。
繰り返しになるが、演出やストーリーの出来としては、正直それほど褒められた作品ではないと思う。ただ、完全に「ゴーストバスターズ」ファンのために作られた映画であり、作り手の愛を強く感じるのは事実だ。特に家族がテーマになった作品だけに、ジェイソン・ライトマンが父親アイバン・ライトマン最大のヒット作の続編を作るということで、様々な感情があったのだろうと想像できる。マシュマロマンもややあざとい位に可愛くなって登場するし、過去作のオマージュシーンもところどころに出てきてニヤリとさせられる。そういう意味で、少なくとも「ゴーストバスターズ」の最後の作品としては、しっかり役割を果たした映画だろう。もうこれ以上の続編は必要ないし、おそらく作られないと思う。やはり本シリーズはビル・マーレイ、ダン・エイクロイド、ハロルド・ライミスの三人がいてはじめて成り立つシリーズだと本作が証明してしまったからだ。本作を楽しむためにはもう一度「1~2」を観返して、気持ちを高めてから劇場に向かうのがオススメである。
6.5点(10点満点)
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