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映画「ベルファスト」ネタバレ感想&解説 とにかくセリフと演出が素晴らしい!ウェルメイドな傑作ドラマ!

ベルファスト」を観た。

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ハリー・ポッターと秘密の部屋」「ダンケルク」「TENET テネット」などで俳優として活躍する一方、監督としても「マイティ・ソー」「シンデレラ」「ナイル殺人事件」などの作品を発表し、世界的に活躍しているケネス・ブラナーの自伝的作品。第79回ゴールデングローブ賞では「最優秀脚本賞」を受賞した他、第94回アカデミー賞でも作品賞・監督賞ほか計7部門にノミネートされており、今年のアカデミー作品賞の本命と評されている。1969年の北アイルランドベルファストを舞台に、9歳の少年とその家族の生活をモノクロの映像で力強く描いた作品で、音楽もベルファルト出身のシンガソングライターのヴァン・モリソンが担当している。主演は本作が長編デビュー作となるジュード・ヒル、共演は「グランド・イリュージョン」「フォードvsフェラーリ」のカトリーナ・バルフ、「恋におちたシェイクスピア」「007 スカイフォールジュディ・デンチ、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」のジェイミー・ドーナン、「ミュンヘン」「裏切りのサーカス」のキアラン・ハインズなど。今回もネタバレありで感想を書いていきたい。

 

監督:ケネス・ブラナー
出演:ジュード・ヒルカトリーナ・バルフ、ジュディ・デンチジェイミー・ドーナンキアラン・ハインズ
日本公開:2022年

 

あらすじ

ベルファストで生まれ育った9歳の少年バディは、家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごしていた。笑顔と愛に包まれた日常はバディにとって完璧な世界だった。しかし、1969年8月15日、プロテスタント武装集団がカトリック住民への攻撃を始め、穏やかだったバディの世界は突如として悪夢へと変わってしまう。住民すべてが顔なじみで、ひとつの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断され、暴力と隣り合わせの日々の中で、バディと家族たちも故郷を離れるか否かの決断を迫られる。

 

パンフレット

価格880円、表1表4込みで全28p構成。

A4オールカラー。全て黄色とモノクロで表現されており、紙質も含めてクオリティ高い。キャスト陣のインタビュー、ケネス・ブラナー監督のインタビュー、大学教授の佐藤泰人、映画評論家の大森さわこ氏、稲垣貴俊氏のレビュー、プロダクションノートなどが掲載されている。

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感想&解説

「愛すべき小品」という言葉がぴったりなウェルメイドな傑作だ。監督/脚本を務めたケネス・ブラナーも「とてもパーソナルな作品だ。私が愛した場所、愛した人たちの物語だ。」とコメントしている通り、監督の故郷である「ベルファスト」を舞台に、自身の幼少期の体験をベースに脚本化した作品らしい。冒頭は現在のベルファストの街並みをカラーで描きながら、そのままシームレスに画面は1969年に移行し、それと同時に色合いがモノクロになる。そこからこの街の住民同士がほとんど顔見知りで、大人も子供も仲の良いコミュニティを形成していること、そして主人公の少年バディもそこで天真爛漫に生きていることが表現される。すると突然、プロテスタント武装集団がカトリック教徒を追放するために、暴徒と化して住民を襲ってくるというショッキングな場面となっていく。どうやらプロテスタントは宗教観の違いから、カトリックを迫害していることが描かれるのである。

この序盤のシーン、バディ少年が遊びの「チャンバラごっこ」のために”木製の剣”と”ゴミ箱の蓋の盾” を持っていて、「ドラゴンと戦ったんだ」というセリフがあるのだが、その直後には実際の武装集団が放つ”石”からバディと母親を守る、文字通りの「盾」となる展開になり、冒頭の牧歌的な空気が壊される。火炎瓶が投げ込まれ、家の窓ガラスは割られ、車はガソリンに引火し大爆発するなど、いきなり少年と母親は不条理な暴力の中に投げ込まれるのだ。この「静から動」のコントラストが見事な上に計算され尽くしたカメラワークと相まって、この冒頭のシークエンスは本当に素晴らしい。少年の無邪気な生活が、大人たちの暴動によって壊されるという”暴力性”がうまく表現されているのだ。おそらく市井の人々にとって、戦争が始まる時はこういうものなのだろう。

 

この後、本作は主人公である9歳の少年バディと父母、兄、祖母、祖父といった彼の家族の日常を描くことで進行していく。「オール・アバウト・マイ・マザー」などで有名なスペインの監督ペドロ・アルモドバルが、2020年に公開した「ペイン・アンド・グローリー」で取り入れた”自伝フィクション”という手法に感銘を受けたケネス・ブラナーが、自身の少年時代に近い架空の人物として設定したという主人公である少年の視点を通して、世界が描かれていくのである。それにしても、キャサリンという初恋の女の子との甘酸っぱいやり取りや、兄とテレビを観ている時の表情など、バディを演じているジュード・ヒルという子役が本当に愛らしい。本作が長編デビュー作らしいが、よくこんな自然な演技ができる子役を見つけてきたものだと感心してしまう。スティーブン・スピルバーグ監督のように、子役を魅力的に撮れる監督は名匠だと聞くが、ケネス・ブラナーも本作でその仲間入りを果たしたと思う。

 

 

そして本作をさらに魅力的にしているキャラクターとしては、キアラン・ハインズが演じる祖父ポップと、ジュディ・デンチ演じる祖母グラニーだ。特にバディが初恋について祖父ポップに聞くシーンで、「ただ愛する事だ」と二人でダンスするシーンや、ポップが病院に行くシーンで「二人でバスに乗って帰ってくるのよ」とグラニーが念押しする場面など、とにかくこの2人の間には愛が溢れている。また祖父ポップがバディに「お前なら大丈夫だ。自信を持て。近所の人も皆、友達だし母さんも父さんも皆お前の味方だ。お前がどこに行こうとそれは一生変わらん」と語るシーンには、思わず胸が熱くなる。またカトリーナ・バルフとジェイミー・ドーナンが演じている母と父も生活は苦しいが、本当に家族のことを大事にしている夫婦で、混乱の時代にも関わらずしっかりした倫理観を持ち続けているのも良い。バディが洗剤を盗んでくるシーンでの母の言動などからもそれが伝わってくるし、移住することになったバディがキャサリンに花束を渡し、父親に「あの子と結婚できるかな?」と聞いたあとのセリフも素晴らしい。彼らにとって宗教は世界を隔てるものではないのである。

 

それから本作は、何と言っても”映画館のシーン”が忘れがたい。バディはケネス・ブラナーの分身だけに映画が好きだ。彼が家族と「恐竜100万年」や「チキ・チキ・バン・バン」の映画を観る時、またバディとグラニーが舞台「クリスマス・キャロル」を観る時も、映画館のスクリーンや舞台の役者たちはカラーに色付く。だが、テレビで西部劇を観ているときはモニターの中はモノクロのままだ。これはケネス・ブラナーは映画監督として活躍する前、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに入団し、多くの舞台に立ってきたという経歴を持っていることから、"演劇と映画"は特別だという感情の現れなのかもしれない。幼いケネス・ブラナーにとって、スクリーンの中のエンターテイメントは、リアルな世界よりも魅力的にカラフルに色付いて見えたのであろう。映画ファンにとって、家族5人で映画を観ているシーンの多幸感は気持ちがわかるだけに感情移入できる良い場面だったし、個人的には「ニュー・シネマ・パラダイス」を思い出す名シーンだった。

 

音楽はベルファスト出身のヴァン・モリソンが担当しており、本作にぴったりの楽曲を提供している。ヴァン・モリソンは元々ブルーアイド・ソウルのグループとして人気を博した「ゼム」のボーカリストだったが、その後にソロに転向してアメリカに渡り、「ムーンダンス」「セント・ドミニクの予言」を始め数々の名盤を残しているアーティストだ。日本ではそれほど知名度は高くないかもしれないが、活動キャリアも長く、作品もジャズやソウル、フォークといった様々なジャンルを取り入れた作風で、本作でもオープニングソングであり書き下ろしの新曲でもある「Down To Joy」から、「Jakie Wilson Said」「Days Like This」など、名曲の数々を披露している。ヴァン・モリソンの曲が本作の魅力を引き上げているのは間違いないだろう。

 

結論、ケネス・ブラナー監督作品の中ではもっとも好きな作品になった本作。今、世界に必要なのは劇中のセリフにあるように「優しくフェアで、お互いを尊敬し合うこと」なのだと思う。ストーリー展開に特別な起伏がある訳ではないが、98分の上映時間が退屈することはない。ただ深刻なだけではなくコミカルな面も多々あるし、堅苦しい映画ではないのもいい。まるで知人の子供時代のアルバムを観ているような気分になる作品で、とても美しい映画だった。第94回アカデミー賞での作品賞・監督賞ほか計7部門ノミネートの結果が、今から楽しみだ。

8.0点(10点満点)


エッセンシャル・ヴァン・モリソン